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3巻
3-3
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「ジャ、ジャビロッ!? バカなっ! おのれ小僧っ……!」
一瞬オレを見失っていたギーグだったが、上空に打ち上げられたジャビロを見て、オレの居場所に気付く。そして一気に接近してオレに殴りかかるが、それを軽く躱して、同じようにアッパーカットで打ち上げる。
「がああああっ」
ジャビロより耐久力がなさそうなギーグはもう少し手加減してやったが、それでもひょっとしたら首の骨が折れたかもしれない。
まあ腐ってもSランクの拳闘士だし、この程度なら命に別条はないだろう。
「ジャビロ、ギーグ!? こ……これはどういうことだっ!? いったい何が起こっている!?」
瞬く間にジャビロとギーグがやられ、遠距離から攻撃していた後衛の三人――トト、ブルゲン、エリナスが驚きの声を上げる。状況自体、よく理解してないようだ。
前衛二人を倒したオレは、後方の三人に向かって走り出す。
「くそっ、何をしたか知らんが、矢の集中砲火を浴びせてやる!」
「ジャビロたちを巻き込む心配がなければ、魔法も思い切り撃てるというもの。小僧っ、オレの本気の魔法を喰らうがいい!」
近付きつつあるオレに向かって、トトとブルゲンが全力で矢と魔法を放ってきた。
ジャビロたちがオレのそばにいないから、遠慮なく高火力の攻撃を仕掛けてきているようだ。
しかしオレは、その攻撃がこちらに届く前に、最強の暗殺者『虚身』からコピーしたギフト『闇神』を発動して自分の存在をこの世界から消す。
「こ、小僧が消えたっ!? 隠れるところなど何もないのに!?」
「た……探知魔法でも見つけられぬだと!? あ、ありえんっ、いったいどこに行ったのだ!?」
後衛の三人のほか、見物している冒険者たちもこの謎の現象にざわついている。
オレは消えたままトトとブルゲンに近付き、力を抑えつつ高速の連打でそれぞれパンチを打ち込む。後衛は耐久力が貧弱なので、強烈な一撃は使わず、手数でダメージを与えることにしたのだ。
これくらい手加減してしまうと、頑丈なジャビロたちにはなかなか致命的なダメージを与えられないが、後衛のヤツらなら充分効くだろう。
「あがががごぶっ」
「ぶぎゃあああっ」
「トト、ブルゲンっ……!」
トトとブルゲンが吹っ飛んで気絶したところで、オレは『闇神』の能力を解除して姿を現す。
そして呆然と佇むエリナスのもとに、悠々と近付いていく。
神官であるエリナスは、基本的には攻撃手段を持っていない。そのため、すでに決着はついている状態だが、オレは構わずにエリナスに対して攻撃の姿勢を取り続ける。
「な……なんでFランクがこんな……!? ま、待て、降参だ、オレたちの負けを認める!」
エリナスは恐怖の表情で、両手を顔の高さまで上げながら降伏宣言をした。これで本来ならバトルは終了だが、さんざんルールを破っておきながら、素直に許すのも少々しゃくだな。
「ずいぶん勝手な態度だな。オレを本気で殺そうとしたことは、ジャビロから聞いて知ってる。オレを殺しに来た以上、お前たちも殺される覚悟があるんだよな?」
オレは腰の剣を抜いたあと、恐怖で相手の戦意を奪うスキル『威圧』を発動して、エリナスをさらに追い込む。強烈な『威圧』を喰らったエリナスは、今にも崩れ落ちそうなくらい膝をガクガクと震わせながら怯え出す。
「ま、待て、待ってくれっ! 殺す気なんてなかった、ホントだ。た、頼む、助けてくれ……!」
かすれた声で命乞いをするエリナス。
それを無視して、オレはゆっくり剣を振り上げたあと、エリナスに向かって振り下ろした。
「ひいいい~っ!」
剣がエリナスの顔に触れる前に寸止めしたが、エリナスはあまりの恐怖に気絶してしまった。
「フォーレント、これで今度こそ文句ないな?」
無事戦闘が終わったところで、フィールドのすぐ外で戦いを見ていたギルド長フォーレントに声をかけた。
特に煽るようなつもりもなく、ただ普通の口調で言っただけなんだが、よく見てみるとフォーレントの様子がいつも以上におかしいことに気付く。血の気が引いた顔で呆然としていて、オレの言葉も届いてないような状態だ。
「な……なんだこの異常な強さは!? こ、こんな怪物、いったいどうやって殺せば…………」
「マスターさすがですわ! さあ勝利の口づけをどうぞ! ほら、遠慮しないでくださいませ!」
「よ、よせっレム! ひっつくなって!」
レムが歓喜しながら猛ダッシュでオレのもとに飛び込んできた。
ああもうっ、今フォーレントが何か呟いてたけど、レムのせいで聞き取れなかったじゃないか!
レムは無理やりキスしようと、スゲー怪力でオレにしがみついて顔を近付けてくる。
なんつー力だ、普通の人間だと死ぬレベルだぞ!
「いいかげんにしろ!」
まったく言うことを聞かないレムに対し、ゴチンッと頭をゲンコツで叩く。
女性に暴力を振るいたくないが、レムはゴーレムだからな。と思ったところで……
「イッテエエエエエッ!!」
殴ったオレの手が逆に痛くて、思わず叫んでしまった。
レムの頭部は皮膚も薄いうえ、オレは『身体硬化』も『物理無効』も発動してなかったので、生身の状態でアダマンタイトを殴ったのと同じだ。運悪く拳の骨にジャストヒットしたらしく、あまりの硬さにビリビリと痺れたほど。
頑丈なゴーレムだけに、つい強めに叩いたのが裏目に出ちまった。
一応、骨に異常はなさそうだが、オレは痛みが治まるように右拳をさする。こんなアホなことで回復薬を使いたくないぞ。
まあゴーレムとはいえ、アニスに似ているレムを叩こうとした罰かもしれない。
少々短慮だったことをオレは反省した。
「マスター、もしや今のは『ナデポ』というヤツですか? そんなことなさらなくても、ワタシはマスターにラブですのに」
「全然違うわっ!」
って、思わず本能で否定してしまったが、『ナデポ』ってなんだ?
