喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

文字の大きさ
7 / 24

6話 猫が住み始める②

しおりを挟む
 対面に彼が座ると、初老の執事とメイドが料理を運んで来た。料理はきらびやかな皿に似合わず庶民的だ。こんがり焼けた肉,豆と根菜のスープ、柔らかいパン。
 健康的な食事に手を伸ばしそうになったが警戒心がそれを止めた。涼太の考えを察したエトワールは手を伸ばし、自分の皿と涼太の皿を入れ替えた。そのまま何も言わずに食べ始めた。それを見て涼太の警戒心は食事を許した。見た目通りの温かい味に涼太は思わず口元を緩めた。

「で?アンタは何なんだ?」

 食べ始めて少しした頃、涼太がそう切り出した。エトワールは口のものを呑み込んでからそれに応えた。

「俺はエトワール・クロワデュシュド。この国の国王の弟だけど、もう王位継承権は放棄して大公になって~、今は王立学園の学園長をしているんだ~」
「大公ってなんだ?」
「男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵ってなってる貴族序列中で、公爵位のさらに上の身分のことだよ。まぁ実際は公爵とほぼ変わらないけどね~」

 オーラのかけらもないエトワールは意外と高貴な人らしい。貴族のいない日本で育った涼太は実感が湧かず、生返事を返した。

「あ、そうそう。リョータのことだけど、俺が保護することになったから~」
「ふ~ん」
「ふ~ん、ってそれだけ?」

 興味がないとでも言うように食べ進める涼太に、何かしらの反応を期待していたエトワールは拍子抜けだ。
 
「聖女様と同じように国王印の書類あるけど見とく~?」
「へふにいい(別にいい)」
 
 もぐもぐしながら答える涼太に驚きと呆れが混じった表情を見せた。

「ごちそうさま」

 先に食べ終えて席を立った涼太にエトワールは急いで残りの伝達事項を伝える。

「さっきの部屋、リョータの部屋だから自由に使って。あと、何か欲しいものあったら言って~」
「わかった。眠いからもう寝るわ」

 来たばかりなのにスタスタと自分の家であるかのように、涼太は去って行った。エトワールは肝の据わった子だなぁと感心した。

 ○○○

 エトワールの書斎。三面には彼の努力と知識力を示す本棚が広がり、そのせいで狭くも見える。幅の広い執務机には書類が4塔連なり、書類以外はよく片付いている。椅子は長時間座っても腰が痛くなりにくいように座面と背面は布張りだ。執務机の正面には2、3人掛けのソファが向かい合うように2台とその間にローテーブルが置かれている。
 椅子に座っている部屋の主と執務机とソファなどの間に立っている2人の執事が話している。2人が着ている揃いの黒のスーツは身体に沿ったデザインでそれぞれの整ったシルエットを引き立たせている。白い手袋は主人に曇りがないことの象徴だ。リュシオルの髪には白が混じり始めたが、2人とも暗い茶色の髪とヘーゼルの瞳をしている。同じ服を着て同じ色を持っていても雰囲気は対照的だった。リュシオルは穏やかと言うのがぴったりで、涼太と同じくらいの年若い男は硬く石のようだ。

「王命によりリョータ・ハタは私が保護することになった」
「そうですか。騒がしくなりますね」

 余韻の残る口調でリュシオルが言い、若い男はうなずいた。

「リョータにはポワーヴルに従者としてついてもらいたい。いいか?」
「かしこまりました」

 ポワーヴルと呼ばれた若い男の低い声に、エトワールは頼むなと軽くうなずいた。
 涼太の件でいくつか確認をした後、ポワーヴルに続いて退出するリュシオルは何もかもわかっているように微笑んだ。

「あまり無理はしないように。あなたはもう1人ではないのですよ」
「わかってるよ、リュシオル」
 
 リュシオルは、はいと優しくうなずいた。執事と主人というより親と子のようだ。
 1人になった書斎で、肩の力を抜いて椅子にもたれかかった。机に載っている手紙を取り、眺めた。兄である国王から返ってきた個人的な手紙には、リュシオルと同じように心配の言葉が長々と綴られている。
 自分には心配してくれる人がいるのだと安心した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

【柳原学園】いやいや、俺は『俺様生徒会長』だから

西園 斎
BL
家の都合で『俺様』を演じてる生徒会長が、生徒会やら風紀やら教師やらから好かれるお話。 演技俺様会長総受け(愛され)/後固定CP *10年以上前の作品を、やや加筆修正していきます

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

処理中です...