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中断した掃除を再開してしばらくすると、玄関の開く音とともに、元気な声が聞こえてきた。
「おじさん、こんにちは!母さんが煮物持ってけって言うから・・・」
掃除機をかけていた彩香は、なんとなく聞き覚えのある声を耳にして玄関の方を見た。
「・・・え?彩香?」
「明衣?なんで明衣が・・・」
「うち隣でさ・・・もしかしてバイトってここだったの?っていうかなんでメイド服?」
またもやメイド服を指摘された彩香は、頰を赤らめた。
「あ・・・あのね、編集者の和泉さんが・・・」
明衣に答えながらも彩香の声はだんだん小さくなっていった。
「あー、あの人か・・・和泉さんってさ、趣味がコスプレで衣装も自分で作ってるんだって。私にもチアのカッコさせようとしたことある。『明衣ちゃん絶対似合うから!』とか言って。私は断固拒否したけど。そっか、彩香はあのひとの毒牙にかかっちゃったんだね・・・」明衣はうなだれるような声で言った。
背が高くてスレンダーな明衣ならチアのユニフォームも似合うだろうな、と彩香も思った。
「毒牙って・・・でも、これ意外と動きやすいんだよ。」
「あらまあ素直な彩香ちゃん。でも、たしかに似合ってる。めっちゃかわいいね。私じゃこうはいかないかも」
とそこに先生がやってきた。
「あ、こんにちは、おじさん!煮物持ってきたよ!」
「こんにちは明衣ちゃん。あ、この子はね、今度うちで働いてもらうことになった・・・」
「彩香ですよね。私、同じクラスです。あ、彩香これ、後であっためてあげて」
そう言いながら、明衣は彩香に煮物の入った鍋を渡した。
「おお、そうだったのかね。それは良かった。鷹文は明衣ちゃんと同じクラスなのかい?」
「いえ、鷹文は隣のクラスになりました」
「そうか、鷹文、残念だったな・・・」
「残念?」明衣は首を傾げた。
「私だったら、こんなかわいいおふたりと同じクラスになりたいなと思ってね」
「やだーおじさん。恥ずかしいじゃないですか!」
明衣は盛雄の肩を勢いよく叩いた。
「ねえ彩香、鷹文には会った?」
「ううん。たかふみ?息子さん?」
「そうそう。ここの家の一人息子。あいつさぁ、無愛想なんだけど悪いやつじゃないから仲良くしてやってね」
「明衣、なんかお姉ちゃんみたいだね」
「昔からよく言われる。ほんとに手のかかる弟で・・・」そう言いながら明衣は、少し照れた様子だった。
「鷹文、まだ帰ってないんですか?」
「そのようだね。明衣ちゃんは早かったんだね」
「はい、私は・・・あ!母さんにすぐ戻ってこいって言われてたんだった」
「お母さんにお礼言っておいてください。いつも美味しいものをありがとうございます、と」
「はぁい。じゃあ、おじさん。彩香もまた明日ね」
明衣は手を振りながら、走って戻っていった。
明衣が家に帰った後、廊下の掃除をしていた彩香は、「息子の部屋」と説明されたドアの前に立ち止まった。
「さすがに、勝手に入るわけにはいかないわよね」と彩香が考えていると、階段を上がってくる足音が聞こえた。
「・・・おまえ、何?」
いきなり発せられた声に不意を突かれた彩香は、跳び上がるように驚いたが、すぐにお辞儀をした。
「あ、あの、今日から家政婦をしている、遠野彩香です・・・」
深々とお辞儀をした彩香が顔を上げると・・・
「「あ!」」
目が合った瞬間、2人の顔が突然険しくなった。
「あ、あなた、昨日の朝の人!」
「な、なんでおまえが?」
2人は相手を見ながら同時に言った。
「昨日の朝、バイトのポスター見て・・・ここ、あなたの家だったの?」
「・・・そうだけど」
「私、遠野彩香。3組よ。これからここで家政婦のバイトするからよろしくね」
昨日のことを思い出した彩香は、少しムッとしつつも、自己紹介をした。
「・・・斉藤、鷹文。4組・・・なんでメイド服?」
突然服のことを言われた彩香は、真っ赤になりながら小声で「そ、それは・・・」
そこにタイミングよく和泉がやってきた。
「ねえ鷹文くん。彩香ちゃん、とおってもかわいいでしょ!このメイド服、私が作ったのよ」
