喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

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6話 猫が住み始める①

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「…ぅ」

 目を開けると、最後に見た天井とは違う天井があった。肌ざわりの良いベッドになぜか寝かせられていた。バスチアンと戦った後よりも動くが、精神的に疲れたのか倦怠感が抜けきれていない。

「起きた~?」

 右から聞こえてきた呑気な声に涼太は顔を向けた。

「元気になったか~?」
「…うるさい、クソ野郎」

 キスされたことを思い出し、顔中にシワを寄せて睨んだ。ファーストキスを奪われたが、大切に思っていなかった涼太はそれに動じることはなかった。

「元気になったな。ご飯食べるか~?」
「飯より…悠希は?」

 その言葉に男はテーブルから一枚の紙を取り出した。涼太の言葉に一瞬顔を引き締めた気がしたが、気のせいかもしれない。
 男の動きに合わせて部屋の中を見回した。1つの部屋とは思えないほど広いが、置かれているものは少ない。寝心地のいいベッドは天蓋付きで、近くにこれまたアンティークの机が置かれている。その他にはバルコニーが覗く大きな窓だけだ。 

「これ見てみな~」

 受け取った紙には、「エクラタン国王シエル・サンティエ・ドゥルールの名の下に聖女ハルキ・ハチスを保護し、衣食住を保証する」とくどくどとした政治的な言葉で書かれていた。

「この国で国王は絶対だ。彼の安全は絶対に守られる。わかった~?」
「…わか、りました」
「それはリョータが持ってていいから~」
「…わかりました」

 (わかった。…わかったが、なんかモヤモヤする…?)

 自分の気持ちが涼太にはわからなかった。

「なんで急に敬語?」
「え、あぁ…。こんな書類を用意できるってことは、悠希の安全に関わる王様に遠くはない人ってことだろうから。もう遅いかもしれないが、印象良くしておこうかと思っただけ、です。俺の言動が悠希の不利益に直結するのは避けたい、ので」
「なるほど、真面目だね~。とても偉いことだけど、敬語じゃない方が俺が楽だから、俺にはありのままのリョータでいて~」

 涼太がうなずいたのを確認して、男はよしっと笑いかけて来た。

「…なぁ、俺が今いるこの世界は夢なのか?」

 すがりつく先を探す問いに、男は涼太が求めているものとは違うものを提供せざるを得なかった。

「現実だよ。…この言葉を信用することはできないのはわかっている。でも、現実だと想定して動いた方がリョータのためになるよ。…これが、俺からのアドバイス」

 慰めるようにさらりと頭を撫でられた。

「さ!ご飯食べるか~?」
「…食う」

 (なんでさっきモヤモヤしたのかはわかんねぇし、夢か現実かもまだ曖昧だが、一旦横に置いてまずは腹ごしらえだな)

「起きれるか~?」

 背中を支えられて涼太はゆっくり起き上がった。靴のない涼太は用意されていたスリッパを履き、男の背を追って広い屋敷を歩いた。

「おっさん、金持ちか」

 見るからに高そうな調度品や長い廊下、視界に入る全てが男の地位の高さを物語っている。先ほどまでいた部屋の家具も品のある高そうな物ばかりだったが、こちらは煌びやかで高い物ばかりだ。

「おっさん…。おっさんって呼ばれるほど歳とってないんだけどな~…」

 おっさんという言葉に大ダメージを受けた男は床にうずくまった。

「俺よりは歳食ってるだろ」
「…それはそう、なんだけど~。俺…、まだ22なの。おっさん呼びは、ちょっと…」

 老けた見えたと言いそうになったが、追い打ちをかけるのは気の毒に思った涼太はそれを寸前で押しとどめた。

「じゃあなんて呼べば良いんだよ」
「名前で呼んでください…。エトワールって言います…」

 男は眉を限界まで下げて、しょげている。大の男が小さく丸まっているのはなんだか滑稽だな、と涼太は彼のつむじを見下ろした。
 ぐ~~っと大きく腹が鳴り、途端に空腹を自覚した。

「エトワール、飯」
「はい…」

 回復しきれていないエトワールは肩を落としたまま、また歩き出した。

「お前は何者なんだ?」
「それはご飯食べながら話すよ~」

 着いたよ、とエトワールが両開きの扉を開けた先には、これぞ貴族というようなダイニングルームが広がっていた。高そうな物ばかりの部屋に涼太は思わず尻込みしたが、エトワールに促されて席に着いた。
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