黒幕はアンネリーゼ

雨傘るぶる

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2、アンネリーゼという少女

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城というものはその土地の権力者が住む、権威の象徴であり目下の物に威圧感を与えるための謁見室なんてものも存在する。そこには当然城主が座るための玉座があるし、城主というのはどうしてそうなったのかわからないがこの城の場合アンネリーゼのことを指すのである。
 つまり何が言いたいのかというとアンネリーゼは現在、無理やり城の玉座に座らせられているということである。
 服装もイルヴェリナの髪の色と同じ真っ赤なドレスを着用し、何を思ったのかイルヴェリナはメイド服へと着替えたうえ隷属の証だとでも言わんばかりに自らかなりごつめの軍狼が付けるような首輪をつけだした。
 アンネリーゼの頭の上に?が飛び交っていることを確認したイルヴェリナが一応説明はしてくれたが、
「これは、あなた様が上であり、私が下であるとどこの馬鹿が見ても一目でわかるようにするための首輪です。あなた様は何も気にせずお寛ぎください。」
アンネリーゼには何を言っているのか理解の及ばない範疇なのであった。
 そもそもにして、廃城にやってくるようなことがなければこんな理解に苦しむ状況になっているはずもないのだが、アンネリーゼは自分の意志でこの廃城に来たわけではなく、ある種、追い立てられ迫害されるような状態でこの廃城にたどり着いているため、この状況は必然であったと言われれば納得するしかない状態ではある。
「そういえばアンネ様。私に刺さっていたあの剣なんですが、長年の風化によって効果が薄くはなっておりますが強力な力のこもった魔剣ではあるので、護身用として肌身離さず持っていてくださいね。」
 アンネリーゼは改めて腰に括られた剣に目を向ける。イルヴェリナはとても重そうにその剣を抱えていたがアンネリーゼには羽のように軽く感じられる。魔剣などと称されている所を見るにアンネリーゼがこの剣に重さを感じないのは何かしら剣の効果が働いているからなのであろう。
 そっと鞘から剣を引き抜き、黒く輝く刀身に映る自分の顔を覗き込む。
 黒い髪と黒い目。相手を睨んでいるかのような三白眼。ほとんど動くことの無い引き結んだままの口。アンネリーゼは自分の顔が嫌いだった。
 睨んでいただろうと因縁をつけられても言葉を発することが難しい口では否定することもできない。結局相手の言い分が正しいことになる。
 そもそもアンネリーゼがこの城に来ることになったのも、アンネリーゼを気色悪いと思っている人物にあいつは魔女だと虚偽の報告をされたからであった。
 即座に処刑とならなかったのは物的な証拠が少なく口からでまかせの証言しかなかった為ではあるが、それでも大事をとって追放。それも凶悪な魔獣が住む地域まで監視付きで連れていかれてのことだ。
 大体が魔獣に襲われて死ぬだろう。実質的には死刑と何も変わらない処置だったのだ。
「それでは私は食料を調達してきます。結界を貼っていますので心配ないとは思いますが、万一にも侵入者が現れた場合は私の隠し部屋へお隠れください。」
 イルヴェリナが言葉を終えたその瞬間、イルヴェリナの体が霧状に霧散し、瞬きひとつする頃には影も形も存在しなかった。
 あまりにも不可解な現象に、一瞬イルヴェリナが自分の妄想の中から生まれた都合のいい幻想なのではとアンネリーゼは疑いそうになるが、腰に下げた剣の重みとアンネリーゼの身につけている深紅のドレスがそれを否定する。同時にイルヴェリナが現実を疑ってしまうほどの現象を起こせるほどの人外な存在であることを認識し、改めて彼女が恐ろしくなるのであった。
 どれだけ恐ろしいと感じていても体は正直なもので、様々な体験をした体は疲れきっており深い眠気が襲ってくる。結局眠ってしまったアンネリーゼはイルヴェリナが戻って来るまで1度も起きることはなかった。
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