イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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24.健康診断の日

 
 月曜日、今日は健康診断とバース検査&体力測定がある。 
 今日は授業がないから、これさえ終わればすぐに帰宅できるのは嬉しいんだけどさ。
 ……今の時点ですげーお腹が減っている。 

 健康診断とバース検査で血液を採取されるから、今日は朝食抜きでの登校だ。
 これが結構つらくってさ。
 減量中の女子じゃないんだから、朝ごはんくらいしっかり食べさせてほしいって思ってしまう。
 それにうちの学校は生徒数が多いから、健康診断が終わるにしても結構時間がかかるし。
 はぁあああ……早くご飯が食べてぇ。
 
 健康診断が終わればやっと朝ごはんが食べられるけど、その後は体力測定が待っている。
 朝食を含めて一時間半の休憩はもらえるけど、何で血液を取られた後に運動なんてさせられるんだろ。
 学校としては『面倒くさいことは、まとめてその日に終わらせよう』ってことなのかもしれないけど、体力測定は別の日でも良い気がする。 

 てかうちの学校って、何でもまとめすぎじゃない?
 球技大会と体育祭も同じ日だし。
 
 朝食が食べられないせいで、朝から腹の虫がキュルキュルと鳴っている。
 仕方ないからいつもよりも早めに家を出て、空腹を紛らわせることにした。 


  
「おはよー」

 挨拶しながら教室に入ると、クラス全員が同じ色のジャージを着ていた。
 体力測定があるから今日は制服ではなく、朝からジャージ姿で登校するように言われているせいだ。
 見慣れた制服姿じゃないってだけで、なんとなく新鮮。
 クラスメイトに挨拶を返しつつ、自分の席に向かうと、


 ──…あ、悠がこっちを見ている。


 ドキンと心臓が跳ねた。
 悠には『金曜のことは気にするな』と自分で言ったくせに、俺自身が全く忘れられてないって言うね。
 あーもう、静まれ心臓っ!
 あれは誤解から生まれた事故みたいなものだし。
 Ωを求めすぎた悠が、ちょっと先走りすぎて勘違いしちゃっただけなんだって。
 
 はぁ…。ちょっと深呼吸して落ち着こうか。
 俺が忘れてやんないと、悠だって気まずくなるだろうし。
 うん。大丈夫、大丈夫。
 普通に挨拶するだけじゃん。いけるいける!
 悠を見ながらニコッと笑いかけた。


 よし、引き攣らなかった。
 ちゃんと自然に笑えてるぞ俺! 

 
「おはよー悠。今日は羽鳥先輩と一緒の登校じゃねーの?」 
「あぁ、おはようアキ。その事で少し話したいことがあるんだけどいいか?」

 えっ、いきなりだな。
 目を丸くする俺に向かって、悠がチラリと廊下に視線を投げかける。

(ん? ここだと話がしにくいって事か?)

 俺が頷くと、悠がすぐに席から立ち上がって歩き出す。
 歩き出しながら俺を振り返ってきた。
 促されていることに気づいた俺は背負っていた鞄を机に置くと、慌ててその背中を追いかけ始めた。 
  
 
 どこに向かっているのか分からないまま、黙って悠の後ろをついて歩いていると、特別教室が並んでいる廊下まで連れてこられた。 
 なるほど。ここが目的地だったのか。
 確かにこの時間なら、人通りも少ないしちょうど良い場所なのかも。 
 適当な特別教室の扉に寄りかかると、悠も俺に倣うようにして横に並んできた。 
  
  
「──で、話ってなんだよ?」 
「あれから色々考えて、羽鳥先輩のことはお断りすることにした」 
「えっ! もったいなくねぇの? いいのかよそれで……」 
「あぁ。今日のようなバース検査で、相性の良いΩが新しく見つかる可能性もあるだろうしな。もう少し気長に捜してみることにした」 
「そっか。お前がそれで良いなら、俺は何も言わねーけど……。でも、せっかく転校までしてきたのに残念だったな」 
「そうでもないさ」 
  
 軽く口端を上げて笑う悠を見ていたら、なんとなく落ち着かない気分になってきた。
 吹っ切れたような悠の雰囲気がそれに拍車をかける。

 あれ…? 
 悠が転校して来たのって、羽鳥先輩に接触するためだったよな。
 接触も済んだし、羽鳥先輩のことは諦めたんなら、もうここには用がないはず。
 

 だったらこの後、悠はどうするんだ? 
  
