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28.欲しい!
Ω騒動のおかげで、家族の愛情を再確認することが出来た。
別に姉ちゃんの愛情を疑ったりはしてなかったけど、まさか初彼よりも優先されてるなんて思わないじゃん。
「ほんと……自分の幸せを優先すればいいのに。バカだよな」
布団に潜り込みながら苦笑するけど、心は逆にほっこりしている。
利用すれば金の卵にだってなり得るΩを、利用するどころか全力で阻止するって言うんだもんな。
あれにはビックリしたけど……
(でも、やっぱ嬉しかった)
ずっと男として暮らしてきたのに、いきなり『今日からΩです』って言われても心がついて行かなかっただろうし。
そもそもΩ自体がよく分からなすぎて、怖いってのもある。
俺が知ってることなんて精々が、発情期があることとフェロモンでαを誘惑するってことくらいだ。
あんな社会保障制度があることさえ、今日初めて知った。
「んん…やっぱちょっと調べてみた方がいいのかな」
自分の身体で知らないことがあるのは不安だ。
既に電気を消して寝る体勢に入っていたけど、スマホを引き寄せて検索をかけてみることにした。
「Ωの性質…Ωの生態……へぇ。あれ?」
調べていく中で気になったのが、性行為に淡白という部分。
羽鳥先輩を見ててもエロそうな身体つきをしているし、子供を産むための『性』というイメージだったから、もっとセックスに対して積極的なバースなのかと思っていた。
けど実際のΩは、発情期の時とαのフェロモンに触発された時以外は、基本的にあまり興奮しないらしい。
(へぇ。本当にαの為に存在するような性なんだな、Ωって)
どうにもこうにも他人事のように感じてしまう。
そんな性別が混じっているって言われても、何だか実感しにくい。
本当に妊娠なんかが出来るのか?って思えるし、αの嫁になるというのがそもそも無理だっての。
俺が嫁だぞ?
こんなゴツい嫁を欲しがるαなんかがいるのか?
試しにちょっと、ウェディングドレス姿の自分を想像してみるけど。
……うん、ないわ。
脳が引くレベルで、これはないと思う。
可愛い男性体のΩならまだしも、俺なんかを娶らなきゃいけないαが可哀想すぎる。
やっぱり悲劇を無くすためにも、俺はこれからもβとして生きていった方がいいと思う。
適材適所だ。俺も嫁になるより、可愛いお嫁さんをもらいたい!
そう決意を固めてから、ふと、俺の不甲斐ないクララさんのことを思い出す。
Ωが淡白っていうけど……。そういえば、俺のちんこも勃ちが悪かったな。
勃ちが悪い日は、確かに体調が良くない日が多かった記憶があるけど。
それが不安定なバースのせいだとしたら、この突然始まったEDにも納得がいく。
髭が生えにくくなったのも同じくらいだし。
「なんだよ。原因はバースの関係か? そりゃいくらやってもイケないはずだよ……」
納得したらなんかドッと疲れてきた。
この間もあとひと押しって所でイケなかったのは、きっとΩのバースが邪魔していたせいに違いない。
αのフェロモンで性的興奮が触発されるってことは、あの状態の時はαのフェロモンがないとイケないってことだろうし。
自分の身体なのに、自由に快感を得られないって何か変だよな。
「まぁ、悠のフェロモンを取り込んだ時は、すげー興奮したけど」
ただ、体調の良い日は、自力でイケたりもするんだよな。
よく分かんねぇけど、自力で射精が出来るってことは、βとしての性別が勝っている時だと思えばいいのかな?
(──ん?)
じゃあβとしてのバースがきちんと確定したら、このED気味なクララも元気に勃ちあがるってことだよな。
自分の考えに、光明が見えてきた。
……そうだよ!
バースのせいなら別にEDってわけでもねーし、俺だって女とセックスが出来るじゃん!
確かバースが確定するのは、20歳前後だったよな。
それまでにちゃんと確定させれば、普通に彼女だって作れる!
(やばいっ、嬉しい…!)
