金曜の夜、駅前に座る少年は彼女たちを癒しているのかもしれない

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生倉 湊

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「なんで・・・」
それから私は行くあてもないまま、ずっとこの街をさまよっている。思い出したくないのに何度も思い出して、何度も忘れようとして。
あれは夢だったと、どんなに信じようとしても、尚弥のあの目が頭の中に蘇ってきてしまうのだった。
この改札にも何度来たのだろう。時計を見た私は「そろそろ帰らなきゃ」とぼうっとしたまま歩き始めた。

やっと行き先を決めてとぼとぼ歩き出した私だったが、不意に耳に入ってきたピアノの音に足が止まった。

「ぴあの?」

もう考えることすらできなくなっていた私は、頭に浮かんだまま呟いた。
どこからともなく聞こえてくるその音は、行き場を失った私の心を慰めるように、悲しげで美しい音色を奏でていた。
「きれいな音・・・」
その音色に惹かれた私は、ふらふらと歩いて、いつのまにかピアノの前に立っていた。
弾いているのは男の子?
男の子にしては長い髪のその人は、ピアノの前に座っていてよくは見えないのだけど、決して大きいとは言えず、繊細で女の子のような印象だった。その人が細い指で静かに、時には強く音を奏でていく。

最初静かだったその曲はだんだんと激しさを増して激流のようなメロディになり、いつのまにか私の心を優しく包むようなメロディーに変わっていた。
「ううっ・・・」
その優しい響きにとうとう心が耐えきれなくなった私は、大粒の涙を流しながら、ピアノの前でうずくまってしまった。
「ちょっとあなた、大丈夫?」
私を心配する声が近寄ってきて、優しく肩に手を置いてくれた。
その間も優しいメロディーは続いて、私も涙を止めることができなかった。
「こっちに椅子があるから」
肩に乗せた手の人が、私を椅子に座らせてハンカチを渡してくれた。ほのかにいい香りがする。
いつのまにか優しかったメロディーが終わり、静かな、もの悲しい音が続き、私を元気付けようとするかのような明るく力強いメロディーが流れていく。
そのさまざまな音色に心を預けているうちに、私の心はだんだんと落ち着きを取り戻していき、気がつくと涙も止まっていた。
「少しは落ち着いたみたいね」
安心したような優しい声がまた私に響いた。
私はその音色と優しい声の人に体を預けたまま、しばらくぼうっとして動けないでいた。
しばらくすると、また激しい音色に変わり、その音に私はビクッと体を震わせた。それから音はどんどん激しさを増して一気にクライマックスまで進んで行った・・・
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