パイライトの誓い

藜-LAI-

文字の大きさ
7 / 41

他愛無い話

「その様子だと、まだ顔見知り程度か。ゆっくり話でもしてみたらどうだ。龍弥、お前修みたいなの好きだろ」
 グラスにラム酒を注ぐ巽は何気なく言うが、出来ればその類の話はしないで欲しかった。
 苦々しい顔でタバコの煙を吐き出すと、隣で笑う顔が一層妖艶なものになる。
「へえ。あんなに冷たかったのは気持ちの裏返しだったのか。照れ屋さんなのかな」
「おいおい。龍弥に向かって照れ屋とか言うヤツ初めて見たよ。お前らどこで知り合ったんだ?」
 巽はグラスをコースターにセットすると、興味深そうな顔で二人を交互に見る。
「知り合ったも何も、こいつがナンパから逃げるのに使われただけだよ」
 タバコを指に挟んだまま器用にグラスを手に取ると、勘弁して欲しいと低く唸って酒を呷る。
「なに言ってんの。それだけじゃないでしょう?キスした仲じゃない」
「ちゃっかりお礼貰ったのか龍弥」
「あれは貰い事故だ、アンタが勝手にした事でキスとも呼べないもんだろ。巽、お前まで面白がって食い付いてくるなよ。勘弁してくれ」
 龍弥は呆れた顔で修に一瞥くれると、酒が不味くなるから止めてくれとグラスを置いてタバコを吸った。
「なるほどな。善意の人助けのつもりが、勝手にキスされてご機嫌斜めなワケか」
「ああ、それで拗ねちゃったのか」
「……お前ら、人の話聞けよ」
 ニヤニヤしながら龍弥に視線を向ける二人を睨むと、タバコを灰皿に押し付けながら煙を吐き出す。
 軽く頭痛がしてきた。まさか巽の知り合いだったとは。二度と会うことはないだろうとたかを括っていたが、修の宣言通り縁があったのか、その日のうちに再会してしまった。
 狭い街だ。しらみ潰しに探せば不可能ではないだろうが、そこまでした様子もないのにこんな偶然が起こり得るのかと、龍弥の口から溜め息が漏れる。
「まあ出会いがどうあれ修はいい奴だぞ。こいつもなんだかんだで俺とは15、6年の付き合いだ。そう拗ねてないで話してみたらどうだ。俺は二人は気が合うと思うけどな」
 巽は面白がるでもなくそう言うと、他の客に呼ばれるままその場を離れていく。
 隣を見ると困ったような笑顔のアクアブルーの瞳が、龍弥を見つめてタバコの煙を吐き出した。

「へえ。経営者だなんて凄いじゃない」
「どこがだよ、話聞いてたか?」
 顔を向けて眉を寄せると、そんな顔で見ないでよと修が笑う。
「知人に押し付けられたからって、それから10年もお店を潰さずに維持するなんて、そうそう出来る事じゃない。それも一店舗だけじゃないんでしょ、素晴らしい才能だと思うよ」
 いつの間にか身の上話になり、龍弥はおかしな事もあるものだと、意外にも話しやすく距離感を心得た修の対応に関心していた。
「そりゃアレだ。店の連中がしっかりしてるだけで俺のおかげじゃない」
「謙虚だね。それも君の美徳かも知れないけど」
「そんなつもりはないんだけどな。気が付いたら10年経ってただけの話だ」
 四度目のおかわり以降、面倒だからと巽が目の前に置いたボトルからグラスに直接酒を注ぐと、龍弥は小さくなった氷を見つめて少し呑み過ぎているなと苦笑する。
「龍弥の笑った顔、いいね」
「はあ?」
「好きだよ。特に笑顔がね」
「笑顔?アンタ相当変わってるな」
「修だよ」
「……はいはい」
 どうも修と話していると調子が狂う。不快だとかそう云う事ではなく、初めて話すのに無駄な気遣いをしなくていい。

 龍弥だって人の子だ。好意を持てそうな相手には良いように思われたい気持ちが芽生えない訳じゃない。特に一晩の相手なら尚更、変な印象を持たれるより、格好をつけてしまう情けない部分も持ち合わせている。
 では修はどうだろうか。話を切り出すタイミング、相槌の打ち方、答えやすくなる質問の投げかけ方。いずれにせよ長い付き合いの友人相手でも、一部の例外は除いて、ここまで会話を楽しめたことは少ないと思う。
 飾らずに素のままの自分でいられることが、少し心地好いと思えるほど龍弥は肩の力が抜けてリラックスしている。そんな自分が堪らなく可笑しくて苦笑いが溢れる。
「ふふ。やっと龍弥の中で僕は異分子ではなくなったみたいだね。話してみると意外と普通だったでしょ」
「普通がなんなのかは分からんけど、アンタと話してると気楽で良い。腹の探り合いみたいな小賢しい事もしない、そう云うのは嫌いじゃないんだ」
「なら、そろそろアンタはやめてよ。僕の名前は修だよ」
「はいはい。修さんな」
「僕が歳上だからって、さんをつけて呼ばれちゃうと、なんだか距離を感じるな。ふふ、キスした仲でしょ。気楽に呼んでよ」
「だから、あれはキスしたうちに入らないだろ」
「じゃあ仕切り直そうよ」
 楽しそうに肩を揺らすと、グラスに口をつけて濃褐色のダークラムを一気に飲み下す。その喉元が酷く艶かしくて、龍弥は心の中で参ったなと呟いた。
 龍弥の様子に気が付いたのか、修はうっすらと口角を上げると、左手を龍弥の右手に絡めて指の間をゆっくりとなぞる。
 長くしなやかに見えても、ゴツゴツとした男性的な指だ。肌を重ねなくてもおおよその見当はつく。龍弥と修の相性は良いだろう。
 グラスを空にして席から立つと、チェックを頼まれた巽がしたり顔でやっぱりなと呟いて肩を揺らした。龍弥はバツの悪さから、なんとも言えない気不味さを味わった。  
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。