喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

文字の大きさ
5 / 24

5話 独りぼっち

しおりを挟む
 バスチアンたちに連れられて、応接室へバスチアンとカンティークと3人で入った。高そうなソファに促されるまま座ると、対面にはカンティークとバスチアンが座った。出された紅茶に手をつける気にはならず、悠希は下を向き続けた。膝の上で震える自分の手が情けない。こんなとき涼太なら…と涼太にすがろうとする自分も情けない。

「…改めまして、副神官長のカンティークと申します。神官長が現在お務めができない状況ですので、私が代わりに対応させていただきます」

 何も反応しない悠希を気にしながらもカンティークは話を続けた。

「まだ混乱していらっしゃるのは重々承知ですが、お伝えすることがありますので少しだけお付き合いください」

 悠希を安心させるためにカンティークは笑みを浮かべたが、彼の笑顔は相変わらず胡散臭い。
「これから聖女様には、魔族と戦うために多くを学んでいただかねばなりません。そのために王立学園に編入していただきます。貴族のご子息・ご令嬢が多く通っていらっしゃいますから、きっとご友人もできるでしょう。それに-」

 リラックスしてもらえるかと言った友人という言葉は逆効果だった。ゆっくりと顔を上げた悠希の目に映るのは涼太じゃない。

「…ゆうじん」

 髪をくしゃっと握りしめるように悠希は頭を押さえた。独りであることを自覚し、息苦しさに呻いた。
 様子のおかしい悠希にカンティークよりも先にバスチアンが動いた。

「聖女様」

 ひざまづいて悠希の目を真っ直ぐに見つめる。

「聖女様…いえハルキ様、大丈夫ですよ」

 涼太のような、悠希に宛てた言葉に彼は少し落ち着いた。

「お疲れのようですから、お話はここまでにいたしましょう。お部屋をご用意させていただきましたからそちらでお休みください」
 
 カンティークに手を支えられてのろのろと立ち上がった。扉へ向かう2人にカンティークは最後に1つだけ、と追いすがった。

「勝手なことを申しているのは分かっております。…ですが、何卒私たちを、世界をお救いください」
 
 深々と頭を下げるカンティークに、悠希は思わず身体を引いてしまいバスチアンにぶつかった。この世界で生きる覚悟も世界を救う覚悟もない悠希はうなずくことができなかった。返事もしないままバスチアンに促され、部屋を出た。
 1人残された部屋でカンティークは、自身の情けなさに唇を噛み締めた。

「ハルキ様、先程のカンティークの申したことはしばらくお忘れください」

 どうして?と思ったのが顔に出ていたらしい。バスチアンは話を続けた。

「確かにハルキ様にお救いいただくためにお呼びしました。ですが、魔族の脅威にはまだ少し距離があります。ハルキ様には脅威が訪れるまでに、この世界に慣れ、お力をつけていただきたいのです。救ってくれという願いは今のハルキ様には重たく、邪魔になってしまいますから」

 ハルキを思っての言葉に、心が傾いていく気がした。はい、と小さく返すと、バスチアンは微笑んでくれた。

「本日はこちらでお休みください。お食事もご用意しておりますから、冷めない内に召し上がってください」

 だだっ広い部屋に通されて、バスチアンも行ってしまった。独りになって、扉の前で立ちすくんだまま動けない。疲れてしまった。ご飯も美味しそうだが、何故か食べる気にはなれない。
 しばらく経ってやっと動き出した悠希はベッドに倒れ込んだ。自分のベッドとは違う感触と匂いに顔をしかめた。

「りょうた…」

 独りぼっちの部屋で、悠希は身体を縮こまらせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

【柳原学園】いやいや、俺は『俺様生徒会長』だから

西園 斎
BL
家の都合で『俺様』を演じてる生徒会長が、生徒会やら風紀やら教師やらから好かれるお話。 演技俺様会長総受け(愛され)/後固定CP *10年以上前の作品を、やや加筆修正していきます

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

処理中です...