「・・・そういうことですか」
鷹文は特段驚いた様子もなく、彩香を見ていた。
「あ、あの、昨日は・・・カバン大丈夫だったでしょ?」彩香は、なんとなく気まずい気分のまま聞いた。
「ああ・・・中はなんともなかった」
「もう女の子にあんな大きな声出さないでね」
「・・・ああ」それだけ言うと、鷹文は自分の部屋へ入ってしまった。
「彩香ちゃん、昨日、鷹文くんと何があったの?」
鷹文の部屋の前から離れた彩香は、和泉に昨日の顛末を話した。
「カバン水浸しになったのはかわいそうだなって思いましたけど、あんなに怒らなくてもいいのに」
「そっか・・・鷹文くんにしては珍しいわね」和泉は不思議に思っているようだった。
「そうなんですか?」
「うん。さっきもほら、あんな感じだったでしょ。そんなに感情を表に出すような子じゃないのよ。鷹文くん」
「・・・そうですね」
彩香も、今日の鷹文の態度からは昨日の怒りが想像できなかった。
「あ!そう言うことか!」和泉がなにか思いついたようだった。
「どうしたんですか?和泉さん」
「あのね、彩香ちゃん。このことは、先生にも鷹文くんにも内緒にしておいてほしいんだけど」和泉の声が小さくなった。
「鷹文くん、ある文学賞に応募してたの。その結果が最近出てね、落選しちゃったのよ。で、その賞の選考委員に先生が入ってて、落選作品を読まれたと思ってるみたいなの、鷹文くん」
「・・・それは・・・」
「選考委員に先生が入ったの、応募締め切ってからだったのよ。急遽、他の人の代わりに。最初からいたら、鷹文くん、きっと別のところに応募してただろうし。その上、入選してたならまだしも、落選作を読まれたって思ってるわけだから・・・」
彩香も和泉の話を聞いて、鷹文の気持ちが少しだけわかったような気がした。
「多分それでイライラしてたんだと思うわ。そんな時だったから、ついやり場のなかった怒りをぶつけちゃったんだと思うの。でも多分、先生は鷹文くんが応募したことも知らないと思うわ。作家の先生たちは最終選考に残ったのしか読まないし」
「そうなんですか・・・」
掃除を再開した彩香は、鷹文のやり場のない気持ちを想像していた。
「おじさん、こんにちは!母さんが煮物持ってけって言うから・・・」
掃除機をかけていた彩香は、なんとなく聞き覚えのある声を耳にして玄関の方を見た。
「・・・え?彩香?」
「明衣?なんで明衣が・・・」
「うち隣でさ・・・もしかしてバイトってここだったの?っていうかなんでメイド服?」
またもやメイド服を指摘された彩香は、頰を赤らめた。
「あ・・・あのね、編集者の和泉さんが・・・」
明衣に答えながらも彩香の声はだんだん小さくなっていった。
「あー、あの人か・・・和泉さんってさ、趣味がコスプレで衣装も自分で作ってるんだって。私にもチアのカッコさせようとしたことある。『明衣ちゃん絶対似合うから!』とか言って。私は断固拒否したけど。そっか、彩香はあのひとの毒牙にかかっちゃったんだね・・・」明衣はうなだれるような声で言った。
背が高くてスレンダーな明衣ならチアのユニフォームも似合うだろうな、と彩香も思った。
「毒牙って・・・でも、これ意外と動きやすいんだよ。」
「あらまあ素直な彩香ちゃん。でも、たしかに似合ってる。めっちゃかわいいね。私じゃこうはいかないかも」
とそこに先生がやってきた。
「あ、こんにちは、おじさん!煮物持ってきたよ!」
「こんにちは明衣ちゃん。あ、この子はね、今度うちで働いてもらうことになった・・・」
「彩香ですよね。私、同じクラスです。あ、彩香これ、後であっためてあげて」
そう言いながら、明衣は彩香に煮物の入った鍋を渡した。
「おお、そうだったのかね。それは良かった。鷹文は明衣ちゃんと同じクラスなのかい?」
「いえ、鷹文は隣のクラスになりました」
「そうか、鷹文、残念だったな・・・」
「残念?」明衣は首を傾げた。
「私だったら、こんなかわいいおふたりと同じクラスになりたいなと思ってね」
「やだーおじさん。恥ずかしいじゃないですか!」
明衣は盛雄の肩を勢いよく叩いた。
「ねえ彩香、鷹文には会った?」
「ううん。たかふみ?息子さん?」