オレのギフト『スマホ』が影響しているのか、レムはどうも変な知識を持ってるらしい。あとで『ナデポ』のことを検索しておこう。
とまあそれはさておき、オレは未だ気絶しているトトとブルゲンのところに駆け寄った。そしてエリクサーをこっそり出し、二人の喉にさっと流し込む。
同じように、離れた場所に倒れているジャビロとギーグに駆け寄り、エリクサーを飲ませた。
エリナスはただ気絶しているだけなので、治療はしなくても問題ない。
結構重傷だが、これで完治するだろう。万が一、状態が酷すぎて治せなかった部分があっても、『スマホ』の『被写体復元』機能を使えば、元通りの状態まで戻せる。
ほどなくして、ジャビロたちの意識が戻って起き上がった。
「ぐふっ、俺はいったい何を……くそっ、頭がクラクラしやがる。ああっ、お前はっ!?」
「……そうだ、オリャあFランクのガキにぶっ飛ばされたんだった!」
オレを見たジャビロとギーグは記憶も思い出したらしく、再び戦闘態勢を取る。だが、自分たちが負けたことは理解しているようで、怒りにまかせてオレを襲うようなことはなかった。
離れた場所にいたトトたちも、意識を取り戻してこの場に集まってきた。
「ぐ……ぎ……この小僧……」
「勝負はついた。もう無駄に争う必要はないだろ?」
オレの言葉に、ジャビロは悔しげに口をつぐむ。ほかのメンバーたちも、オレに対する敵意は消えてないみたいだが、さすがに戦う気力は残ってないようだ。
憮然とした表情で、彼らは無言のままフィールドをあとにする。
「どうなってんだよ? なんであのリュークがこんなに強くなってんだ!?」
「今の強さ、SSランク級だぞ!? もしかしてラスティオンよりも強いんじゃ……?」
「王都でいったい何があったんだ!?」
「それにしても『黒鷲の爪』のヤツら、あれほどやられたのにピンピンしてるなんて、やっぱSランクは丈夫だなあ」
野次馬に来ていた冒険者たちが、口々に驚きの言葉を出す。
想定外の事態になったが、いつまでも侮られたままだと調査隊での行動も制限されそうだったから、これくらい力を見せたほうがきっと動きやすくなる。
今後は「Fランクは引っ込んでろ」なんて言われないだろうし、結果オーライだ。
しかし、フォーレントのヤツがそこまでオレを恨んでいるとは思わなかったぜ。改めて考えてみると、アビスウオームの魔石を消しちゃったのは、さすがにまずかったかもしれない。
喜ばせるだけ喜ばせておいて、奈落の底に叩き落としちゃったからな。相当ショックだったのも頷ける。あとで適当な物でも贈って、機嫌を直してもらうとしよう。
こんな状態ではあるが、とりあえずオレたち調査隊はダンジョンに向かって出発した。
4.覇王の卵
十四時過ぎにゲスニクの街を出発して、すでに四時間。オレたち調査隊一行は、ゲスニク領の南方にあるダンジョンに向かって馬で移動している。
馬車ではなく、各自でそれぞれ馬に騎乗しているので、移動速度は馬車の三倍程度。出発が少し遅れてしまったため、辺りはだいぶ薄暗くなってしまったが、冒険者たちが言うにはあと一時間ほどで野営する場所に到着できるとのこと。
その頃にはすっかり暗くなってしまうが、まあこのメンバーなら問題ないだろう。
その野営地で一夜を過ごしたあと、馬を置いてそこからは徒歩でダンジョンに向かう。
一応、明日の昼頃にはダンジョンに着く予定だ。
調査隊メンバーの内訳は、四人組のAランクチームが四つと、五人組のAランクチームが二つ、ジャビロたち五人組のSランクチームが一つ、そしてオレとレムを含めた計三十三名。レム以外は全員男だ。
冒険者は元々男性のほうが比率が高いが、高ランク冒険者ともなると、さらに女性は少ないからな。まあレムも女性というわけではないが。
そのほか、オレたち調査隊以外にも、五人組のBランクが二チーム同行している。ただし彼らはダンジョンには入らず、オレたちがダンジョンにいる最中、待機している馬の世話を担当する。
「ブヒッ、ブヒヒヒンッ(おいリューク、何故この女はこんなに重いのだ!? ちょっとだけ疲れてきたぞ)」
王都一の駿馬であるタフなアレイオンが、少し息を荒くしながらオレに話しかけてきた。
実はアレイオンには、オレじゃなくてレムが乗っている。理由は、レムが重すぎて、普通の馬ではこの部隊の移動について来られないからだ。
レムは細身とはいえ、骨格が重いアダマンタイトでできているため、体重が二百キログラムくらいある。これでは、さすがのアレイオンでもちょっとキツいだろう。
むしろ、よくここまで追走できたと言えるくらいだ。伝説の名馬アレイオンを名乗るだけあって、プライドも高くやせ我慢しているみたいだが、そろそろ限界かもしれない。
「ブヒンブヒン(あともうちょっとで着くから頑張ってくれ)」
「ブヒヒン(ま、まあこれしきのこと、問題ないがな)」
「マスター、もしやこの馬、ワタシを重いと言っているのですか? まったく情けない駄馬ですね」
オレとアレイオンの会話を聞いていたレムは、そう言いながら呆れたような表情でアレイオンを見る。どうやら雰囲気で会話の内容を察したらしいが、それにしてもレム、ホントに口が悪いな……アレイオンは必死に頑張ってるというのに。
まあ今の言葉がアレイオンには分からなかったことが幸いだ。
ちなみに、レムが言ってた『ナデポ』という言葉を『スマホ』で検索してみたら、男性が女性の頭を撫でると女性がポッとほほを染めて男性に惚れることだと載っていた。
そんなの、この世界じゃ聞いたことないぞ。レムはなんでこんなこと知ってるんだ?
