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25.バース結果
───良い記録を出してやろう
そんなことを思っていた時期が、俺にもありました。
「……なぁ、今日ってただの体力測定だよな?」
「当たり前だろ。今まさにそれの真っ最中じゃねーか」
「……そうか、俺、アイドルの運動会にでも紛れ込んじまったかと思ってたわ」
「……まぁな」
「それな」
男4人、体育館の片隅にしゃがみ込みながら、測定結果表片手にボソボソと話しこんでいる。
どうせ俺らの姿になんか、誰も気を配ったりなんかしないだろうし。
いくらドヨンとした空気を醸しだそうが、それ以上に輝くものがあれば視界にも入らないんだろう。
俺達の姿とは対象的に、後ろの空間は熱狂的な歓声に包まれていた。
ただの体力測定に、なんでこんなに女子が集まってんだよ。謎すぎ。
……ごめんなさい嘘です。
理由なんか一つしかなかったです。
今まさに悠が反復横跳びの最中です。
橘が挑戦した時は足運びに苦戦していたせいで、とてつもなく間抜けな絵面になっていた反復横跳姿が、悠がやるとまるで舞を舞っているかのような、華麗なステップへと昇華されていた。
何なんだよあの軽やかな動きっ!
タップダンスでも俺達は見させられているのか!と錯覚するほどに、軽快なステップで床を踏んで行く悠。
淡々と同じリズムを保ちつつ、流れるような足捌きがとにかく美しい。
体育館のライトに当たる、髪の毛一本一本が光を乱反射しているみたいだ。
眩しい……とにかく眩しい。
「綺羅びやか 」って言葉は、悠のために存在しているんじゃねぇのか。
ただの反復横跳びなのに、これだけの人数を魅了させるなんて、本気で恐ろしい男だよ。
後ろの熱狂具合を見て、俺達はもう顔を引き攣らせる事しか出来ねぇ。
足元にも及ばないどころか悠を見ていると、俺達はミジンコ以下だっていうのを思い知らされる。
良い数値を出したなと満足しても、すぐに驚異的な数値を叩き出してくる悠に、全てが吹き飛ばされた。
……これが真のαの力なんだろうか。
なんだよこの圧倒的な力の差。
上位種の恐ろしさを初めて目の当たりにして、俺達は震えることしか出来ねぇ。
握力なんて、化け物なんじゃねぇのかって思ったし。
なにその数値……!
片手でりんごが握り潰せるんじゃねぇの!?
この間掴まれた両手首の拘束を思い出して、またもや震えた。
男子だけが課される「懸垂測定」の時も、別の意味で凄かったけど。
数値も歓声ももちろん凄いけど、それ以上にTシャツから覗いた腹筋がすごすぎて……。
女子の黄色い悲鳴がヤバかった。
何あのシックスパック……!!
腹斜筋さえもが美しいってどういう事……!
なんなんだよ…こいつはギリシャ彫刻か何かなのか?
身体の死角を見つけるほうが難しいんじゃねぇのか、これ…。
とりあえず悠のおかげで、俺達β軍団は全て霞んだ。
橘達と測定結果をキャッキャッしながら、見比べる気にもならない。
光り輝く悠の姿を尻目に、お通夜状態で体育館の隅に身を寄せ合うだけで精々だ。
悠と比べると俺達全員、目くそ鼻くそみたいなもんだし。
比べる価値さえ感じられなくなった。
初めのテンションはすでにダダ下がりだ。
俺達のやる気を根こそぎ奪っていった悠様の周りだけが、ただただ眩しいほどに輝いている。
────くぅ…っ。
やっぱりイケメンαなんて、爆ぜてしまえ!!!
◆◆◆
「じゃあ、これからこの間の診断結果書を返すから。名前を呼ばれたら取りに来てくれ」
あれから2週間弱、バース結果がやっと出た。
1時間目の授業を削った担任が、診断結果を配ってくれる。
そうそう、この2週間は少し大変だった。
収まりを見せていた悠の人気が体力測定を機に再び高まって、ちょっとした騒ぎになったし。
基本教室から滅多に出てこない悠の姿を求めて、今度は登校時間が狙われた。
悠の来る時間に合わせるように、女子が集中する。
下駄箱付近から教室まで、悠から少し距離を空けるようにゾロゾロと女子がついて回る様は、かなり気味の悪い光景だった。
絶対近づきたくないと思ったし。
他にも悠が体育を受けている姿を、隠し撮りした写真が出回っているみたい。
女子からこの話を聞いた時は引いた。
授業時間も安心出来ないなんて、不憫な奴。
あと羽鳥先輩との関係だけど、発情期が明けても悠に接触することはなかったみたいだ。
まぁ悠の周りが騒がしいから、近寄れないってだけなのかもしれないけど、諦めたんならそれが一番いいと思うよ。
悠じゃなくても、他にαはいっぱいいるんだし。
とりあえず羽鳥先輩に関しては、噂も含めてすでに落ち着いている。
「三由ー。早く取りに来い」
やべ。呼ばれてた。
慌てて診断書を取りに席を立つ。
その後全員に配り終えた担任は、クラス内を見回しながら、
「その診断書はバース結果も入ってるからな。むやみに人と見せあうんじゃないぞ。あと診断結果で体調に不安があるようなら、養護教諭の石川先生に相談するように。じゃあ、次の授業が始まるまで大人しくしていろよー」
最後にそう締めくくると、教室を出て行った。
ほいほい、と。
さっそく封筒を開けて、中から診断書を取り出す。
健康診断と体力測定の結果はもう分かっているからそのまま飛ばして、気になるのは血液検査の結果だ。
うん、特に問題はないかな。ほぼ基準値に収まっているし。
最近身体が疲れやすかったりで少し体調に不安があったけど、数値に関しては問題ないみたいだ。
変な病気に罹ってないならそれで良い。
あとはバース結果か。
これはどうせ、いつも通りの結果だから──って、
(あれ? 何だ、これ……?)
