パイライトの誓い

藜-LAI-

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誰を想うのか

 買ったばかりの土鍋とガスコンロを使って、リビングのソファーに座ってグツグツと煮え立つ鍋を二人で突く。
 具材の鶏団子やスープは出来合いのものだが、味にハズレがないならそれで良いじゃないかと、手作り出来なかったことを嘆く修の髪を撫でて龍弥は次があるだろと笑う。
「僕はもう、君に依存し始めてる」
「どうしたんだよ」
「こんなんじゃ、傷の舐め合いになってしまう。それは僕の本意じゃない」
 修は取り皿の器と箸を置くと、ソファーに深く座って背もたれに体を預ける。
 彼が言わんとしていることをようやく理解した龍弥は、勝手なことを言うなと目も合わせずに食事を続ける。
「修、一人で変な考えを起こすなよ。お前ら兄弟は俺を巻き込んで傷付ける趣味でもあるのか」
「そんなつもりじゃ」
「違うって言うなら、アンタまで俺を置いてどこかに消えないでくれ」
「龍弥……」
 図星だったのだろう。行動を読まれて驚いた顔で龍弥を見つめると、修は頭を抱えてどうすればいいか分からないと苦悶の表情を浮かべる。
「どうするもこうするも、憬のことはまた別の問題だろ。俺とアンタの問題と綯い交ぜにする事じゃない」
 取り皿の器と箸を置いて缶ビールをグラスに注ぎ、冷えて泡が少ない琥珀の液体を喉に流し込むと、修を見つめて龍弥が再び口を開く。
「傷の舐め合いが出来るから一緒に居たいのか、傍に居てくれる相手だから、自分を曝け出して傷を癒してもらえるのか。要するに捉え方だろ」
 グラスをテーブルに置くと、冷えた指先で修の手を捉えて優しく握り込む。
「でも僕と居たら龍弥、君はどうしたって憬を思い出すよ?僕だってそうだ。兄を失っても消すことはできない」
「それで良いんじゃないか?」
「苦しくないのかい」
 修は辛そうに眉を寄せると、龍弥の顔を覗き込んで小さく息を吐き出す。
「今の憬に会って切なくなったし辛かった。だけど会えたからこそ確信した。俺の中であの人は完全に過去の人で、やっぱり俺は自分のためじゃなくて、修のためにあの人に会いに行ったんだと思う」
「僕のため?」
「それだと語弊があるか。よくドラマなんかであるだろ?親を安心させるために知人に恋人役を頼んで、付き合ってるフリをさせる話が。俺にとってはそれと似てて、修の望みなら叶えてやりたいと思った」
「自発的に憬に会う気はなかった。そういうことだね?」
 全く望んでいないことを強要された訳じゃない。けれど修が言うように自発的に行動を起こした訳でもない。
「何度も言うが、どんな事情があるにせよ、あの人に捨てられて仕事を押し付けられた事実はなくならない。俺が受けた傷までは消せないんだよ」
「つまり君は僕が望んだから決心してくれた」
「再会して、別れた相手として話をする機会を作ってくれたことには感謝してる。だけどそれは憬との切れた縁を結ぶためじゃない」
「龍弥……」
「修との縁が繋がったから、そうやって今になってようやく、あの人の顔を正面から見ることが出来たんだって分かってくれないか」
 噛み砕いた言葉を繋いで龍弥は修の手を取った。
「君は僕で良いのかい?龍弥」
「人の縁はどう転ぶか分からん。だからずっととか軽々しく言うつもりはない」
「ふふ。龍弥らしいね」
「でもまあ、アンタに抱かれるのもアンタを抱くのも悪くない」
「身体だけが目当てだって聞こえるよ」
「だったら逃げ出すか?」
 龍弥が喉を鳴らして笑うと、悪い冗談はやめてくれと修が口を尖らせる。
 仕切り直して食べようかとどちらからともなく声を掛けると、再び二人で鍋を突く。
 残ったスープでうどんを茹でると、煮詰まってくたくたに柔らかくなったうどんを啜り、あっという間に二人で具沢山の鍋を完食した。
 寛いでしまっては億劫になるからと、食べ終わってすぐに片付けを始めた修を手伝うと、互いの戯言で笑わせ合って賑やかに片付けを終わらせて、早々にリビングの電気を消してベッドに倒れ込んだ。
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