寂しい青春を送らなくてすむんだと思ったら、ちょっと泣きそうになった。
ほんと誰にも相談出来ないせいで、ずっと不安だったんだよ。
──あ…。でもそれまでに好きな人が出来たらどうしよう。
確定前でも好きな人が出来たら、やっぱ付き合いたくなるだろうし。
でもバースが確定するまで、清い関係でいてくれなんて言えないよな。
β寄りの時は俺だってちゃんと勃つことが出来るんだし、気合で乗り切ればなんとかなるか?
いや、待て待て。
いざ挿入の段階でΩ性が顔を出したらどうすんだ?
絶対寸前で中折れパターンが確定じゃん。
くそっ、これが一番最悪だ。
中折れなんて、俺も彼女も心にダメージを受けるぞ。
一回だけならまだしも、こういうのが何度も続けばきっと彼女も俺に呆れるだろうし、俺もまた勃たなくなるんじゃないかと思ったら、セックスに対して及び腰になってしまいそう。
そして本格的なEDになってしまう予感しかない。
マジかよ。ちょっと想像しただけで打ちのめされたんだけどっ!
───ここはやっぱアレか。
αのフェロモンが俺には必要ってことか?
いつ何時何が起こるか分からないなら、今のうちに悠が使ったハンカチでも貰っておけば良い気がしてきた。丁度いい所にお誂え向きのαがいることだし。
そうしたらいざ挿入!ってなった時も、ハンカチを嗅げば俺のクララだって昇天間違いないだろう。
「あのフェロモン、すげー威力だったしな」
ちょっと身体に入っただけで、空になるまで勃起が治まらなかったくらいだ。
すげーセックスが出来る気がする……!!
彼女とのえっちのために、悠のハンカチを利用するのもどうかと思うけど、中折れよりも俺は勃起力をとる!
身近に悠がいて、本当に良かった。
俺は、悠のハンカチを手に入れると決めた。
◆◆◆
そして天は俺に味方してくれたようだ。
今日の体育は、体育祭に向けての200m走のタイム記録。
天気は快晴。6月の初めとはいえ気温がかなり高く、立っているだけでも汗ばんでくる陽気だ。
もちろんこの暑さの中、200mも走らされるのは正直勘弁して欲しい。
が、今日だけは文句を言わない。
それを差し引いても、今の俺にとっては最高のシチュエーションだと言えるし。
(これだけ暑ければ、いつも涼し気な顔をしている悠でも、流石に汗をかくだろうっ!)
平然とした顔で順番待ちをしている悠を盗み見ながら、思わずニヤけそうになる顔を必死で引き締める。
さぁ、遠慮なくいっぱい汗をかくといい!
そしてその汗を拭ったハンカチを、俺に寄越してくれ!!
あ、もちろん俺の200m走のタイムは手を抜きました。
良い記録を出した人は、クラス代表として強制的に200m走に出場させられてしまうからね。
出るだけなら別にいいんだけど、部活動をしていない生徒は体力づくりの為に、毎日放課後にトレーニングが待っているんだよな。
本当に勘弁してほしい。
俺はバイトもあるし、出場するならもっと楽な競技に参加したいよ。
(それにしても暑ぃ……)
いくら歓迎だと言っても、ものには限度がある。
走り終えたばかりで息を弾ませながら、ジャージの上に置きっぱなしにしていたタオルで汗を拭った。
拭いても拭いても汗が止まらない。
止まらない汗を拭っていると、ワッと湧き立つような歓声に思わず顔を上げる。
見ると、案の定悠がレーンを走っている所だった。
そりゃ女子の歓声もあがるはずだよ。
(まだ人気が衰えていないのか?)
収まる気配がないのにうんざりくる。
悠が注目を浴びていると、コソッとハンカチをもらうことさえ難しくなるし。
(困ったな。どうやってもらおう……)
思案しながら悠の走りを目で追っていると、
──あれ? あいつ手ぇ抜いてねーか?
どことなくやる気のない走り方をしている。
なのにどんどん他のβ軍団を引き離しているという、謎の凄技を見せていた。
速ぇ…。
何でその走りで、そんな出鱈目な速さが出るんだよっ!
手を抜いてるのに、誰よりも速いなんて……。
「こういう時は悲しい能力だな、悠」
今年のクラス代表は決まったな、と思わず黒い笑みを漏らしてしまう。
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