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打ち明けられた事実
ガーリックが効いたレモンの酸味が特徴的なシーフードのパスタは、修が以前仕事で世話になったイタリア人のクライアントからレシピを教えてもらったらしい。
「料理得意なんだな」
「どうかな。僕は手際も良くないし、レシピがなければ作れないものの方が多いと思うよ」
「ならなんで作ったんだよ」
可笑しくて吹き出しながら龍弥が笑うと、つられたように笑ってどうしてかなと修がワインを飲む。
巽の話が大筋で事実だとして、修はわざわざ龍弥に会いにきたようなそぶりは見せない。巽の店で再会したのはあくまで偶然の出来事だろう。
『憬の後ろ盾と修が知り合いらしくてな。深くは知らんが兄弟みたいなもんだって聞いてる』
巽が言った後ろ盾とはパトロンのようなものだろうか。
龍弥の場合は丸投げされたようなものだが、その背景に憬が居たように、憬にも事業を興す切っ掛けになった人物が居るということなのだろう。
憬からどんな風に龍弥のことを聞かされているのかは知らないが、手切金だと言って自分の仕事を別れる相手に投げ渡すようなブッ飛んだ人間なのが憬だ。
憬がその後どんな風に過ごしているのか、あの街に居ても噂一つ入ってこなかった。修ならば何か知っているのだろうか。
他愛無い会話の隙間でそんなよそ事を考えながら、龍弥は腹を括ると修に憬のことを直接聞くことにした。
「それにしても、なんで俺が憬と付き合ってたことをアンタが知ってる。別れたのは10年も前だ、なんで今更掘り返すようにあの人の名前を出したんだ」
「そうか、僕だけが一方的に知っているのはフェアじゃないね。龍弥は憬のことが知りたいかい」
「それはどう云う意味だ。今どうしてるかってことなら、そこまで興味はない。本人が居ないところでこんな言い方もどうかと思うが、俺にとっては青天の霹靂で、あの人はデカいお荷物置いて俺を棄てた人でしかない」
「そうだね、龍弥は一方的に置いていかれた。憬の仕事も、抵抗する間もなく請け負わされた」
「ああ。食い扶持が確保できたことには感謝してるが、右も左も分からない俺に餞別くれてやるって冷淡に笑った顔を思い出すと忌々しい」
自分のなにがいけなかったのか分からない。本当に突然の出来事だった。
『お前もういいよ。店やら全部くれてやるから消えろ』
冷や水をブッ掛けられた気がした。
当時は言われるままに店の経営の手伝いをしたり、パートナーとしても付かず離れずの距離を保って、公私共に順調だったはずだ。
突然のことに自分がなにか気に触ることをしたのかどうかも分からなかった。理由を聞こうにも消えろの一点張りで、取り付く島もないとはあの事だろう。
今思えば、何かしらの思惑があったからこそ、微々たるものではあったが店舗経営の手伝いに借り出されたのだろう。憬はきっと、あの発言をする随分前から龍弥に権利を譲渡する算段があったに違いない。
そして消えろと言った彼の方が姿を消してしまった。
「忌々しいか……龍弥が傷付いたのだとしたら、それは当たり前だと思う。だけど事実を知る者として、僕は龍弥が嫌がることを今からお願いするよ」
「わざわざ断りを入れるってことは、言わない選択肢がないんだろ」
眉を下げて修に困った顔を向けると、龍弥はパスタをフォークで絡め取って口に運ぶ。
こんな話をしているのに、無駄に美味しくてやるせない気持ちが込み上げる。
「結論から言うと、憬に会ってやって欲しい」
「随分話を端折ったな」
「龍弥にとって憬が遺恨のある相手なのは分かっているよ。どんな別れ方で辛い思いをさせたかも知っている。だけど龍弥には、今の憬に会ってやって欲しいんだ」
苦渋の橋渡しなのだろう、悲痛な表情がそれを物語っている。修にとっても本意でないのか、けれどそう言わざるを得ない何かがあるのだろう。
龍弥はワインを飲むとグラスを静かにテーブルに置いて、斜向かいで沈痛な面持ちのまま自分を見つめる修に向き合った。
「どうしてなのか理由は聞けるのか?」
「……そうだね。龍弥には全てを話さなければいけないよね」
修はワインを一口飲むと、龍弥の隣に移動してグラスを置いた。
「憬と僕は異父兄弟なんだよ。似てないとか言わないでよね。そもそも父親が違うし、憬は僕と違って彼の父親に似たんだよ」
