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名のつかぬ感情
マンションのエントランスを抜けてポストの中の郵便物を引き抜くと、エレベーターで8階のボタンを押して自宅に向かう。
廊下に出るなりガーリックだろうか、どこからかは分からないが、芳ばしい香りがしてお腹が鳴った。
仕事をしていると、大抵決まった馴染みの店から出前を寄越したり、仕事終わりにスタッフを連れてご飯を食べに行くので意識して食事を摂るが、どうも休みだと食事が疎かになる。
デリバリーでも頼むかと部屋の鍵を開けて暗いはずの部屋に入ると、リビングから灯りが漏れるだけでなく、マンションの廊下にまで立ち込めていた芳ばしい香りが鼻腔を擽る。
玄関にはまだ靴がある。修は帰らずにまだ家に居たらしい。
ホッとしたような困惑するような複雑な面持ちでリビングの扉を開けると、出る前に見た笑顔と変わらない柔らかな視線がこちらに向けられる。
「おかえり。この時間じゃ、外は寒かったんじゃない?キッチンを借りてるよ。龍弥は好き嫌いあるのかな」
「……ただいま。それ、お前も外に出たんだろ。キッチンくらい別に好きに使えばいい」
食材は買い置きなどしていない。フライパンを指差して買いに行ったんだろと呟くと、キッチンの横を擦り抜けてベッドルームに移動する。
荷物を置いて上着を脱ぎ、そのまま部屋着に着替えると、心にチクリと刺す棘のような痛みが和らいだ気がした。
(なんだ……居たのか)
人知れず小さく笑みを浮かべると、龍弥は手を洗うためにバスルームに移動して微妙な違和感に気付く。
覚えのない歯ブラシ、ボディクリームだろうか、他にも見覚えのないものが洗面台に置かれ、早速マーキングかと少し表情を歪める。
手洗いを済ませてキッチンに戻ると、フライパンを返しながらパスタを炒める修に声を掛ける。いい匂いの元凶はこれだったのか。
「居て良いとは言ったが、ここに住めとは言ってない」
「そんなに心配しなくても片付けるから。それで?好き嫌いはあるのかな」
「虫とかゲテモノ以外ならなんでも食える」
「あはは。流石にそのレパートリーはないかな」
ワインが冷えてるよと冷蔵庫を指すと、パスタを盛る皿を出して欲しいと言って修はガスコンロの火を止める。
「僕はもう居なくなってると思っていたんだね。顔にそう書いてあるよ」
「そうだな。居座ってるとは思ってなかったな」
軽口を叩きながら修を手伝って食事の用意をすると、ふと嗅いだことのある甘い香りが鼻先を掠めた。
「修、お前なんかつけてるか?」
「どういう意味かな」
「あー、香水とかその手の匂うやつ」
「ああ。肌が敏感でね。ボディクリームだけど、匂いそんなにキツかったかな」
細身の修が着ると少しダブつく着丈の長いパーカーは龍弥が貸したものだ。その袖口を顔に近づけて、不安そうに手首辺りの匂いを確認している。
これが計算でないなら、引っ掛かる男は山ほど居るだろう。これで男を抱く方だからタチが悪い。けれど龍弥も例に漏れずムラついて頭を抱える。
「どうしたんだい。頭が痛いのかな」
顔を覗き込む修は至って真剣だ。至近距離で感じる息遣いと甘ったるい香りに充てられて、龍弥は堪らず修を抱き竦めて唇を貪った。
「んっ、ふ、うぅ……んん」
突然のことに少し驚いた様子は見せたが、修は子供をあやすような柔らかい手付きで龍弥の背に腕を回すと、悪戯に腰や臀部をやんわりと撫でて深くなるキスに応えた。
「んっ、どうかしたの?外で何かあったのかい」
「いや。なんかムラッとした」
「あはは、龍弥は面白いね。じゃあ後でたっぷり楽しもうよ。今はほら、食事が冷めないうちに食べてしまおうね」
「そうだな」
湯気の立つパスタが盛られた皿をテーブルに運ぶと、修はもう一品用意していたらしく、ソースの掛かった野菜のグリルがテーブルに運ばれ一層食欲を刺激される。