βを表す帯グラフの中に、僅かにΩの数値が紛れ込んでいる……?
(何これ?? )
昨年まではβ一色だったよな
……え? どゆこと??
これ、間違いなく俺の診断結果だよな?
もう一度検査結果が入っていた封筒を確認してみるけど。
うん、俺の名前だ。間違いない。
(はぁ…!? どういう事?)
あ、封筒の中に、何かピンク色の紙が入っている。
今までこんな紙が入っていたことなんて、なかったよな。
不思議に思って封筒の中からチラリと覗いてみると『要再検査』と書かれた紙が一枚。
内容を軽く読んでみると、Ωの可能性もあるので一度専門機関で診てもらうように、という内容だった。
は?
………えっ?
俺がΩのカノウセイ? は?
βからα値が高くなることは、稀にあるけど……。
逆って、あるの??
……え?
だってβとΩって、身体の作りが元々違うじゃん。
そんな馬鹿なことってあるのか?
だって俺にΩらしい所なんて、全くねーぞ…!
混乱する頭で思い当たることは、αの悠に首を噛まれたこと。
項はΩにとっては大事な器官だったはず。
Ωの生体にさほど詳しくない俺でも、それくらいは知っている。
悠はよく俺の項を噛んでいた。
純血種のαに項を噛まれる事で、体質が変わるとしたら……?
「悠、悠っ」
俺は隣で同じように検査結果を見ている、悠の服の袖を引っ張った。
引っ張られた箇所を見た後に、悠が俺を見てくる。
「どうした?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい? 『α』についてなんだけど」
「──いいよ。何が聞きたいんだ?」
悠が頷いてくれたので椅子ごと悠の傍に近寄ると、顔を寄せながら周りに聞こえないように小声で尋ねてみた。
「αに噛まれると、βでもΩになったりすることってあるの?」
「……どういうことだ?」
ピクリと悠の腕が一瞬動いた後、探るような視線を寄越してきた。
逆に問いただされても、俺がそれを聞きたいんだって!
「そのまんまだよ。αが噛むとΩになる能力があるとか、そんな事例が過去にあったとかが聞きてーの」
俺の質問に少し考えこむように視線を伏せると、悠が言葉を選ぶように答えてきた。
「そんな事例があるなら今頃とっくに試されているだろうし、もっとΩが増えていないとおかしいんじゃないのか?」
───あっ!!
そ、そうだよな。
そんなんで簡単にΩになれるなら、こんなに希少種扱いなんてされてないじゃん。
俺って馬鹿っ、すげー馬鹿!
なら何で俺にΩが混ざり込んだりしたんだろ?
わ、わけ分かんねぇ。誤診か?
よけい混乱に陥る俺の姿を、悠が隣の席から注視している。
「検査結果でΩとでも診断されたのか?」
「えっ!…ゃ、いやいや、βだったよ。もちろん!」
慌てて否定する。うん、嘘は言ってないし。
ほぼβの基準範囲なのは間違いないんだからさ。
ただ、ほんのちょっぴりΩ値が混ざってるってだけで……。
「そうか。そんな質問をされるのは、初めてだったから少し驚いた」
「あ、うん、悪ぃ。ちょっと気になっただけなんだ。ははっ。そんな事例があったら面白そうだなぁって思ったんだけど、穴だらけだったな」
「いいよ。また何か気になることがあれば聞いて」
俺にそう声をかけると、悠は次の授業の準備を始めた。
俺も大人しく自分の席に戻ることにする。
はぁ……。
噛まれたくらいじゃ、Ωになんてならないみたいだ。
……そうだよな、当たり前だよな。そんなこと。
じゃあ何で俺に、Ωの数値なんて紛れ込むことになったんだよ……。
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