スライム＝おっぱい

4話 尻の痛みもスライムで解決

　最近の馬車は車輪に特殊な加工と座席に敷物がされているそうで、長距離の移動が楽になったらしいが、そんな最新の馬車に乗れるはずもなく、痛みが出る前にカップをクッションにして向かう先は隣国。
　ギルマスから依頼を受けたときはドラゴン運送を使ってくれるのかと期待したが、Bランクの冒険者がそんな移動手段を使うはずないと言われてしまえば納得するしかない。

　ドラゴン運送はテイマーとして天性の才能を持ったエルフ達が作ったギルド。その名の通りドラゴンやワイバーン、グリフォンなど空を飛ぶ大型の魔物を使って物や人を素早く運んでくれる。

　ドラゴンは当たり前として、次に人気なのがペガサス。馬に乗る要領で空の旅を楽しめるそうだ。
　さらにプロポーズが絶対に成功すると言われている。ペガサスに乗れるようなやつは金持ちだろうし、断ったら落とされそうだなとかはみんな思っているはず。

　そんなギルドを運営するのが、どこにも属さないエルフ達。
　エルフは神の使いとも言われるほど美人しか存在しない。しかし貧乳である。

　大昔にエルフ達を征服しようと人族が一致団結したらしいが、逆に征服されそうになった歴史がある。
　エルフの数は少ないが魔物や動物と意思疎通が取れているような連携に人族は勝てるはずもなく降伏した。

　人族を撃退したエルフは征服を望まず、エルフに危害を加えないことは前提条件で、共存を望んだ。
　人族と共存したエルフは様々な進化や変化を遂げる。

　元々の美しくテイマーとして優秀なエルフ。物創りが得意なドワーフ。獣と交わった獣人族。様々な種族と関わりを持ったハーフリングや妖精、魔物と呼ばれる存在もいる。サキュバス、インキュバス、ナーガやリザードンマンなどなど。

　人族以外の種族は、元を辿ればエルフと言われている。オメガ先生の書籍では、エルフは何者にでもなれる存在で本当に神の使いではないかと書かれていた。

　そんなわけで共存できない存在は危害を加えても問題ない。だから馬車を襲ってきたエルフ達(魔物)を倒しても問題ない。

「この辺はサキュバスばかりですね」
「だな。めんどくせぇ」
「そんな事言わずにちゃっちゃとやるわよ」

　隣国のスパイなんて1人で出来るわけもなく、3人でパーティーを組んでいる。
　2人共女性で、赤髪の左目に眼帯をつけて軽装備で貧乳の方が双剣使いのアーニスさん。
　可愛らしい声からは想像できない鍛え上げられた筋肉を持つフルアーマー装備のドワーフで大剣使いのニジーナさん。

　2人共Bランクの先輩で、そこまで親しくはないが何度かパーティーを組んだことはある。

「はい、おしまいです」
「お疲れさん」「お疲れ様です」

　隣国の国境を超えて3度目の襲撃。ここまでサキュバスの数が多いと隣国は滅んでいるのではと思ってしまう。
　ちなみに馬車を操縦しているのはアーニスさん。片目だけでも遠くの方まで見えるらしい。

「しかしここまで襲撃が多いと帝国は滅びてんじゃねえのか？」
　アーニスさんも同じことを考えていたようで、フルアーマーで表情は見えないが困ったような仕草で頬に手を当てながら二ジーナさんが答える。
「そうね。流石にサキュバスが多すぎるわ」

　俺の住む王国の隣国はマ帝国と呼ばれている。様々な種族が集まりできた国。知性あるものなら魔物でも住める国だ。
　ルールがあるようでない国とされている。

「サキュバスの女王が誕生したという話は真実だと思いますか？」
　荷台から顔を出して御者台に座っているアーニスさんと二ジーナさんに話しかける。
「かもな。そういや半年くらい前だろ？　帝国から使者が帰ってこないって騒ぎになったのは。調査に向かった騎士団からの報告で何もなかったって話で、使者は魔物に襲われたってことになってたよな？」
「そんな話もあったわね。結局、その騎士団は操られていて帝国の様子は分からないってことよね？」