龍弥は少なからず動揺した。憬から兄弟が居るとは聞いていなかったし、この美しい容姿から、純日本人の顔立ちをした憬を想像することが出来ないからだ。
修の言葉を信じるならば、彼は憬と違って母親に似たのか父親が整った顔立ちなのだろう。いや、信じるも何もこんな嘘を吐いてもメリットがないので事実なのだろうが。
「憬がアンタの兄貴だとして、どうしてそこまであの人に俺を会わせたがるんだ」
「……龍弥、よく聞いてね」
「なんだよ」
「憬はずっと前から癌を患ってる。もう彼の命は長くないんだ」
「料理得意なんだな」
「どうかな。僕は手際も良くないし、レシピがなければ作れないものの方が多いと思うよ」
「ならなんで作ったんだよ」
可笑しくて吹き出しながら龍弥が笑うと、つられたように笑ってどうしてかなと修がワインを飲む。
巽の話が大筋で事実だとして、修はわざわざ龍弥に会いにきたようなそぶりは見せない。巽の店で再会したのはあくまで偶然の出来事だろう。
『憬の後ろ盾と修が知り合いらしくてな。深くは知らんが兄弟みたいなもんだって聞いてる』
巽が言った後ろ盾とはパトロンのようなものだろうか。
龍弥の場合は丸投げされたようなものだが、その背景に憬が居たように、憬にも事業を興す切っ掛けになった人物が居るということなのだろう。
憬からどんな風に龍弥のことを聞かされているのかは知らないが、手切金だと言って自分の仕事を別れる相手に投げ渡すようなブッ飛んだ人間なのが憬だ。
憬がその後どんな風に過ごしているのか、あの街に居ても噂一つ入ってこなかった。修ならば何か知っているのだろうか。
他愛無い会話の隙間でそんなよそ事を考えながら、龍弥は腹を括ると修に憬のことを直接聞くことにした。
「それにしても、なんで俺が憬と付き合ってたことをアンタが知ってる。別れたのは10年も前だ、なんで今更掘り返すようにあの人の名前を出したんだ」
「そうか、僕だけが一方的に知っているのはフェアじゃないね。龍弥は憬のことが知りたいかい」
「それはどう云う意味だ。今どうしてるかってことなら、そこまで興味はない。本人が居ないところでこんな言い方もどうかと思うが、俺にとっては青天の霹靂で、あの人はデカいお荷物置いて俺を棄てた人でしかない」
「そうだね、龍弥は一方的に置いていかれた。憬の仕事も、抵抗する間もなく請け負わされた」
「ああ。食い扶持が確保できたことには感謝してるが、右も左も分からない俺に餞別くれてやるって冷淡に笑った顔を思い出すと忌々しい」
自分のなにがいけなかったのか分からない。本当に突然の出来事だった。
『お前もういいよ。店やら全部くれてやるから消えろ』
冷や水をブッ掛けられた気がした。
当時は言われるままに店の経営の手伝いをしたり、パートナーとしても付かず離れずの距離を保って、公私共に順調だったはずだ。
突然のことに自分がなにか気に触ることをしたのかどうかも分からなかった。理由を聞こうにも消えろの一点張りで、取り付く島もないとはあの事だろう。
今思えば、何かしらの思惑があったからこそ、微々たるものではあったが店舗経営の手伝いに借り出されたのだろう。憬はきっと、あの発言をする随分前から龍弥に権利を譲渡する算段があったに違いない。
そして消えろと言った彼の方が姿を消してしまった。
「忌々しいか……龍弥が傷付いたのだとしたら、それは当たり前だと思う。だけど事実を知る者として、僕は龍弥が嫌がることを今からお願いするよ」
「わざわざ断りを入れるってことは、言わない選択肢がないんだろ」
眉を下げて修に困った顔を向けると、龍弥はパスタをフォークで絡め取って口に運ぶ。
こんな話をしているのに、無駄に美味しくてやるせない気持ちが込み上げる。
「結論から言うと、憬に会ってやって欲しい」
「随分話を端折ったな」
「龍弥にとって憬が遺恨のある相手なのは分かっているよ。どんな別れ方で辛い思いをさせたかも知っている。だけど龍弥には、今の憬に会ってやって欲しいんだ」
苦渋の橋渡しなのだろう、悲痛な表情がそれを物語っている。修にとっても本意でないのか、けれどそう言わざるを得ない何かがあるのだろう。
龍弥はワインを飲むとグラスを静かにテーブルに置いて、斜向かいで沈痛な面持ちのまま自分を見つめる修に向き合った。
「どうしてなのか理由は聞けるのか?」
「……そうだね。龍弥には全てを話さなければいけないよね」
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