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「玲さん、声優になるんですか?」
ワゴン車の中で待機している彩香が和泉に尋ねた。
「そうなの。あの子の声、キレイじゃない?通りもいいし。さっき冗談半分で監督に話したら『面白そうだねぇ』って乗り気になちゃってね。本決まりになっちゃったのよ!」とさつき。
「れいさん、すごい・・・」
ぽかんとするゆず。
「それに、玲ちゃん小顔で美人だから。もしかしたら大変な原石見つけちゃったのかも。そういうところも和泉ってセンスあるわよね」
「あはは。ほんとは彩香ちゃんを表に出したいんだけどねぇ」
和泉がちらっと彩香を見た。
「私は絶対に嫌です!」
「なら、ゆずちゃんはどう?」
今度はゆずの方を向いた。
「わわわ、わたし、は・・・」
「ゆず、心臓止まっちゃうんじゃないですか?」
挙動不審のゆずを見かねた明衣が助け舟を出した。
「そっかぁ。残念だなぁ。二人とも絶対に売れるのに」
そんな話をしていると、運転席の横に誰かが来たようだった。
「あ、ありがとう。左のドアに行ってくれる?」「はい」
「明衣ちゃん、ドア開けてあげて」
さつきの声に明衣がドアを開けると、小柄の女の子が何かを持って立っていた。
「わはは!ゆず、お前本当に、みかんなんだな!」
「え?あ、あんな?」
「おう!あんなだよ!びっくりしただろ!」
と、こんな小さなことでも勝ち誇るあんな。
「ほ、ほんとだよ!どうしてここに?」
「ゆずビビってると思ってさ、これ、持ってきてやったんだ」
そういうとあんなはゆずにふわコロサンドを渡した。
「あんころだ!」中身に気づいたゆずは嬉しそうに食べ始めた。
「ああ、お前この前注文しただろ」
「え?」とあんころサンドを頬張りながら不思議そうな顔をするゆず。
「和泉さん使っていたずらしやがって」
「あはは。動画見たよ。やったあって思っちゃった」嬉しそうなゆず。
「マジ驚いたからな。今度倍にして返すから覚えてろよ!」と楽しそうな顔のあんな。
「そういえば、これ、お前の大好きなヒンシノ先生のサイン、ゆず欲しがってたろ・・・て本人いるじゃん!」
とあんなは、車内にしのがいるのを見つけて驚いた。
「こここ、こんにち、は」ひょこっと顔を出してあいさつするしの。
「わあ、ヒンシノ先生のサイン色紙だ!『ゆずちゃんへ』って書いてある」
本人を前にしても受け取って嬉しそうな顔をするゆず。
「おまえ・・・本人いるのに、まだもらってなかったのか?」
「そ、そういえば・・・」
しの本人に会えたことが嬉しくて、ゆずはサインのことをすっかりと忘れていたようだ。
そんな和やかな風景を見ながら和泉はさつきに尋ねた。
「ところでさつき、進み具合はどう?」
「ちょっと待ってね・・・もうだいぶ進んでるみたい。この子達はトリだけど、そろそろ移動しよっか?」
「そうね。彩香ちゃんゆずちゃん、いいかしら?」
「「は、はい!」」緊張した声で返事をする二人だった。
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