「おいリュークよ。そのレムちゃんって子、バーダンたちと組んでる『剣姫』アニス・メイナードにかなり似ている気がするんだが、彼女と何か関係あるのか?」
オレたちの会話をそばで聞いていた冒険者が、レムについて尋ねてきた。
長めの髪を首の後ろで結んでいる彼は五人組Aランクチームのリーダーで、名前はザックというらしい。とても気さくな性格をしていてメンバーの面倒見もよく、オレにも気軽に声をかけてくれている。
レムとアニスについては、やっぱり似てるって気付くよなあ。
レムをギルドに連れていく前に、せめて髪を短く切っておけば、少しは雰囲気を変えられたかも。まあでもあのときは急いでいたから、そこまで気が回らなかった。
さて、なんて説明しようか……
「……レムはアニスに憧れてるらしい。だから外見を真似てるんだってさ」
オレは苦し紛れの説明をする。
我ながらかなり不自然と思うが、ほかに説得力のある理由が思いつかなかった。
「へえ~、じゃあレムちゃんとアニスは姉妹とか親戚ってわけじゃないのか。考えてみりゃ、アニスと関係あるなら、レムちゃんはバーダンたちと一緒にチーム組んでるよな」
「あ、ああ、そういうことだ」
ちょっと強引だが、まあ真実がバレることはないだろう。
「なるほど、マスターはそのアニスという女性にフラれたから、代わりにワタシを作ったというわけですね。ひょっとしてバーダンという男に『NTR』されましたか? もしくは『BSS』……」
「ち・が・うっ!」
と言いつつも、『フラれた』という言葉がグサリと胸に刺さったオレ。
っていうか、またしても条件反射で『NTR』と『BSS』を否定しちまったが、いったいどういう意味だ? オレはこっそりと『スマホ』で検索してみる。
……『ねとられ』と『僕が先に好きだったのに』と出てきた。なんのこっちゃ?
どうしてレムがこんな変な言葉を知ってるのかサッパリ分からん。
そのままオレたちは走り続け、無事野営の場所に辿り着いた。
☆
「『覇王の卵』……? なんだそれ?」
謎の言葉を聞いて、オレはザックに聞き返す。
ここに到着後、オレたちは安全な街道脇に馬を繋ぎ、野営地の設営を終えてからそれぞれで夕食をとっていた。食事をしながら、近くにいたザックに今回の事態について尋ねてみたら、予想外の言葉が返ってきたのだった。
詳しく聞いてみると、『覇王の卵』とは願いを叶えてくれる秘宝らしい。ゲスニクの領地で新しく発見されたダンジョンは、その『覇王の卵』がある伝説のダンジョンかもしれないとのこと。
それを聞きつけた冒険者たちが、ダンジョンに行ったまま帰ってこなくなったのだとか。
そもそもの発端は、先行して潜っていた冒険者がダンジョンの奥で赤い壁を発見したことだった。
『赤き迷宮』に『覇王の卵』あり――これは古くから伝わる伝説らしい。本来は黒色であるはずのダンジョンの壁が赤くなっているのが特徴で、今回のダンジョンでも、下層付近から先が赤い壁となっていた。
この情報は、一部の上位冒険者のみが知る秘密だった。
何故なら、ダンジョンの宝である『覇王の卵』は早い者勝ちだからだ。
我先にと『覇王の卵』を求め、こっそり抜け駆けして攻略を進めていた冒険者たち。ただ、噂は密かに広がっていたようで、オレの知らない間に続々と他所から冒険者たちが集まってきたらしい。バーダンたち以外にも、Sランク冒険者が何チームかダンジョンに入っているようだ。
そのみんなが求めている謎の秘宝『覇王の卵』の正体は、人間を上位の存在に進化させる『進化の神薬』と推測され、願いによって優秀なギフトやスキルを取得することができたり、または神の如く麗しい姿に変化したり、あるいは最高の叡知を授かれたり、人間を不老不死の存在にすることすら可能と言われているらしいが……
「少し不思議なんだが、何故『覇王の卵』にそんな力があると分かるんだ?」
オレは疑問に思ったことを聞いてみる。
こんな宝なんてまるでおとぎ話としか思えないが、誰か確かめたヤツがいるんだろうか?