龍弥は冷蔵庫から取り出したワインを開けると、二つのグラスにそれを注いで乾杯してから食事に手を付けた。
廊下に出るなりガーリックだろうか、どこからかは分からないが、芳ばしい香りがしてお腹が鳴った。
仕事をしていると、大抵決まった馴染みの店から出前を寄越したり、仕事終わりにスタッフを連れてご飯を食べに行くので意識して食事を摂るが、どうも休みだと食事が疎かになる。
デリバリーでも頼むかと部屋の鍵を開けて暗いはずの部屋に入ると、リビングから灯りが漏れるだけでなく、マンションの廊下にまで立ち込めていた芳ばしい香りが鼻腔を擽る。
玄関にはまだ靴がある。修は帰らずにまだ家に居たらしい。
ホッとしたような困惑するような複雑な面持ちでリビングの扉を開けると、出る前に見た笑顔と変わらない柔らかな視線がこちらに向けられる。
「おかえり。この時間じゃ、外は寒かったんじゃない?キッチンを借りてるよ。龍弥は好き嫌いあるのかな」
「……ただいま。それ、お前も外に出たんだろ。キッチンくらい別に好きに使えばいい」
食材は買い置きなどしていない。フライパンを指差して買いに行ったんだろと呟くと、キッチンの横を擦り抜けてベッドルームに移動する。
荷物を置いて上着を脱ぎ、そのまま部屋着に着替えると、心にチクリと刺す棘のような痛みが和らいだ気がした。
(なんだ……居たのか)
人知れず小さく笑みを浮かべると、龍弥は手を洗うためにバスルームに移動して微妙な違和感に気付く。
覚えのない歯ブラシ、ボディクリームだろうか、他にも見覚えのないものが洗面台に置かれ、早速マーキングかと少し表情を歪める。
手洗いを済ませてキッチンに戻ると、フライパンを返しながらパスタを炒める修に声を掛ける。いい匂いの元凶はこれだったのか。
「居て良いとは言ったが、ここに住めとは言ってない」
「そんなに心配しなくても片付けるから。それで?好き嫌いはあるのかな」
「虫とかゲテモノ以外ならなんでも食える」
「あはは。流石にそのレパートリーはないかな」
ワインが冷えてるよと冷蔵庫を指すと、パスタを盛る皿を出して欲しいと言って修はガスコンロの火を止める。
「僕はもう居なくなってると思っていたんだね。顔にそう書いてあるよ」
「そうだな。居座ってるとは思ってなかったな」
軽口を叩きながら修を手伝って食事の用意をすると、ふと嗅いだことのある甘い香りが鼻先を掠めた。
「修、お前なんかつけてるか?」
「どういう意味かな」
「あー、香水とかその手の匂うやつ」
「ああ。肌が敏感でね。ボディクリームだけど、匂いそんなにキツかったかな」
細身の修が着ると少しダブつく着丈の長いパーカーは龍弥が貸したものだ。その袖口を顔に近づけて、不安そうに手首辺りの匂いを確認している。
これが計算でないなら、引っ掛かる男は山ほど居るだろう。これで男を抱く方だからタチが悪い。けれど龍弥も例に漏れずムラついて頭を抱える。
「どうしたんだい。頭が痛いのかな」
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「んっ、ふ、うぅ……んん」
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「んっ、どうかしたの?外で何かあったのかい」
「いや。なんかムラッとした」
「あはは、龍弥は面白いね。じゃあ後でたっぷり楽しもうよ。今はほら、食事が冷めないうちに食べてしまおうね」
「そうだな」
湯気の立つパスタが盛られた皿をテーブルに運ぶと、修はもう一品用意していたらしく、ソースの掛かった野菜のグリルがテーブルに運ばれ一層食欲を刺激される。
龍弥は冷蔵庫から取り出したワインを開けると、二つのグラスにそれを注いで乾杯してから食事に手を付けた。
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