喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

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4話 保護者

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 悠希たちが去ってから数分経った頃、扉が開いた。

「生きてるか~?」

 呑気な知らない声が部屋中に響いた。涼太がピクリとも反応しなかったため、声の主は焦って近づいて来た。

「やばいやばい。もう死んじまったのか?」

 ギロッと睨み上げる涼太に声の主だった男は、安心して息をついた。

「なんだ死んでないじゃん」

 男は20代くらいだろうか。神官が着ていた白衣は着ておらず、シンプルな形の黒いスーツを着こなしている。後ろで結われた髪は夜のような暗く深い青、瞳は髪よりも明るいが同じ深さの青。クールな見た目と呑気な口調はミスマッチだ。
 男は小さく抗う涼太を簡単に起こし、懐から小瓶を取り出した。小瓶の中には青と緑の間の色をした液体が入っている。

「魔力回復薬だ、ちゃんと飲めよ~」

 男は小瓶を開け、涼太の口に押し付けた。知らないものを飲む気にはなれず、涼太は口を固く閉ざした。液体が口元と白いカッターシャツを汚した。

「ちゃんと飲めって」
「んぐっ…!?」

 口に指を突っ込まれ、無理矢理口を開かされた。見た目通りのまずい味が口に広がり、涼太は精一杯暴れたが、男の力は意外にも強く少し飲んでしまった。
 液体を飲んでしまったせいか少しだけ身体に力が入るようになった。残り半分くらいの小瓶から顔を背けた。残っていた液体はびちゃびちゃと床にこぼれた。

「こぼすなよ~。全部飲まなきゃ回復しないぞ?」
「…うるさい」

 涼太は男を押し除けようとしたが、力が足らず、男の腕の中から逃げられなかった。

「仕様がないな~。舌を噛んでくれるなよ」

 顔に影がかかり、2つの唇が重なった。

「んんっ!?」

 ぬるっと侵入してきた男の舌は涼太の口の中で暴れ回った。押し除けようとしても力が足りない。

「や…ん、やめ…っ」

 隅々まで舐められ、ほぐされた。上手く息ができず、全身から力が抜けて来た時、男の唾液が舌を伝って流し込まれた。思わず飲んでしまった。それは熱くて。飲んだ瞬間、身体中に巡っていく感覚がした。

 涼太は知らなかったが、魔力は体液を介して生物の身体中を巡っている。そのため、魔力回復をするには魔力回復薬以外にも他の生物の体液を取り込むことでも可能なのだ。

 熱さが巡るにつれ、身体に力が入ってきた。不思議な感覚に、そのまま舌が促すまま何度か喉を鳴らした。

「ぷはっ…はぁ、はぁ…」

 やっと唇が離れたとき、魔力は回復したものの酸欠で身体はまだ動かせなかった。力が入らず、舌を口に戻すことができない。

「あー、やりすぎたか…?」

 くたっと腕の中で動かない涼太を見下ろして男は苦笑いした。罵ってやりたかったが、疲れた口は思うように動かなかった。

 (いろいろありすぎて、流石に疲れた…。はる…、…)

 涼太はそのまま意識を手放してしまった。

「やっちゃったな~…」

 男は軽くため息をついた後、よっこらしょと軽くはない涼太をお姫様抱っこし、自分の屋敷へ向かった。

 ○○○

「ただいま~」

 教会から馬車で屋敷へ帰ると、出迎えてくれた2人の使用人は驚いて目と口を丸くした。

「エトワール様、その方はどうされたのです?」

 黒いスーツを文句のつけようもないほど完璧に着た初老の執事が代表して言った。

「教会から連れてきた」
「誘拐かしら?」

 初老の執事の隣にいた同じく初老のメイドが首をかしげて人聞きの悪いことを言う。

「言い方が悪いよ…。保護したんだ。悪いが兄上に手紙を届けて欲しい」
「かしこまりました」
「頼むよ、リュシオル」

 リュシオルと呼ばれた初老の執事はお任せくださいと微笑んだ。

「この子を使っていない部屋に寝かせてくるよ」

 涼太を抱いたまま階段を上っていく主人を、心配そうに執事とメイドは見送る。

「騒がしくならなかったらいいわね」
「そう願うばかりです」
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