「そうそう。ここの家の一人息子。あいつさぁ、無愛想なんだけど悪いやつじゃないから仲良くしてやってね」
「明衣、なんかお姉ちゃんみたいだね」
「昔からよく言われる。ほんとに手のかかる弟で・・・」そう言いながら明衣は、少し照れた様子だった。
「鷹文、まだ帰ってないんですか?」
「そのようだね。明衣ちゃんは早かったんだね」
「はい、私は・・・あ!母さんにすぐ戻ってこいって言われてたんだった」
「お母さんにお礼言っておいてください。いつも美味しいものをありがとうございます、と」
「はぁい。じゃあ、おじさん。彩香もまた明日ね」
明衣は手を振りながら、走って戻っていった。
明衣が家に帰った後、廊下の掃除をしていた彩香は、「息子の部屋」と説明されたドアの前に立ち止まった。
「さすがに、勝手に入るわけにはいかないわよね」と彩香が考えていると、階段を上がってくる足音が聞こえた。
「・・・おまえ、何?」
いきなり発せられた声に不意を突かれた彩香は、跳び上がるように驚いたが、すぐにお辞儀をした。
「あ、あの、今日から家政婦をしている、遠野彩香です・・・」
深々とお辞儀をした彩香が顔を上げると・・・
「「あ!」」
目が合った瞬間、2人の顔が突然険しくなった。
「あ、あなた、昨日の朝の人!」
「な、なんでおまえが?」
2人は相手を見ながら同時に言った。
「昨日の朝、バイトのポスター見て・・・ここ、あなたの家だったの?」
「・・・そうだけど」
「私、遠野彩香。3組よ。これからここで家政婦のバイトするからよろしくね」
昨日のことを思い出した彩香は、少しムッとしつつも、自己紹介をした。
「・・・斉藤、鷹文。4組・・・なんでメイド服?」
突然服のことを言われた彩香は、真っ赤になりながら小声で「そ、それは・・・」
そこにタイミングよく和泉がやってきた。
「ねえ鷹文くん。彩香ちゃん、とおってもかわいいでしょ!このメイド服、私が作ったのよ」
「・・・そういうことですか」
鷹文は特段驚いた様子もなく、彩香を見ていた。
「あ、あの、昨日は・・・カバン大丈夫だったでしょ?」彩香は、なんとなく気まずい気分のまま聞いた。
「ああ・・・中はなんともなかった」
「もう女の子にあんな大きな声出さないでね」
「・・・ああ」それだけ言うと、鷹文は自分の部屋へ入ってしまった。
「彩香ちゃん、昨日、鷹文くんと何があったの?」
鷹文の部屋の前から離れた彩香は、和泉に昨日の顛末を話した。
「カバン水浸しになったのはかわいそうだなって思いましたけど、あんなに怒らなくてもいいのに」
「そっか・・・鷹文くんにしては珍しいわね」和泉は不思議に思っているようだった。
「そうなんですか?」
「うん。さっきもほら、あんな感じだったでしょ。そんなに感情を表に出すような子じゃないのよ。鷹文くん」
「・・・そうですね」
彩香も、今日の鷹文の態度からは昨日の怒りが想像できなかった。
「あ!そう言うことか!」和泉がなにか思いついたようだった。
「どうしたんですか?和泉さん」
「あのね、彩香ちゃん。このことは、先生にも鷹文くんにも内緒にしておいてほしいんだけど」和泉の声が小さくなった。
「鷹文くん、ある文学賞に応募してたの。その結果が最近出てね、落選しちゃったのよ。で、その賞の選考委員に先生が入ってて、落選作品を読まれたと思ってるみたいなの、鷹文くん」
「・・・それは・・・」
「選考委員に先生が入ったの、応募締め切ってからだったのよ。急遽、他の人の代わりに。最初からいたら、鷹文くん、きっと別のところに応募してただろうし。その上、入選してたならまだしも、落選作を読まれたって思ってるわけだから・・・」
彩香も和泉の話を聞いて、鷹文の気持ちが少しだけわかったような気がした。
「多分それでイライラしてたんだと思うわ。そんな時だったから、ついやり場のなかった怒りをぶつけちゃったんだと思うの。でも多分、先生は鷹文くんが応募したことも知らないと思うわ。作家の先生たちは最終選考に残ったのしか読まないし」
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