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「来てないな」
「そ、そうみたいね」
鷹文は明衣たちが気になるのか、時々後ろを振り返りながら歩いている。
彩香も気にしているようで、ふたりは付かず離れずの距離を保ったままスーパーへ向かっていた。
「でも、本当にどうしちゃったの?鷹文くん」
不思議に思った彩香が尋ねた。
「いや・・・明衣が言ってた心配ってのは嘘じゃない」
「体調ならもう大丈夫よ」
「ああ、わかってるんだけど、な」
「・・・お母さんのこと?」
彩香が呟いた。
「聞いたのか?」
鷹文は彩香の横顔を見つめた。
「うん」
彩香は前を向いたまま小さく頷いた。
「母さんも彩香と同じようにあの部屋で倒れたんだ。その時俺、何もできなくって・・・彩香が倒れた時、母さんの事思い出すなんて思わなかった」
「・・・ごめんね」
「彩香が悪いわけじゃない。俺が勝手に思い出しただけだから」
「うん・・・」
「それに、それだけじゃ、ないし・・・」
「え?」
「いや、なんでもない」
鷹文が逃げるように早足になった。
「鷹文くん、早いよ」
彩香が慌てて後を追った。
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