 
 
「なぁ、悠……」 
「ん?」 
「お前またどっか行っちゃったりすんの?  あー…と、ほら。ここにはもうお前の求めるΩはいなくなっただろうけど…… 」 

 続けようとした言葉を、無理やり唇を噛むようにして止めた。
 これ以上、何を言うつもりだよ。
 悠にとっては『番探し』は人生を決める上での大事な目的だって言うのに、寂しいからって引き止めようとするなんて最低じゃん。

 はぁー。きっとこれはアレだな……。
 せっかく一生懸命懐かせたわんこが、手元を離れていく寂しさに似ている気がする。
 苦労して慣れさせたっていうのに、なんだよもう。
 たまにおかしな行動もとるけど、それはそれで完璧すぎないところもまた、可愛いく見えるっていうかさ……。


 駄目だ。
 何か今の俺…かなりいじけている。


「いないから、何?」
「いや……何でもねーよ」

 無理やりはぐらかした。
 これ以上続けると、俺の口が碌でもねーことを口走る。 

 くそっ。悠と出会ってからそんなに経ってないってのに、なんでこんなに寂しいって思ってんだろ。
 ここで別れたら、一生コイツとは会えないって分かってるからかな。

(あーっあーっ。ダメダメ!)

 どんな結果だろうが、応援するって悠に言ったのは俺じゃん。
 寂しくても別の学校に行くっていうなら、無理にでも笑え俺!
 ちゃんと笑顔で送り出してやんねーと。

 自然と俯いてしまった視線を上げると、悠が静かな眼差しで俺を見つめている。
 この姿を見るのも、あと少しだけなのかな……。
 何となく目に焼き付けるように見つめてしまう。

(相変わらず綺麗な瞳だよなぁ……)

 色素が薄いせいか、光を反射するとキラキラ光って見える。
 ジャージ姿でも、本当に格好いい男だよ。
 沈んでいたことも忘れてジィッと悠の顔を見つめていたら、悠の顔がふいに柔らかく笑んできた。


「行かないよ」
「……へ?」

 悠の貴重な微笑みに見惚れていたせいで、言葉を聞き逃した。
 いま、なんて言ったの?

 パチパチと瞬きを繰り返していたら、視線を合わせるように悠の顔が近づいてくる。

「転校はしないって言ったんだ。……まだ、気になることもあるし」
「そ、そっか……」

 だいぶ耐性がついたと思ったけど、金曜日からこっち、悠の顔が近づくだけで勝手に心臓が跳ね上がるようになってしまった。
 ふぅ。イケメンのドアップは心臓に悪すぎる。
 ドギマギしながら、慌てて横に一歩分ズレる。

 ふぅ、ビックリした……。
 今まではイケメンのくせに身長まで高いなんて『爆ぜろαめ!』と呪ったりもしたけど、むしろこの身長差に救われていたのかもしれねぇ。
 同じくらいの身長だったら、この顔面を間近で見ることになっていたんだもんな。
 ……うっ。考えるだけで俺の心臓の寿命が早まる気がする。 
 痛む心臓を押さえながら、もう一つ気になっていたことも聞いてみた。 
  
「羽鳥先輩には、どのタイミングでその話を伝えるんだ?」 
「タイミング? 金曜日にはもう伝えてあるけど?」 

 は……?

「もう伝えちゃったの!?」
「あぁ。金曜日の晩に自宅に伺って、ご縁がなかったと伝えてある」 
「はぁっ!?」 

  
 このイケメン行動が早すぎだろ!
 もっと悩んでから行動しろよっ! 

  
「いくらなんでもお前、せっかち過ぎじゃねーか…?」
「そうだろうか?」

 そうだろうと思うけど……。
 まぁ元々乗り気じゃなかったようだし、悩んでも結果は同じだったのかな。

「それで?  向こうはお前にご執心だったようだけど、あっさり納得はしてもらえたの?」 
「いや、プライドを傷つけてしまったようで叫ばれたけど、顧問弁護士も一緒だったおかげで助かった。これ以上騒ぐようなら、接近禁止令を出してもらうことになっている。彼女の接触を待って行動したのが功を奏したな。オレから近づいていたら、こんなに簡単には断れなかっただろうし」 