「おいおいリューク、お前は『英雄王ガイゼル』の伝説を聞いたことないのか?」
「『英雄王ガイゼル』……?」
よく分からないが、その手の話だと『勇者ヴェルシオン』しか知らない。
ただ、『勇者ヴェルシオン』は伝説ではなく作り話で、オレが子供の頃に孤児院で読んだ絵本の主人公だ。オレの名前『リューク・ヴェルシオン』も、この勇者から取っている。
ゲスニクの屋敷に来たあとは本なんて読ませてもらえなかったし、そもそも雑用で忙しくて余計な知識を身につける余裕もなかった。当然、『英雄王ガイゼル』の伝説も聞いたことがない。
「なんだ、知らないのか? 結構有名な話なんだがなあ……仕方ない、教えてやるよ」
ザックが言うにはこうだ。
かつて――今から二千年ほど昔に、大陸のほとんどを制覇していたガイゼルという王がいた。『英雄王』と称えられるほど偉業を成し遂げたらしいが、王という地位だけでは飽き足らず、彼は究極の力を求めていたらしい。
そしてその願いを叶えられるという秘宝『覇王の卵』の存在を知る。
ガイゼルは『覇王の卵』が眠ると言われる『赤き迷宮』を発見し、死闘と苦難を積み重ねた末に『覇王の卵』を手に入れ、『進化の神薬』を願ったという。
そしてそれを使った彼は、究極の存在に進化した。
「……なるほど、そんな伝説があったのか。で、究極の存在になった『英雄王ガイゼル』はそのあとどうしたんだ?」
宝を手に入れたことは分かったので、オレは伝説の続きを催促する。
「続きなんてない。伝説はこれで終わりだ」
「えっ、終わり!? 不老不死になって世界を統べたとか、そういう逸話は残ってないのか?」
「いや、ないな。究極の存在となって神の国へ行ったみたいな話は一応あるが、そんなこと確かめようがないし、多分ただの夢物語だ」
なんか一気に胡散臭くなったな。
いやスケールが大きすぎて、最初からイマイチ信用できない話ではあるが。
「疑うわけじゃないが、今の話って本当のことなのか?」
「一応事実と言われてる。少なくとも『英雄王ガイゼル』は実在したぜ。それで、その『赤き迷宮』は百年ごとに現れるって話で、発見されるたびに大勢が押しかけて挑戦している。まあ実際に『覇王の卵』を手に入れたってヤツは記録に残ってないがな」
うーむ、やっぱそれじゃただのおとぎ話なんじゃ……?
伝説のことを一通り話し終えたところで夕食も食べ終わり、明日から挑むダンジョンについてみんなで再確認したあと就寝準備をする。
オレは寝袋を用意しながら、さっきザックから聞いた話をもう一度思い出していた。
『覇王の卵』の言い伝えなんて全然知らなかった。まさかゲスニク領で見つかったダンジョンが、伝説のダンジョンかもしれないなんて驚きだ。
となると、冒険者たちは行方不明になっているわけじゃなく、ダンジョン攻略に夢中になって帰ってきていないという可能性もあるな。この調査隊も、真相を探るためじゃなく、自分たちが『覇王の卵』を手に入れるためにダンジョンへ向かおうとしているのでは?
冒険者たちが帰ってこないのは、かなり攻略が進んでいるからとも考えられる。
このままでは、先に『覇王の卵』が取られてしまう。それを、黙って指をくわえて待つわけにもいかない。なんとか遅れを取り戻すためにこの調査隊を組んだ……とか?
この事態を内密にしたいのも、公に知られたら冒険者が殺到する――つまり、これ以上ライバルを増やしたくないからというのはさすがに疑いすぎか?
気になるのは、アニスもこの事実を知っていたのかということ。
……いや、アニスほどの有名な冒険者がこんな辺境の地に来たということは、恐らく『覇王の卵』について気付いているはず。アニスには叶えたい望みがあるってことか……
それが何かは分からないが、協力してやりたい。何より、まずは無事でいてくれ……!
オレはそう願いつつ、アニスからもらった石『フォルティラピス』を握りしめながら眠りについた。
5.攻略開始
「マスターおはようございます」
「ん……? ああ、おはようレム」
朝、レムの声でオレは目覚める。その直後、右手に握ったままのフォルティラピスに気付き、昨夜はアニスに想いを馳せながら寝たことを思い出した。
時計を確認してみると、現在は朝の六時。起きる時間としてはちょうどいいのだが、どうも寝足りなかったようで、まだちょっと眠い。
そういや、ようやくダンジョンに行けるということで気持ちが昂ぶってしまい、寝付きが悪かったっけ。まあとにかく、シャキッと起きて朝の仕度をしないとな。
……って、ちょっと待て! なんでレムがオレのテントにいる!?
「レ、レムっ、お、お、お前何してんだーっ!」
横を振り向くと、オレの寝袋の隣にレムが素っ裸で添い寝していたのだ。
当たり前だが、テントは別々にして寝た。なのに、いつの間にか入ってきていた。
このオレに気付かれずにこんなことができるとは……!