「ですね。サキュバスの女王に帝国民は操られていると催眠男は言ったそうです。王国の女性を狙ったのは帝国に人族の女性が少ないことが関係しているようですが、本当なのでしょうか？」
「それは本当よ。一度帝国に行ったことがあるけど、人族は男性が多いのよ。女性は殆どエルフや獣人、ドワーフとかね。友好的なサキュバスやナーガ、アラクネなんかも居たわ。みんな見た目がいいのよね」
「聞いたことあんな。金があるなら帝国に行け、綺麗な嫁をたくさん作れるって。しかも女を惚れさせれば働く必要もなくなるらしいぜ」

「男が一度入ったら出られないって噂も聞きましたね。よく国として認められてますね」
「聖王国とは敵対してるわね。たまに小競り合いもやってるみたいよ。ただ、いろんな種族が集まっているだけあった技術力が高いのよね。だから国まで発展して周辺国と協力関係を築いてきたはずなんだけど」
「サキュバスの女王が誕生して、周辺国の征服を目論んでいる可能性があるってか？」
「それを調べに行くんじゃない」

　再確認のため、ギルマスから聞いた話をもう一度する。
「同族を増やす実験が成功したと催眠男は言ったそうですから。同族を増やして周辺国に攻め入る可能性は十分にあるでしょう。現に王国に催眠男を送り込んで詐欺を働かせているようですから、他の国にも何かしらの行動はしていると思います」
「かもしれないわね。王国だけを狙っているって可能性は低そうよね」
「狙われる理由がわかんねえからな。人族の母体が欲しかったとかか？」

「他国の民を使って実験を行うとしている時点で敵対行為でしょう。まあ俺達は派手に動かず情報を集めてギルマスに丸投げしましょう」
「そうね」「そうだな」

　帝国は自然豊かな土地を多く所有しているが、大きな街は帝都のみ、同種族が集まる村が点々と存在している。
　稀に別々の種族が集まって村を作っている場合もあるとか。

　帝都に向かう途中、立ち寄る村で帝都の様子を聞くが行ったことはないや知らないと言うのがほとんどだった。
　税を収める必要もなく自由に暮らしている。
　代わりに自分のことは自分で解決する必要があり、魔物やサキュバスの討伐を依頼されることがあった。

　村の男が襲われるそうだが、一度襲われると自分からサキュバスに近づくようになり、村に帰ってこなくなるとか。

「帝都に連れて行かれていると？」と村人に聞いてみたが「分からない」とのこと。
　帰ってこない男達、男を追いかけた妻も行方不明になっている。

「足跡も綺麗サッパリなくなってるな。魔法で消してんだろ」
「とりあえず出てきたサキュバスは倒しましたし、一度村に戻りましょう」
　アーニスさんの左目は特別で、眼帯をつけていても景色が見える。さらに罠や魔法の発見ができるとか。

「眼帯を外したらどうなるんでしたっけ？」
「情報過多で頭がパンクする」と昔答えてくれた。

「やっぱり帝都に向かってるの？」
「だな。来る方向も帰る方向も同じだ」
「帝都に向かうしかないですね」
　サキュバス退治の報酬に一日泊まれる空き家と夕食、多少の食料をもらった。男手は減ったが元々魔法が得意なエルフの子孫だけあって、基本的に魔法を使った農業を行い食料は十分にあるようだ。

　ベッドは小さい女性2人で寝るには十分な大きさなので、2人に使ってもらい俺は床で寝ることにした。
　寝る前の情報整理を行っていると、2人からの視線を感じる。

「あんなにサキュバスから誘惑されて、オレ達を襲わないとか、ちんこ付いてんのか？」
「こらこら、ラパくんを煽らないの。ムラッとキてるのはわかるけど、落ち着きなさい」
　精神魔法の誘惑をくらっていたのは俺だけではない。サキュバスからの誘惑は女性に効果はないと聞いていたが、誘惑された数が多すぎたらしい。

「あはは。なんと言えばいいか」
「そんなに魅力ねえか？　うっ、自分で言って悲しくなってきやがった。悪かったな！　ガサツ女で！」
「アーニス、落ち着いて。誰もそんなこと言ってないわよ。私なんてチビで子供っぽくて、女性としてみられることなんて…」
　アーニスさんと二ジーナさんがチラチラとこちらを見る。2人共魅力がないとは言わないが、おっぱいがない。ここは逃げる。

「えっと、外の空気吸ってきま～す」
「「ちっ！」」
　舌打ちが聞こえたのは気のせいだろう。

　しばらくして戻ると、2人は裸で抱き合ったまま眠っていた。嗅いだことのない匂いが充満していたが、気にせず床で眠ることにする。
　夜中に襲われないようカップを見張りに置いておく。