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「買ってきた酒、結構飲みました?」
「うん、北川くんを待ってる間に一本飲んじゃったよ」
「まだ飲みます?」

いつの間にか終わってる動画。
携帯から手を離したカナさんは
俺の濡れてる髪の毛を、かきあげるように触れてくる。

誘っ…………、てんのかやっぱこれは。

「飲まない、かな?」
「ま、もう飲ませるつもりもないけど」

完全に誘うような唇に
引き寄せられるようにキスをした。
吸い付くように求めれば
それに負けないくらいに色っぽく答えてくれる。

「…………するの?」

ちゅぱ、って音を立てて唇を離せば
とろんとした目で見つめられてそんなことを言われるから
抱き合うような形から
一気に跨るように押し倒した。

「こんな状況で何もしない男だと思ってた?」
「そんなこと思ってないよ」
「じゃあこうなることを予想して誘ってたってこと?」
「……………ふふ、どうだろ?」

どうだろ、って……。
こんな状況になってもまだ余裕そうなカナさんに
ぐりぐりとおでこにおでこを擦り付けた。

「痛たっ、いたいよ~」

クスクス笑いながら俺の頬を両手で包み込んで
もう一度軽く唇を重ねる。

「もう……、どういう状況なんだよこれ………」

我慢しきれずに漏れる本音に
カナさんは少し困ったように眉を下げた。

「北山くんは嫌?」
「俺は男だしラッキーだけど
カナさんはこれでいいわけ?」
「うん」
「でもっ、俺のこと好きなの?」
「ん~……、」

やっぱり分からない。
カナさんの考えてることも
これからしようとしてることも。

「でも、北川くんになら抱かれたいって思うかも」

曖昧な言葉なのに
身体はちゃんと俺を素直に求めてくれる。



「………北川くん………っ、」
「可愛い………」

俺はもう既に取り返しがつかないくらい溺れそうなのに
きっとカナさんは俺には溺れてくれない。

なんとなくそれは感じ取っていた。





━━カナside

「……………、」

あれ。
想像以上にやばかった、北川くんが。

まだ息が乱れてる中、ベッドに横たわる私の横に並ぶように倒れてきて
視線が合わさる。

「どうだった?」

その目は、その言葉は
きっと自信に満ち溢れてる質問。
まぁそりゃそうか、最中の私の反応見てたら分かるか。

「気持ちよかったよ」
「ほんと?」
「うん、やばかった」

恥ずかしげもなくそう答える私に目を丸くしたあと
分かりやすく嬉しそうな顔を見せた。
可愛いなぁ、とは思うけどなぁ……。

「カナさんって、いつもこんなことしてんの?」
「ん?こんなことって?」

いつも男をホテルに誘ってるのかってことだよね、
分かってるけどとぼけてみると
いやなんでもないや、って。

頭の下で腕を組んで寝転ぶ彼に
ぴとっと寄り添うようにくっついた。

「してないよ、少なくてもどうでもいい人とはしない」
「………それって、俺は少なくてもどうでもいい人ではないってこと?」
「うーん、多分」

曖昧な言葉で濁すのは
曖昧な関係を続けたいから。
決定的な関係なんていらないから
寂しさを埋めて欲しいだけ。

「……ほんっと分かんねぇ、」
「うん、私も自分がよく分かんないから気にしないで」
「ふは、何それ」

同じ会社の子とこんなことになると色々厄介だから避けてたけど
北川くんはなぁ~、たまに視線を感じたし
可愛いし、色気もあるし、ワイシャツの上からでも分かるくらいいい体してたし。
とりあえず今を楽しみたいなぁって思っちゃって。

「………軽蔑した?」
「え?なんで?」
「だって誘ったのは私だし……」
「でも手を出したのは俺じゃん?」

さっきまで年下とは思えないくらい色気を纏ってたのに
急に可愛い小動物みたいに首を傾げてそう言うから
思わず笑ってしまった。
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