オレの探知能力は高いうえに常時発動しているので、本来ならここまで接近する前に気付くが、レムは魔導人形なので探知が難しい。探知系のスキルや魔法は、人間の魔力やモンスターの魔石などを感知して反応するからだ。
一応『スマホ』を起動していれば探知できるが、寝ている最中はもちろん停止している。
「マスターが昨夜お相手してくれませんでしたので、朝イチでお伺いしました。さあ朝食前にワタシをどうぞ」
「そんなもんいるかっ! ホントにお前というヤツは……すぐに服を着ろレム!」
そう言いながらオレは寝袋を脱ぎ、転がるようにして慌ててテントから飛び出す。外はまだ薄暗く、そしてほかの冒険者たちも寝ているようだった。
どうやらレムのことは気付かれてないようだな。まったく焦ったぜ……
まあおかげですっかり眠気が取れてバッチリ目が覚めたけど。
レムが服を着て出てきたところで、ぼちぼちとほかのテントからも冒険者たちが起き出てきた。
そしてオレたちは朝食をとったあと、身支度を整えて出発する。
ここから先は険しい森に入るので、乗ってきた馬たちはここに置いていく。同行していたBランク冒険者たちは、オレたちがダンジョンにいる間の馬の世話をするのでここでお別れだ。
オレたちは森に棲息しているモンスターを倒しつつ、目的地に向かって進んでいった。
この調査隊には実力者たちが集まっているだけに、移動は順調に進み、予定通り昼前には件のダンジョンに到着した。
一瞬オレを見失っていたギーグだったが、上空に打ち上げられたジャビロを見て、オレの居場所に気付く。そして一気に接近してオレに殴りかかるが、それを軽く躱して、同じようにアッパーカットで打ち上げる。
「がああああっ」
ジャビロより耐久力がなさそうなギーグはもう少し手加減してやったが、それでもひょっとしたら首の骨が折れたかもしれない。
まあ腐ってもSランクの拳闘士だし、この程度なら命に別条はないだろう。
「ジャビロ、ギーグ!? こ……これはどういうことだっ!? いったい何が起こっている!?」
瞬く間にジャビロとギーグがやられ、遠距離から攻撃していた後衛の三人――トト、ブルゲン、エリナスが驚きの声を上げる。状況自体、よく理解してないようだ。
前衛二人を倒したオレは、後方の三人に向かって走り出す。
「くそっ、何をしたか知らんが、矢の集中砲火を浴びせてやる!」
「ジャビロたちを巻き込む心配がなければ、魔法も思い切り撃てるというもの。小僧っ、オレの本気の魔法を喰らうがいい!」
近付きつつあるオレに向かって、トトとブルゲンが全力で矢と魔法を放ってきた。
ジャビロたちがオレのそばにいないから、遠慮なく高火力の攻撃を仕掛けてきているようだ。
しかしオレは、その攻撃がこちらに届く前に、最強の暗殺者『虚身』からコピーしたギフト『闇神』を発動して自分の存在をこの世界から消す。
「こ、小僧が消えたっ!? 隠れるところなど何もないのに!?」
「た……探知魔法でも見つけられぬだと!? あ、ありえんっ、いったいどこに行ったのだ!?」
後衛の三人のほか、見物している冒険者たちもこの謎の現象にざわついている。
オレは消えたままトトとブルゲンに近付き、力を抑えつつ高速の連打でそれぞれパンチを打ち込む。後衛は耐久力が貧弱なので、強烈な一撃は使わず、手数でダメージを与えることにしたのだ。
これくらい手加減してしまうと、頑丈なジャビロたちにはなかなか致命的なダメージを与えられないが、後衛のヤツらなら充分効くだろう。
「あがががごぶっ」
「ぶぎゃあああっ」
「トト、ブルゲンっ……!」
トトとブルゲンが吹っ飛んで気絶したところで、オレは『闇神』の能力を解除して姿を現す。
そして呆然と佇むエリナスのもとに、悠々と近付いていく。
神官であるエリナスは、基本的には攻撃手段を持っていない。そのため、すでに決着はついている状態だが、オレは構わずにエリナスに対して攻撃の姿勢を取り続ける。
「な……なんでFランクがこんな……!? ま、待て、降参だ、オレたちの負けを認める!」
エリナスは恐怖の表情で、両手を顔の高さまで上げながら降伏宣言をした。これで本来ならバトルは終了だが、さんざんルールを破っておきながら、素直に許すのも少々しゃくだな。
「ずいぶん勝手な態度だな。オレを本気で殺そうとしたことは、ジャビロから聞いて知ってる。オレを殺しに来た以上、お前たちも殺される覚悟があるんだよな?」
オレは腰の剣を抜いたあと、恐怖で相手の戦意を奪うスキル『威圧』を発動して、エリナスをさらに追い込む。強烈な『威圧』を喰らったエリナスは、今にも崩れ落ちそうなくらい膝をガクガクと震わせながら怯え出す。
「ま、待て、待ってくれっ! 殺す気なんてなかった、ホントだ。た、頼む、助けてくれ……!」
かすれた声で命乞いをするエリナス。
それを無視して、オレはゆっくり剣を振り上げたあと、エリナスに向かって振り下ろした。
「ひいいい~っ!」
剣がエリナスの顔に触れる前に寸止めしたが、エリナスはあまりの恐怖に気絶してしまった。
「フォーレント、これで今度こそ文句ないな?」
無事戦闘が終わったところで、フィールドのすぐ外で戦いを見ていたギルド長フォーレントに声をかけた。
特に煽るようなつもりもなく、ただ普通の口調で言っただけなんだが、よく見てみるとフォーレントの様子がいつも以上におかしいことに気付く。血の気が引いた顔で呆然としていて、オレの言葉も届いてないような状態だ。
「な……なんだこの異常な強さは!? こ、こんな怪物、いったいどうやって殺せば…………」
「マスターさすがですわ! さあ勝利の口づけをどうぞ! ほら、遠慮しないでくださいませ!」
「よ、よせっレム! ひっつくなって!」
レムが歓喜しながら猛ダッシュでオレのもとに飛び込んできた。
ああもうっ、今フォーレントが何か呟いてたけど、レムのせいで聞き取れなかったじゃないか!
レムは無理やりキスしようと、スゲー怪力でオレにしがみついて顔を近付けてくる。
なんつー力だ、普通の人間だと死ぬレベルだぞ!
「いいかげんにしろ!」
まったく言うことを聞かないレムに対し、ゴチンッと頭をゲンコツで叩く。
女性に暴力を振るいたくないが、レムはゴーレムだからな。と思ったところで……
「イッテエエエエエッ!!」
殴ったオレの手が逆に痛くて、思わず叫んでしまった。
レムの頭部は皮膚も薄いうえ、オレは『身体硬化』も『物理無効』も発動してなかったので、生身の状態でアダマンタイトを殴ったのと同じだ。運悪く拳の骨にジャストヒットしたらしく、あまりの硬さにビリビリと痺れたほど。
頑丈なゴーレムだけに、つい強めに叩いたのが裏目に出ちまった。
一応、骨に異常はなさそうだが、オレは痛みが治まるように右拳をさする。こんなアホなことで回復薬を使いたくないぞ。
まあゴーレムとはいえ、アニスに似ているレムを叩こうとした罰かもしれない。
少々短慮だったことをオレは反省した。
「マスター、もしや今のは『ナデポ』というヤツですか? そんなことなさらなくても、ワタシはマスターにラブですのに」
「全然違うわっ!」
って、思わず本能で否定してしまったが、『ナデポ』ってなんだ?
