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聖女アーニャはボーナスタイムに突入していた

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今回の依頼は瘴気の濃い地の浄化。
通常その目的地の周辺の街や村に結界を張る事から始める。
これは瘴気の濃い地を浄化するとその地に居た魔物が移動を始め周辺に被害をもたらす為、その防止処置である。

瘴気が濃い程そこに居る魔物は強くなる。
そう言った魔物はそこに居続ける事でますます強く成れる事を理解して滅多に移動することは無い。
瘴気の中心に向かう程大物が居る事に成る。

瘴気が無ければ魔物は弱体化して行く。
その地を浄化されてしまった魔物は新たな瘴気の濃い地を求めて移動を始める。
浄化された地が魔物には居心地が悪いというのも有るのだろう。
普段は人が目にする事もない大物が移動するのだ。
たまたま通り道になった街や村の被害は想像に難くない。
その為に結界もセットでアーニャに依頼される。

街や村に結界を張っているからと言って人の安全が確保されるものでは無い。
街道や森などに溢れる魔物は討伐しなければならない。
そのままにすれば結界を張っていない遠くの街まで行ってしまうかもしれない。
流通が止まってしまうかもしれない。

そのような人工的に作られた魔物溢れ、スタンピードの対策に冒険者が当たる。
大物が出るので危険ではあるのだが、浄化の影響でやや弱体化したはずである。
滅多に討伐されない大物が有利な条件で狩れるかもしれない。
その素材は高値で売れるはずである。
冒険者ギルドはアーニャの依頼と共に稼ぎどきであった。


だが、今回は国と貴族が横入りしてきた。
冒険者に出されるはずの討伐依頼を無用として騎士団に対応させると通告してきたのだ。
これはアーニャに出した依頼金を魔物討伐の素材売却で少しでも取り戻そうと言う意図がみえみえだった。

果たして討伐は失敗した。

浄化を終え移動していたアーニャ一行に魔物が押し寄せて来たのである。
結界を張りながらの移動をしているので普段なら大して相手する事も無く無視するのだが、アーニャの成果確認の為同行していたギルド職員が気付いた。
貧相なゴブリンが持っている武器が不相応な程立派な物である事に。

「あらー、騎士団全滅したかな?」

「そうですね、ホブゴブリンの兜は王国騎士団の物です。
ゴブリンの持っている剣も血で汚れているとは言え、まだ新しく、騎士が使っている物ですね。」

「という事はこの後大物が出て来るかな。」

「ええ、新たな血の匂いに釣られて来るでしょう。
このまま街へ連れて行く訳にはいきませんね。」

「仕方ないなー。
いつもは冒険者に任せてるのに余計な仕事増やしやがって。
ちょっと行って来るからここで待っててね。
依頼の仕事じゃないから確認要らないでしょう?
結界は張ったままにしておくから出て魔物倒さなくても大丈夫だから。」

3人のギルド職員もこの数のゴブリンを相手にできる力は無い。
大人しく休憩の体勢に入った。

それを確認したアーニャは結界を飛び出し、それこそ飛ぶような勢いで駆け抜けて行く。
倒されたはずの魔物は姿が消えてしまう。
アーニャがインベントリに入れているのだ。

アーニャの指が光ったと思ったら魔物の首が飛び、すぐにその姿が消える。
ギルド職員たちはそんな魔法は知らない。
聖女アーニャのする事だからと納得するだけだ。
その繰り返しで見渡す限りに居た魔物が居なくなった。
恐らく結界の外では血の匂いが有るのだろうが結界の中では判らない。
そのままアーニャは魔物が来た方向へ消えて行った。

野営も有るかと職員が思い始めた頃、アーニャが戻ってきた。
馬数頭と荷馬車2台を連れている。
その馬の背と荷台には怪我をしていると思われる騎士を乗せて。

「いやー、1周回って来たけど、取り敢えず生き残り8人だったわ。
治療はしたからすぐ目が覚めると思うよ。
料金請求はどこにしたら良いかな。
お仕事中だったんだから国や貴族だよね。
あいつら素直に払うかな。
武器とか鎧とかも拾って来たけど、これわたしの物に成る?
遺体も拾ったけどこっちは謹んで遺族にお返しするよ。」

「武具などは通常、回収した者に所有権が有りますが、国や貴族が何と言うか。」

「よし、武器や鎧は拾わなかった。
きっと魔物が食べてしまったんだ。」

「いや、わたしはこの国のギルド所属なんで、それはちょっと。」

「仕方ないなー。
ギルドに格安で卸すから高値で国や貴族に売って良いよ。」

「いえ、そういう事ではなく……。」

「遺品とかは遺族と直接交渉するか。
国や貴族に口を挟ませないように教会に任せれば良いね。
無謀にも騎士団に任せたツケは払ってもらおう。
遺族に散々叩かれるが良い。
回収しようとした以上の出費に泣くが良い。

冒険者諸君には解体祭に参加してもらうからね。」

「ありがとうございます。
今回稼げるはずだった分が少しでも冒険者に渡ります。」

「ああ、ベヒモスとコカトリスが居たからそれ以外は遺族と冒険者で分けて良いや。
ベヒモスとかコカトリスに騎士100人程度で挑むとか馬鹿だよね。」

(((いや、あんたひとりで討伐したんやろ)))

「途中で乗せてもらった以外のワイバーン20頭位は倒したからそれも分けて良いよ。
あいつらはきっと遺族に大したお金出さないでしょう。
お馬鹿は果てしなくお馬鹿だからねぇ。」

「ワイバーンに乗って全部回ったんですか。」

「いやー、ちょうどいい所にワイバーンが襲って来てくれたから、一頭説得して乗せてもらったんだ。
加減が判らなくて結構殺しちゃった。
ワイバーンが地上に居ると弱いね。
あいつら骨が脆過ぎ。
骨粗しょう症ってやつ?
今度から移動はワイバーンにしようかな。
どこかに乗り心地良いドラゴンとか落ちてないかな。」

きっとドラゴンを殴ってから落ちてたとか言うんだ、と職員は心の中でだけ呟いた。
聖女がドラゴンに乗って現れる街に同情した。


だがしかし、すぐに実現したその姿を目撃することになる。
治療費を出し渋った王城にアーニャは白いドラゴンに乗りやって来たのだ。
美しいそのホワイトドラゴンの姿に人々は王城へと集まった。
神の御使いに乗って現れたアーニャを崇拝する者までいる。

アーニャはただ集金に来ただけである。
ドラゴンに怯えた王によって支払いを受け、さっさと帰って行った。
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