パイライトの誓い

藜-LAI-

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君のための譲歩

 昨夜は心にざらりとした嫌な波が立ち、殊更人肌恋しかったが修と身体を求め合うことはせずに、ただ抱き合って静かに眠った。
 色々なことが明瞭化されて逆に心の中には暗く影が広がった。どうして、なぜ。あの時も憬には答えては貰えなかった。
 けれど修から聞かされた話が事実なら、憬には思惑があってあんな別れを迎えたことになる。
「起きたのかい?」
 龍弥の気配で起きたのか、先に起きていたのか。修が囁いて龍弥の髪を撫でる。
 寝返りを打つうちに抱き留められたのか、目を覚ますといつの間にか修の腕に抱かれるように眠っていたらしい。
「ああ、酷い寝覚めだけどな」
 おはようとキスをすると、ベッドサイドに手を伸ばし腕時計を手首にはめて時間を確認する。9時23分。秒針がゆっくりと文字盤を走っている。
 龍弥はそのまま天井に向かって腕を突き出すと、体を捻ってボキボキと音を立てて強張った体を解す。
「眠れなかった?」
「そこまでヤワじゃない。アンタの方こそ寝れたのか」
 修の髪をくしゃりと撫でると、龍弥は体を起こしてベッドから立ち上がる。
 トイレを済ませて洗面所の冷たい水で顔を洗うと、コンタクトは付けずにメガネを掛けてキッチンに向かう。
 龍弥と入れ違うようにトイレに向かった修の臀部を厭らしく弄ると、呆れる修に向かってもうしないと両手を挙げて手を振り、キッチンに移動してフルーツを刻んでミキサーに放り込む。
 出来上がったジュースをグラスに注いでソファーに移動すると、テレビをつけてすぐに胃に流し込むように一気に飲み下す。
 足音はしないがふわりと香る甘い匂いは修のものだろう。龍弥は振り返りもせずに修に向かって声を掛ける。
「俺の休みは今日までだ」
「オーナーなんだから、もっと気楽に過ごせばいいのに。龍弥は働き者だね」
「貧乏性なだけだろ」
 鼻で笑う龍弥の隣に腰掛けると、修はいただきますとグラスを掲げて、ミキサーに残っていたジュースで喉を鳴らす。
「美味しいね。それで?どうして会う気になったんだい」
 修はグラスをテーブルに置くとソファーの上に膝を立てて座り直し、器用に肘をついて顎を押さえながら龍弥の顔を覗き込む。
「……分からない。自分の気持ちより、アンタの気持ちを受け入れてやりたいのかも知れない」
「僕の兄孝行に協力したいってことだね?」
「だろうな。憬に関しては昨夜話したように、仕事の恩はあってもとっくに縁の切れた相手だ。裏にどんな経緯があろうが、俺があの人に捨てられた事実が消えたりはしない」
 ようやく修の顔を見つめると、いまだ整理のつかない表情で小さく息を吐く。
「理由はそれでも構わないだろ」
 何も言わずに龍弥を見つめる修に改めて尋ねるように呟くと、精一杯の譲歩だと修の頬をつねった。
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