オレのギフト『スマホ』が影響しているのか、レムはどうも変な知識を持ってるらしい。あとで『ナデポ』のことを検索しておこう。
とまあそれはさておき、オレは未だ気絶しているトトとブルゲンのところに駆け寄った。そしてエリクサーをこっそり出し、二人の喉にさっと流し込む。
同じように、離れた場所に倒れているジャビロとギーグに駆け寄り、エリクサーを飲ませた。
エリナスはただ気絶しているだけなので、治療はしなくても問題ない。
結構重傷だが、これで完治するだろう。万が一、状態が酷すぎて治せなかった部分があっても、『スマホ』の『被写体復元』機能を使えば、元通りの状態まで戻せる。
ほどなくして、ジャビロたちの意識が戻って起き上がった。
「ぐふっ、俺はいったい何を……くそっ、頭がクラクラしやがる。ああっ、お前はっ!?」
「……そうだ、オリャあFランクのガキにぶっ飛ばされたんだった!」
オレを見たジャビロとギーグは記憶も思い出したらしく、再び戦闘態勢を取る。だが、自分たちが負けたことは理解しているようで、怒りにまかせてオレを襲うようなことはなかった。
離れた場所にいたトトたちも、意識を取り戻してこの場に集まってきた。
「ぐ……ぎ……この小僧……」
「勝負はついた。もう無駄に争う必要はないだろ?」
オレの言葉に、ジャビロは悔しげに口をつぐむ。ほかのメンバーたちも、オレに対する敵意は消えてないみたいだが、さすがに戦う気力は残ってないようだ。
憮然とした表情で、彼らは無言のままフィールドをあとにする。
「どうなってんだよ? なんであのリュークがこんなに強くなってんだ!?」
「今の強さ、SSランク級だぞ!? もしかしてラスティオンよりも強いんじゃ……?」
「王都でいったい何があったんだ!?」
「それにしても『黒鷲の爪』のヤツら、あれほどやられたのにピンピンしてるなんて、やっぱSランクは丈夫だなあ」
野次馬に来ていた冒険者たちが、口々に驚きの言葉を出す。
想定外の事態になったが、いつまでも侮られたままだと調査隊での行動も制限されそうだったから、これくらい力を見せたほうがきっと動きやすくなる。
今後は「Fランクは引っ込んでろ」なんて言われないだろうし、結果オーライだ。
しかし、フォーレントのヤツがそこまでオレを恨んでいるとは思わなかったぜ。改めて考えてみると、アビスウオームの魔石を消しちゃったのは、さすがにまずかったかもしれない。
喜ばせるだけ喜ばせておいて、奈落の底に叩き落としちゃったからな。相当ショックだったのも頷ける。あとで適当な物でも贈って、機嫌を直してもらうとしよう。
こんな状態ではあるが、とりあえずオレたち調査隊はダンジョンに向かって出発した。
4.覇王の卵
十四時過ぎにゲスニクの街を出発して、すでに四時間。オレたち調査隊一行は、ゲスニク領の南方にあるダンジョンに向かって馬で移動している。
馬車ではなく、各自でそれぞれ馬に騎乗しているので、移動速度は馬車の三倍程度。出発が少し遅れてしまったため、辺りはだいぶ薄暗くなってしまったが、冒険者たちが言うにはあと一時間ほどで野営する場所に到着できるとのこと。
その頃にはすっかり暗くなってしまうが、まあこのメンバーなら問題ないだろう。
その野営地で一夜を過ごしたあと、馬を置いてそこからは徒歩でダンジョンに向かう。
一応、明日の昼頃にはダンジョンに着く予定だ。
調査隊メンバーの内訳は、四人組のAランクチームが四つと、五人組のAランクチームが二つ、ジャビロたち五人組のSランクチームが一つ、そしてオレとレムを含めた計三十三名。レム以外は全員男だ。
冒険者は元々男性のほうが比率が高いが、高ランク冒険者ともなると、さらに女性は少ないからな。まあレムも女性というわけではないが。
そのほか、オレたち調査隊以外にも、五人組のBランクが二チーム同行している。ただし彼らはダンジョンには入らず、オレたちがダンジョンにいる最中、待機している馬の世話を担当する。
「ブヒッ、ブヒヒヒンッ(おいリューク、何故この女はこんなに重いのだ!? ちょっとだけ疲れてきたぞ)」
王都一の駿馬であるタフなアレイオンが、少し息を荒くしながらオレに話しかけてきた。
実はアレイオンには、オレじゃなくてレムが乗っている。理由は、レムが重すぎて、普通の馬ではこの部隊の移動について来られないからだ。
レムは細身とはいえ、骨格が重いアダマンタイトでできているため、体重が二百キログラムくらいある。これでは、さすがのアレイオンでもちょっとキツいだろう。
むしろ、よくここまで追走できたと言えるくらいだ。伝説の名馬アレイオンを名乗るだけあって、プライドも高くやせ我慢しているみたいだが、そろそろ限界かもしれない。
「ブヒンブヒン(あともうちょっとで着くから頑張ってくれ)」
「ブヒヒン(ま、まあこれしきのこと、問題ないがな)」
「マスター、もしやこの馬、ワタシを重いと言っているのですか? まったく情けない駄馬ですね」
オレとアレイオンの会話を聞いていたレムは、そう言いながら呆れたような表情でアレイオンを見る。どうやら雰囲気で会話の内容を察したらしいが、それにしてもレム、ホントに口が悪いな……アレイオンは必死に頑張ってるというのに。
まあ今の言葉がアレイオンには分からなかったことが幸いだ。
ちなみに、レムが言ってた『ナデポ』という言葉を『スマホ』で検索してみたら、男性が女性の頭を撫でると女性がポッとほほを染めて男性に惚れることだと載っていた。
そんなの、この世界じゃ聞いたことないぞ。レムはなんでこんなこと知ってるんだ?
