喉から猫がいなくなるとき

みつしげ

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7話 夢①

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 気がつくと、一面真っ白の空間に立っていた。その白さに異世界の不安が和らいでいくような気がした。
 少し離れた正面には知らない女性がいた。装飾の少ない白のワンピースは、少し開いた胸元からは豊満な胸が覗き、波打つ裾からは美しい脚が見え隠れする。彼女の顔はヴェールがかかったようによく見えない。地面につくほど長い白金の髪はゆるく癖があるようで、神々しい。

「ハルキさん」

 鈴の鳴るような、今まで聞いた中で一番美しい声に悠希は引き込まれた。

「初めまして。こちらの世界で愛の女神を務めております、アムールです」

 よろしくお願いしますと下手に出る自称女神に悠希は困惑した。女神と名乗られても違和感はなく、彼女の前では疑いも不安も負の感情は薄れてしまう。女神なのだと根拠もないのに不思議と心の底から信じられる。

「本来ならば世界を渡る際に説明をするべきだったのですが、リョータさんが渡られる処理に追われまして…。遅くなってしまい、ごめんなさい」

 頭を下げる女神にハルキは慌てて頭を上げるように頼んだ。彼女はゆっくり頭を上げ、どこからともなく現れたティーテーブルと2脚の椅子へハルキを促した。
 対面に座っても、彼女の顔は不思議とよくわからない。

「改めて説明させていただきますね。創造主によって、アルモニと名付けられたこの世界は、ハルキさんが暮らしていらした地球とは別の世界です。アルモニには、魔力と呼ばれるエネルギーがあり、空気中や全ての生物の血液に含まれています。魔力を消費して発生させる現象を魔法と呼びます。アルモニの生物は、動植物や人間の他に、魔獣と魔族がいます。魔獣とは、動植物と似た見た目をした保有魔力量1万以上の生物です。魔族とは、人間と似た見た目をした保有魔力量が3万以上の生物です。

 女神は魔力で宙に生物の絵を描きながら、説明を進めた。


「日々人間と魔族は戦っています。ですが、111年周期で魔族の力が強まり、魔族を統べる魔王が誕生してしまいます。これにこの世界の人間だけでは太刀打ちできず、いずれは滅びてしまうでしょう。これを防ぐために、最初の世界から勇者と聖女を召喚し、魔族と戦ってきました。そしてこの度、110代目聖女として、召喚されたのがハルキさんなのです。…簡単に説明しましたが、何か質問はありますか?」

 一気に説明した女神はいつの間にか手に持っていた紅茶で喉を潤した。

「最初の世界…ってなんですか?」
「あなたのいた地球やアルモニ、その他の全て世界は一柱の創造主によって創られました。創造主がおっしゃるには、地球は初めて創った世界、つまり最初の世界で、その中で最後に創られた大地が現在の日本列島だそうです。また、最初の世界が一番エネルギーが強く、日々そのエネルギーを浴びている地球の生物が一番強靭な肉体を持ちます。そのため世界間を渡る衝撃に耐えうるのは地球の生物のみとされているのです」

 非現実的な説明に飲み込めず、生返事を返した。そんな悠希に気を悪くした様子もなく、女神はにこやかなままだった。

「ハルキさんはきちんと話を聞いてくれるのですね」

 言っている意味がわからず、悠希は首をかしげた。

「勇者として召喚された方ともお話ししたのですが、私には難しい話はわかんねぇ、と説明を遮られたのです」

 そう話す女神は不快には思わなかったようで、ふふふっと笑った。

「ハルキさんのように真面目な方も好きですが、当代の勇者のようにさばさばしている方も好きですね」

 女神の優しい空気に、最も疑問に思っていることを聞くことにした。

「…なんで、僕なんですか?」

 自信なさげなハルキに女神は優しく微笑んだ。

「あなたが、心が清く、意志が強く、人に優しくあるからです」

 女神らしい綺麗な褒め言葉をどこか受け取りきれない。

「…ありがとうございます」
「他に質問はありますか?」
「僕たちは…、家に帰れますか?」

 悠希が一番気にしていることを尋ねると、彼女は少し考え込んだ。

「今は、わかりません。これまでの方々はこちらに骨を埋めました。ですが、あなた方は少し違うのです。特別なのです。…これからの歩み方で結末は幾らでも変わるでしょう」

 誤魔化されたような気がして、悠希は浅くうなずいた。
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