がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト

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▶︎アン失踪事件

第7話 アン失踪事件

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 ◇


「ミチさんいるー? ……っと、やあリトくん。店番かい?」

 暖簾をかき分けて店内に顔を覗かせたのは、クラスメイトの田中んちのおじちゃんだ。

 ねじり鉢巻を頭に巻き、祭でもないのに一年中商店街の宣伝入り半被を着ているこのおじちゃんは商店街・連合会会長で、ふしぎ堂を含め、ここら辺で営業しているお店の主ともとても仲がいい。

 年齢差があるうちのばあちゃんとも気さくな茶飲み友達みたいになっていて、時々うちへも遊びに来るんだけど、いい年した大人なのでもちろんにゃすけの声は聞こえていない。

 にゃすけが猫かぶって「ぶにゃー」と鳴くと、「おう、にゃすけくん。今日もまるまるしてて元気そうだねえ」と、褒め言葉なのかなんなのかよくわからない挨拶を投げていた。

「ちわー。うん、まあそんなとこ。ばあちゃんなら今さっき夕飯の食材買いに行ったけど、外ですれ違わなかった?」

「ああ、そうだったんかい。いや、今日はスーパーとは別方向から来たからね。行き違っちゃったかあ。老人会会長推薦の件、答えを聞きたかったんだけども……っと、そうだ、それよりも!」

 ――と、ここで、急に険しい顔つきになって身を乗り出してくるおじちゃん。

 なんだ? と首を捻るオレにおじちゃんはさも一大事だというように、神妙な声色で告げた。

「今さっきそこで山田さんちの奥さんにバッタリ会って聞いたんだけど、星名さんのところのアンちゃん、行方不明になったらしいよ」

「えっ、なんで⁉︎」

 思いもよらない言葉に、目をひんむいておじちゃんを見る。

 おじちゃんはうんと声をひそめ、心底心配するような声色で続けた。

「それがね、リムジンで学校から帰宅する途中、『ちょっと気になることがあるから車とめて』って言われてその通りにしたら、『すぐ戻る』って言い残して外に飛び出して行っちゃったっきり戻ってこないらしいんだよ」

「な……」

「執事さんがえらく慌てた様子でこの辺を探し回ってたそうでさ、山田さんも、すぐに警察に通報した方がいいってアドバイスしたみたいなんだけど、『まだ事件や事故、誘拐と決まったわけではないし、確認が取れるまで大事にしたくないから、秘密にしてほしい』って、涙目で懇願されちゃったらしくて」

「まじか」

「うん、まあ、そうは言われても心配だよねぇ。でもその執事さんのいうこともわからなくもないっていうか……。アンちゃんのところのお父さん、すっごく厳しくて身内にも容赦ない方だってここら辺じゃ有名だから。その執事さん新人らしいし、着任したばかりでいきなりそれじゃあクビにされるのも確実だもんなあ」

 苦笑ぎみにそんなことを言い出すおじちゃん。

 大人の事情ってやつだろうか。秘密って言われて秘密にしておかないのも大人の悪いところだよなと、オレは噂話が好きな近所のおばちゃんの顔を思い出して苦い顔になりながら「そっか」とだけ、相槌を打っておいた。

 でも正直――。

 執事さんのことより、星名の行方が気になっていた。

 アイツはいったいどこ行ったんだろう?

 オレにわかるはずもないのに、アイツがいきそうなところを考えて首を捻っていると、おじちゃんが腕時計を見て言った。

「っと、時間だ。とにかくまあそんなわけだから、もしリトくんも心当たりのある場所とかあったら覗いてみてもらってもいいかい? あの子もさ、色々と可哀想な子だからね」 

「へ? 可哀想……? どういうこと?」

 星名と可哀想という要素が結び付かず眉を顰めてそう訊ねると、おじちゃんはポリポリと頬をかいてこぼす。

「いやさ、アンちゃんのお母さんって、うんと昔に病気で亡くなってるじゃない」

「え⁉︎ そうなの?」

「ああ。彼女には兄妹もいないし、アンちゃんのお父さんは仕事が忙しくて家に帰るのも夜遅いって話だから、常に家で一人ぼっちってことだろう? せめて寄り添える友達がいれば多少は救われるんだろうけど、あそこは英才教育が盛んなご家庭だから、習い事が多くて友達なんかも作ってる暇がなかっただろうし、彼女に心の拠り所なんてあったのかなって」

「……」

 オレは言葉に詰まる。

 知らなかった。想像もしていなかった。

『普段強がって見えても実は悩みを抱えてたり、人に見せてないだけで弱い部分があったりもするかもしれないでしょ』

 悩んでいたかどうかまではわからないけれど……。

 本当は、友達を作りたくても作れなかっただけかもしれないのに、

〝おまえ、友達いないっしょ?〟

 その一言で星名を深く傷つけちゃったかもしれないし、

『あんまりそういうこと、本人に言わない方がいいと思うけど』

『何気ないその一言が相手を深く傷つけちゃう場合だってあるでしょ』

 ――全部、ルカの言う通りだった。

「……」

 顔を上げたオレは、強く唇を噛み締め、サッと踵を返す。

「さてと、じゃあ……って、あれ、リトくん?」

「ごめん、おっちゃん。オレ、ちょっとオジョー探してくる!」

「へ⁉︎ ちょ、まっ」

「大丈夫! 店の鍵ならにゃすけがかけられるから、外出る時にそこにある『離席札』だけかけといて!」

「いやいやいや猫なんだが⁉︎ って、ちょっとリトくん――⁉︎」

 困惑気味に叫ぶおっちゃんを無視して、店の外に飛び出すオレ。

『ぶにゃー』と鳴くにゃすけの声を背中で受け止めながら、かくしてオレは忽然と姿を消した星名の行方を追うこととなったのだった。


 
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