「おいリュークよ。そのレムちゃんって子、バーダンたちと組んでる『剣姫』アニス・メイナードにかなり似ている気がするんだが、彼女と何か関係あるのか?」
オレたちの会話をそばで聞いていた冒険者が、レムについて尋ねてきた。
長めの髪を首の後ろで結んでいる彼は五人組Aランクチームのリーダーで、名前はザックというらしい。とても気さくな性格をしていてメンバーの面倒見もよく、オレにも気軽に声をかけてくれている。
レムとアニスについては、やっぱり似てるって気付くよなあ。
レムをギルドに連れていく前に、せめて髪を短く切っておけば、少しは雰囲気を変えられたかも。まあでもあのときは急いでいたから、そこまで気が回らなかった。
さて、なんて説明しようか……
「……レムはアニスに憧れてるらしい。だから外見を真似てるんだってさ」
オレは苦し紛れの説明をする。
我ながらかなり不自然と思うが、ほかに説得力のある理由が思いつかなかった。
「へえ~、じゃあレムちゃんとアニスは姉妹とか親戚ってわけじゃないのか。考えてみりゃ、アニスと関係あるなら、レムちゃんはバーダンたちと一緒にチーム組んでるよな」
「あ、ああ、そういうことだ」
ちょっと強引だが、まあ真実がバレることはないだろう。
「なるほど、マスターはそのアニスという女性にフラれたから、代わりにワタシを作ったというわけですね。ひょっとしてバーダンという男に『NTR』されましたか? もしくは『BSS』……」
「ち・が・うっ!」
と言いつつも、『フラれた』という言葉がグサリと胸に刺さったオレ。
っていうか、またしても条件反射で『NTR』と『BSS』を否定しちまったが、いったいどういう意味だ? オレはこっそりと『スマホ』で検索してみる。
……『ねとられ』と『僕が先に好きだったのに』と出てきた。なんのこっちゃ?
どうしてレムがこんな変な言葉を知ってるのかサッパリ分からん。
そのままオレたちは走り続け、無事野営の場所に辿り着いた。
☆
「『覇王の卵』……? なんだそれ?」
謎の言葉を聞いて、オレはザックに聞き返す。
ここに到着後、オレたちは安全な街道脇に馬を繋ぎ、野営地の設営を終えてからそれぞれで夕食をとっていた。食事をしながら、近くにいたザックに今回の事態について尋ねてみたら、予想外の言葉が返ってきたのだった。
詳しく聞いてみると、『覇王の卵』とは願いを叶えてくれる秘宝らしい。ゲスニクの領地で新しく発見されたダンジョンは、その『覇王の卵』がある伝説のダンジョンかもしれないとのこと。
それを聞きつけた冒険者たちが、ダンジョンに行ったまま帰ってこなくなったのだとか。
そもそもの発端は、先行して潜っていた冒険者がダンジョンの奥で赤い壁を発見したことだった。
『赤き迷宮』に『覇王の卵』あり――これは古くから伝わる伝説らしい。本来は黒色であるはずのダンジョンの壁が赤くなっているのが特徴で、今回のダンジョンでも、下層付近から先が赤い壁となっていた。
この情報は、一部の上位冒険者のみが知る秘密だった。
何故なら、ダンジョンの宝である『覇王の卵』は早い者勝ちだからだ。
我先にと『覇王の卵』を求め、こっそり抜け駆けして攻略を進めていた冒険者たち。ただ、噂は密かに広がっていたようで、オレの知らない間に続々と他所から冒険者たちが集まってきたらしい。バーダンたち以外にも、Sランク冒険者が何チームかダンジョンに入っているようだ。
そのみんなが求めている謎の秘宝『覇王の卵』の正体は、人間を上位の存在に進化させる『進化の神薬』と推測され、願いによって優秀なギフトやスキルを取得することができたり、または神の如く麗しい姿に変化したり、あるいは最高の叡知を授かれたり、人間を不老不死の存在にすることすら可能と言われているらしいが……
「少し不思議なんだが、何故『覇王の卵』にそんな力があると分かるんだ?」
オレは疑問に思ったことを聞いてみる。
こんな宝なんてまるでおとぎ話としか思えないが、誰か確かめたヤツがいるんだろうか?
