ある日、ペットになりました。

みゆ

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「わ、わたしも何か食べようかなっ!」


動揺を悟られないようにそう言って
メニューを大袈裟に上に上げて顔を隠した。

手を触られただけで動揺するとか
中学生じゃないんだから。
でもなんか
触れられた感触がすごく心地よくて…。



「食いもん、なに好きなの?」

「んー…、お肉?」

「肉?」

「焼肉とか毎日でもいいくらい好きです」

「ふはっ、そんな可愛げない答えある?」


初対面でそれはねぇだろ、って可笑しそうに笑うから
メニューを顔の前から下ろした。


「だ、だって、別に可愛こぶる必要ないしっ」

「んー、まぁそうか」

「桜庭さんは?なにが好きなの?」

「俺も肉かな~。
最近だとホルモンとかすげぇ好き」

「あ、いいですね!
私もおいしいホルモン食べたーい」

「なんだよ、
じゃあこんな小洒落た居酒屋こねぇで、焼肉いきゃあ良かった~」

「うん、全然焼肉で良かったのに」

「いや一応ね?
初対面の女の子焼肉に連れてくとか、ねぇかなって気を使ったわけですよ」

「えー?そんなキャラですか?」

「おいっ」


お酒の力も手伝ってか
北山さんの雰囲気なのか
もうすでに何の遠慮もなく話せるし
敬語もなくなってるし・・、
正直たのしい。



「うし!
食って食って飲みまくろうぜ」

「ですね!
失恋にはヤケ食い、ヤケ酒ですっ!」

「そうそう、
飲みまくって潰れたら介抱してやっから安心しろ」

「……え、」


その言葉に、食べる気満々に箸を掲げていたのをおろして思わず引いた。


「苦しそうにしてたら服脱がして~、下着も、

「ちょっと!!///」


冗談だって~、ってケタケタ笑うけど
あながち冗談でもない気がする。

・・のに、その笑顔が可愛いから心の防御がゆるゆるになっちゃう。この人。




それからお酒も食べ物も進んで
いい感じの状態になっちゃった頃


「ていうか!
ビンタをくらう北山さんにも問題あると思うっ!」

「えー?そうか?」


ビールをテーブルにドンッ…、と置いて
前のめりに北山さんを見つめた。

さっき出会った瞬間に
”関わりたくなーい”とか思った自分が嘘みたいに。


「いや、そうでしょ?!
彼女がいるのに他の女の子と遊ばれたら、いい気はしないし」

「ふーん。
そういうのが、めんどいんだよなー」


・・・ほんと最低だ、
って内心思うけど
それに匹敵するくらいの最低さを私も持ち合わせてるから何とも言えない気がしてきた。

だって私も・・、


「……でもちょっと分かるかも、」

「へ?」

「私もそういう恋愛向いてないのかもしれないなって。」

「えー?なんで?」


あざまーっす、って店員さんが持ってくる料理に反応しながら
私の話を真剣に聞く気もないこの雰囲気に
なんだか話しやすくてついついさっきまでの心の声が漏れ始める。



「さっき彼に別れ告げられたとき
悲しみよりも、彼の家にある私の私物どうしようとかそんなことばっか考えちゃって」

「うーわ」

「どうせ振るなら、誕生日前にしてほしかったし!
なんで別れる男にプレゼントとか買ってあげなきゃいけないのよっ!って。」

「あ、それはその男せこいな」

「でしょ?!
あそこのキャップ欲しい~とか、ちゃっかりリクエストまでしてきて!」

「完全に別れる前に貰っとくか、って感じだな」

「そうなの!
それがさ、別れのしんみりした空気感の中そういうことばっか頭をよぎったんだよねぇ…、」

「ほぉ~。
でも悲しそうな顔してんじゃん?
悲しかったんじゃねぇの?」

「………うーん……、」


失恋の悲しみはないはずなのに
なぜだか悲しくて苦しくなる胸。

それはきっと、


「……愛が欲しいのかも。」

「あい?」


初対面で
まだ出会って間もないのに
何を語っちゃってんだろう、私。
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