  
 え……弁護士まで連れて行くんだ。 
 もしかしてこういう場合って揉めるのが当たり前なの?
 お前らの世界って、怖ぇよ……。 

  
「えーと、お疲れ様。大変だったんだな」 
「そうでもない。向こうも今頃は発情期に入っているだろうから、オレに構う余裕もないだろうし。学校に出てくるのは1週間後だろうから、その頃には色々落ち着いているんじゃないか」 

 あー、発情期か。そんなのもΩにはあったもんな。
 断るタイミングが今っていうのも納得した。


 悠と話している間に、結構時間が経過していたみたいだ。
 SHRを知らせるチャイムの音に、慌てて二人して教室まで走った。 
  
  


  
  
 ◆◆◆
  
  


  
「なぁなぁ三由ー、お前身長伸びてた?」 
「伸びてるに決まってんだろアホ。ふふふ、176cmになってた」 
「ぐあーーーっ、俺173.8cmだったのにぃ~!」 
「あらあらそれは大変。橘くんはそろそろ伸び率が頭打ちになってんじゃないの? 小さくて可愛そうだねぇ」 
  
 健康診断を終えて教室に戻ってきた俺と橘と──他につるむことの多い、渡辺と加藤の4人で診断結果を見ながら朝食を食べている。 
 俺の席の周りに集まって、持ち寄ったパン片手に楽しい結果タイムだ。 
 嘆く橘に、俺はニヤニヤしながら慰めの言葉をかけてやる。
 渡辺も加藤も憐れに思ったのか、少しでも橘を元気づけようと必死に言葉を重ねていた。

  
「170越えてたら男としては十分だって」(渡辺) 
「そうそう、あっ、ホラ座高!座高は三由に勝ってるじゃん!」(加藤) 
「勝ったらダメな所だってば、そこは!! もっと慰める部分があるだろおまえらっ」 

  
 むしろ追い打ちをかけられて橘がギャーギャー吠えている。
 ふふふ、もっと橘を追い詰めてやりなさい。 
 ちなみに追い打ちをかけている2人の身長は、渡辺が179cm。加藤が177cmだった。 
 2人ともバスケ部だから、まだもう少し伸びそう。 
  
 そういえば悠はどのくらいなんだろ?
 気になった俺は、隣の席でサンドイッチと果物を食べている悠に声をかけた。 

「悠、お前って身長何センチ?」
 
 俺達が購買で買ってきたようなパンとは違って、隣の悠は色んな具材が挟まった、美味しそうなサンドイッチを食べている。
 その手を止めてこっちを振り向いた悠が、


「オレは186cmだったよ」

 
 自分の身長にドヤ顔をするわけでもなく、ごく当たり前のように教えてくれる。
 くそっ、こういう所でもβとの格の違いを見せつけてくる。
 小憎らしいけど、確かにそれだけあったら券売機に並んでいても、頭一つ分くらい飛び出していたのにも納得する。

 俺が頷いているのに対して他の連中は「186ぅうう~」「デカ過ぎだろ…」と目を見開きながら悠を見つめている。
 うんうん。その反応もよく分かる。
 ついでに近づかれると、すげー圧迫感があるのも教えてやりたい。

   
「なぁ、何食ったらそんなにデカくなるんだ?」 


 聞き覚えのある声に「ん?」と思って向かいを見てみたら、いつもなら滅多な事では悠に話しかけもしない橘が、今は身を乗り出すようにして悠を見つめていた。
 今の質問って、橘か?
 おまえそんなに真剣に、身長を伸ばしたかったのかよ。
 橘の質問に自然、みんなの視線が悠に集まるけど。 

「何を食べる…? どうだろう…オレの身長は家系的なものだから、あまり食べ物は関係ないんじゃないのか?」
 
 悠に悪気はないんだろうけど、その言葉は今の橘にとってはただの追い打ちにしかならない。
 あー…、橘が落胆したように項垂れちゃったよ。 
  
 まぁ可哀想だけど、諦めろ橘。
 家系ならどうすることも出来ないだろうし、来世に期待すればいい。
 橘の頭をよしよしと撫でる渡辺を見ながら、伸びをする。 
  
  
 ──さてと、もうちょっとしたら次は体力測定だな。
 ここでもいい数字を出して、橘を圧倒させてやろうじゃないか。

 ふふふふふっ。






  
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