「おいおいリューク、お前は『英雄王ガイゼル』の伝説を聞いたことないのか?」
「『英雄王ガイゼル』……?」
よく分からないが、その手の話だと『勇者ヴェルシオン』しか知らない。
ただ、『勇者ヴェルシオン』は伝説ではなく作り話で、オレが子供の頃に孤児院で読んだ絵本の主人公だ。オレの名前『リューク・ヴェルシオン』も、この勇者から取っている。
ゲスニクの屋敷に来たあとは本なんて読ませてもらえなかったし、そもそも雑用で忙しくて余計な知識を身につける余裕もなかった。当然、『英雄王ガイゼル』の伝説も聞いたことがない。
「なんだ、知らないのか? 結構有名な話なんだがなあ……仕方ない、教えてやるよ」
ザックが言うにはこうだ。
かつて――今から二千年ほど昔に、大陸のほとんどを制覇していたガイゼルという王がいた。『英雄王』と称えられるほど偉業を成し遂げたらしいが、王という地位だけでは飽き足らず、彼は究極の力を求めていたらしい。
そしてその願いを叶えられるという秘宝『覇王の卵』の存在を知る。
ガイゼルは『覇王の卵』が眠ると言われる『赤き迷宮』を発見し、死闘と苦難を積み重ねた末に『覇王の卵』を手に入れ、『進化の神薬』を願ったという。
そしてそれを使った彼は、究極の存在に進化した。
「……なるほど、そんな伝説があったのか。で、究極の存在になった『英雄王ガイゼル』はそのあとどうしたんだ?」
宝を手に入れたことは分かったので、オレは伝説の続きを催促する。
「続きなんてない。伝説はこれで終わりだ」
「えっ、終わり!? 不老不死になって世界を統べたとか、そういう逸話は残ってないのか?」
「いや、ないな。究極の存在となって神の国へ行ったみたいな話は一応あるが、そんなこと確かめようがないし、多分ただの夢物語だ」
なんか一気に胡散臭くなったな。
いやスケールが大きすぎて、最初からイマイチ信用できない話ではあるが。
「疑うわけじゃないが、今の話って本当のことなのか?」
「一応事実と言われてる。少なくとも『英雄王ガイゼル』は実在したぜ。それで、その『赤き迷宮』は百年ごとに現れるって話で、発見されるたびに大勢が押しかけて挑戦している。まあ実際に『覇王の卵』を手に入れたってヤツは記録に残ってないがな」
うーむ、やっぱそれじゃただのおとぎ話なんじゃ……?
伝説のことを一通り話し終えたところで夕食も食べ終わり、明日から挑むダンジョンについてみんなで再確認したあと就寝準備をする。
オレは寝袋を用意しながら、さっきザックから聞いた話をもう一度思い出していた。
『覇王の卵』の言い伝えなんて全然知らなかった。まさかゲスニク領で見つかったダンジョンが、伝説のダンジョンかもしれないなんて驚きだ。
となると、冒険者たちは行方不明になっているわけじゃなく、ダンジョン攻略に夢中になって帰ってきていないという可能性もあるな。この調査隊も、真相を探るためじゃなく、自分たちが『覇王の卵』を手に入れるためにダンジョンへ向かおうとしているのでは?
冒険者たちが帰ってこないのは、かなり攻略が進んでいるからとも考えられる。
このままでは、先に『覇王の卵』が取られてしまう。それを、黙って指をくわえて待つわけにもいかない。なんとか遅れを取り戻すためにこの調査隊を組んだ……とか?
この事態を内密にしたいのも、公に知られたら冒険者が殺到する――つまり、これ以上ライバルを増やしたくないからというのはさすがに疑いすぎか?
気になるのは、アニスもこの事実を知っていたのかということ。
……いや、アニスほどの有名な冒険者がこんな辺境の地に来たということは、恐らく『覇王の卵』について気付いているはず。アニスには叶えたい望みがあるってことか……
それが何かは分からないが、協力してやりたい。何より、まずは無事でいてくれ……!
オレはそう願いつつ、アニスからもらった石『フォルティラピス』を握りしめながら眠りについた。
5.攻略開始
「マスターおはようございます」
「ん……? ああ、おはようレム」
朝、レムの声でオレは目覚める。その直後、右手に握ったままのフォルティラピスに気付き、昨夜はアニスに想いを馳せながら寝たことを思い出した。
時計を確認してみると、現在は朝の六時。起きる時間としてはちょうどいいのだが、どうも寝足りなかったようで、まだちょっと眠い。
そういや、ようやくダンジョンに行けるということで気持ちが昂ぶってしまい、寝付きが悪かったっけ。まあとにかく、シャキッと起きて朝の仕度をしないとな。
……って、ちょっと待て! なんでレムがオレのテントにいる!?
「レ、レムっ、お、お、お前何してんだーっ!」
横を振り向くと、オレの寝袋の隣にレムが素っ裸で添い寝していたのだ。
当たり前だが、テントは別々にして寝た。なのに、いつの間にか入ってきていた。
このオレに気付かれずにこんなことができるとは……!
オレの探知能力は高いうえに常時発動しているので、本来ならここまで接近する前に気付くが、レムは魔導人形なので探知が難しい。探知系のスキルや魔法は、人間の魔力やモンスターの魔石などを感知して反応するからだ。
一応『スマホ』を起動していれば探知できるが、寝ている最中はもちろん停止している。
「マスターが昨夜お相手してくれませんでしたので、朝イチでお伺いしました。さあ朝食前にワタシをどうぞ」
「そんなもんいるかっ! ホントにお前というヤツは……すぐに服を着ろレム!」
そう言いながらオレは寝袋を脱ぎ、転がるようにして慌ててテントから飛び出す。外はまだ薄暗く、そしてほかの冒険者たちも寝ているようだった。
どうやらレムのことは気付かれてないようだな。まったく焦ったぜ……
まあおかげですっかり眠気が取れてバッチリ目が覚めたけど。
レムが服を着て出てきたところで、ぼちぼちとほかのテントからも冒険者たちが起き出てきた。
そしてオレたちは朝食をとったあと、身支度を整えて出発する。
ここから先は険しい森に入るので、乗ってきた馬たちはここに置いていく。同行していたBランク冒険者たちは、オレたちがダンジョンにいる間の馬の世話をするのでここでお別れだ。
オレたちは森に棲息しているモンスターを倒しつつ、目的地に向かって進んでいった。
この調査隊には実力者たちが集まっているだけに、移動は順調に進み、予定通り昼前には件のダンジョンに到着した。
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