ノンフィクション・アンチ

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第1章 柳田 影

第2話 確信

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 影はすごく困惑した。完全に零だ。人物像、エピソード、全てが、零だったのだ。8人グループ。正直、そんなに零に友達がいた覚えはなかった。アンと呼ばれる人も、絶対に「佐藤杏子」だ。零は根暗で、友達の話は杏子との思い出しか聞いた事はない。
 そして、影は知っていた。零が虐められていたことに。零の口からは虐められているという言葉は出てこなかったが、零が男子に虐められている所や、ぬいぐるみを千切られたりしている所は見た事がある。虐めた人は誰なのかわからない。この作者は、零の味方だったのだろうか。そして、作者の名前を見る。「勿忘リン」。ペンネームだろう。やはり聞いた事がない。そして、零の友達の名前を調べることはできない。なぜなら、卒業アルバムがないからだ。小学校の卒業アルバムがない。逝去してしまった時点で、除籍扱いとなる。卒業アルバムを持っていないのだ。幼稚園時代の卒業アルバムはあるが、小学1年生から引っ越してきたばっかりで、前にいた街の幼稚園のアルバムになっている為、わからなくなってしまっているのだ。影は悩んだ。知りたい。この作者を。妹の自殺をした理由を。
 そして、最後の帯に書いてある言葉。
「この物語はフィクションです」。
 その言葉に影はとてつもない不快感を覚えた。死んでしまっているからって、存在しない者として扱うのか。そして、零は8人と仲がよかったのか。これがもし仮に真実だとしたら、零は幸せだったであろうが、そういう訳にもいかなそうなのだ。
 気づいたのだ。最後のシーン、「手紙」について。影は、零と一緒の部屋で寝ていた。零は亡くなる1週間前、凄く元気だった。そして、宿題をやってすぐ寝ていた記憶。手紙を書く暇などないはず。零とエピソードが似ているだけのフィクションなのだろうか。そんな風に、影は何度も何度も見返した。時間を忘れるくらいに。
 日を跨いだ。その日も仕事だ。食パンを一枚頬張り、書店へ行った。「勿忘リン 苦しみのレイラ」。この本をすぐに購入した。コーナーには、キラキラしたポップで、こんな事が書いてあった。
「21歳の新人作家、勿忘リンの初回作品!!」
「〇〇大賞受賞!!」
 影は唇を噛んだ。21歳。4つ下。零と、同じ歳。勿忘リンのファンである、澤田愛の元へ早く行きたい。そんな思いで、会社へと向かった。そして、両親と零へ「行ってきます」を言うのを忘れていたことに気づいた。影は
「お父さん、お母さん、零。待っててね。」
と呟いた。
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