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ただ踏み出せば良い
深夜3時を過ぎて帰宅した家のドアを開けると、意外にもリビングから光りが漏れていて、一瞬驚きはしたものの消し忘れだろうと思い直して静かに足を進める。
「ああ、龍弥おかえり。もっと遅いかと思っていたよ」
「なんだよ、起きてたのか」
「仕事の電話で起こされてね。時差とか考えて欲しいよ。コーヒー淹れるかい」
「いいよ。自分でするからゆっくりしてろ」
龍弥はソファーに座る修の頭をくしゃりと撫でると、部屋着に着替えて焼き鳥屋の煙が染み付いた服を洗濯機に放り込んだ。
「そういや、今日は漯の家に行ってきたんだろ。家にはよく行くのか」
酔い覚ましにカットしたトマトをミキサーに掛けると、少しの塩とレモンを絞ってグラスに注ぐ。
「よくって、漯の家にかい?いやいや、初めて行ったよ」
「初めて?なんだよ、今まで行ったことなかったのかよ」
龍弥は修の隣に座ってトマトジュースを飲むと、返ってきた意外な返事に驚いて目を丸くする。
「日本に来てからはバタバタしていたからね。漯が家と呼べる場所に住んでなかったのもあるし、行く機会はなかったね」
「そうだったな、少し前まで海外に拠点を置いてたんだったな」
龍弥は立ち上がってキッチンでグラスを洗うと、冷蔵庫から炭酸水を取り出してソファーに戻る。
「僕が漯の家に行ったのが気になるのかい」
「正直に言えば、嫉妬した自分に笑う程度には気にしてた」
仕事に行く前のモヤモヤした気持ちを思い出して、龍弥が苦笑いする。
「あれ、龍弥にしては珍しく素直に認めるんだね。気にしてたってことは吹っ切れるなにかがあったのかな」
「別に大したことじゃない。腐れ縁の悪友と久々にサシで飲んで、素直になった方がいいと思わされただけだ」
「ふふ、いい友達だね。大事にしないと」
どんな人なのかと龍弥に目を向ける修の眼差しに、嫉妬のようなものを感じて龍弥は口角を上げると、凛太郎のことを面白おかしく言って聞かせる。
修も誤解させないようになのか、漯には最近プロポーズを受けてくれた恋人がいて、彼女と三人で食卓を囲んで来たのだと嬉しそうに表情を緩めた。
こんな風に日常の些細な出来事を話し合えるだけで、蝋燭に火が灯るように心の中が少し温かくなる。龍弥は修と出会ってその感覚を取り戻した。
「アンタと出会えて良かったと思う。憬のことで、修がなにかしら引け目を感じて、よくない方向に考えが及ぶのも分からなくはない。でも俺が選んでアンタと居るのは分かって欲しい」
「僕は勘違いをしていたみたいだね。龍弥はいつもそう伝えてくれていたのに、卑屈になって素直に受け入れることが出来なかった」
「俺は言葉にするのは得意じゃない。毎回素直になんでも話せる器用なタイプの人間じゃないからな」
「ふふ。ならこれからは、僕がそのサインを見極めて龍弥を素直にさせる努力をするよ」
修は龍弥の膝に手を置くと、甘えたように龍弥にもたれ掛かる。
「そういえば、そのバングル」
「え?」
「いつも着けてるな」
龍弥は修の左手首にはまった、永遠を意味する高級ブランドのプラチナバングルが以前から気になっていた。
嫉妬なんて格好悪いが、今日はもう充分情けない姿を見せている。もののついでに修に直接聞いてみることにした。
「ああ。これはね、いつも着けてる訳じゃなくて外せないんだよ」
「どういうことだ」
「そのままだよ。このタイプは専用の器具でしか外れないんだけど、それを失くしたから外せないだけなんだ」
修が成人した時に父親から貰った形見だと言うが、拘りがあってつけっぱなしにしている訳じゃない話を聞いて、龍弥は呆れて溜め息を吐く。
「ショップに行けば外せるんじゃないのか」
「そうだろうけど、外す理由もないから。それとも僕がこれをつけているのが嫌かい」
恋人に贈るプレゼントとしても有名な商品だ。それに思い当たった修が、今更ながら外した方がいいかと龍弥の顔を覗き込んだ。
「親父さんの形見なんだろ、だったら無理に外さなくていいんじゃないか」
修にはどこか雑でいい加減なところがあることを知って、龍弥は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ああ、龍弥おかえり。もっと遅いかと思っていたよ」
「なんだよ、起きてたのか」
「仕事の電話で起こされてね。時差とか考えて欲しいよ。コーヒー淹れるかい」
「いいよ。自分でするからゆっくりしてろ」
龍弥はソファーに座る修の頭をくしゃりと撫でると、部屋着に着替えて焼き鳥屋の煙が染み付いた服を洗濯機に放り込んだ。
「そういや、今日は漯の家に行ってきたんだろ。家にはよく行くのか」
酔い覚ましにカットしたトマトをミキサーに掛けると、少しの塩とレモンを絞ってグラスに注ぐ。
「よくって、漯の家にかい?いやいや、初めて行ったよ」
「初めて?なんだよ、今まで行ったことなかったのかよ」
龍弥は修の隣に座ってトマトジュースを飲むと、返ってきた意外な返事に驚いて目を丸くする。
「日本に来てからはバタバタしていたからね。漯が家と呼べる場所に住んでなかったのもあるし、行く機会はなかったね」
「そうだったな、少し前まで海外に拠点を置いてたんだったな」
龍弥は立ち上がってキッチンでグラスを洗うと、冷蔵庫から炭酸水を取り出してソファーに戻る。
「僕が漯の家に行ったのが気になるのかい」
「正直に言えば、嫉妬した自分に笑う程度には気にしてた」
仕事に行く前のモヤモヤした気持ちを思い出して、龍弥が苦笑いする。
「あれ、龍弥にしては珍しく素直に認めるんだね。気にしてたってことは吹っ切れるなにかがあったのかな」
「別に大したことじゃない。腐れ縁の悪友と久々にサシで飲んで、素直になった方がいいと思わされただけだ」
「ふふ、いい友達だね。大事にしないと」
どんな人なのかと龍弥に目を向ける修の眼差しに、嫉妬のようなものを感じて龍弥は口角を上げると、凛太郎のことを面白おかしく言って聞かせる。
修も誤解させないようになのか、漯には最近プロポーズを受けてくれた恋人がいて、彼女と三人で食卓を囲んで来たのだと嬉しそうに表情を緩めた。
こんな風に日常の些細な出来事を話し合えるだけで、蝋燭に火が灯るように心の中が少し温かくなる。龍弥は修と出会ってその感覚を取り戻した。
「アンタと出会えて良かったと思う。憬のことで、修がなにかしら引け目を感じて、よくない方向に考えが及ぶのも分からなくはない。でも俺が選んでアンタと居るのは分かって欲しい」
「僕は勘違いをしていたみたいだね。龍弥はいつもそう伝えてくれていたのに、卑屈になって素直に受け入れることが出来なかった」
「俺は言葉にするのは得意じゃない。毎回素直になんでも話せる器用なタイプの人間じゃないからな」
「ふふ。ならこれからは、僕がそのサインを見極めて龍弥を素直にさせる努力をするよ」
修は龍弥の膝に手を置くと、甘えたように龍弥にもたれ掛かる。
「そういえば、そのバングル」
「え?」
「いつも着けてるな」
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「ショップに行けば外せるんじゃないのか」
「そうだろうけど、外す理由もないから。それとも僕がこれをつけているのが嫌かい」
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