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聖女フランチェスカ
しおりを挟む聖女アーニャは遺跡の浄化の依頼を受け、とある国の王城へ来ていた。
「フランチェスカ、真なる聖女アーニャ殿に来て頂いた今、お前の役目は終わりだ。
聖女の任を解き、王都処払いを申し付ける。」
フランチェスカ様以外には用は無いので邪魔しないで頂きたいのですが。
そもそも誰です?
格好から高位貴族か王族だと思いますけど。
「いえ、ですが、わたしが王都の結界を解くと……。」
「良いのですよ、聖女フランチェスカ様、あなたは十分聖女としての働きをしてきました。
この依頼を出した王もフランチェスカ様は休まれるようにと言っておられました。
ですから、後はわたしが引き受けます。」
ここはわたしに任せて先に行け、というやつです。
少し違うみたいです。
神がわたしの頭の中でツッコミ入れて来ました。
うるさい神ですね。
そんな事なら自分でどうにかして欲しいものです。
「しかし、アーニャ様。」
フランチェスカ様も納得して頂けないようです。
「行け」じゃなくて「逝け」だったのでしょうか。
フランチェスカ様はこう行った方面にお詳しいのですか?
「お前が次の王たる俺の命を救った功績は認める。
しかし、この戦が終われば王となる俺の邪魔をする気か、フランチェスカ。」
隣国との戦いに明け暮れたこの国でフランチェスカ様は多くの人を癒したと聞いています。
この王子もその癒しを受けたひとりだったのでしょう。
ですが、この王子は次期王の矜持だけで言っているみたいです。
わたしとは相容れない人ですね、これは。
本当邪魔しないでもらいたい。
状況を理解していないみたいですし。
次期王とかよりも大事な事。
一刻も早く結界を消して頂かないと。
このままではフランチェスカ様の魂が耐えられません。
王と王妃でしょうか。
近くまで来られたふたりもわたしに賛成のようですよ?
バルコニーから外を見れば民たちも皆フランチェスカ様を心配していることでしょう。
「フランチェスカ様、20年良くおひとりで頑張りました。
皆、あなたに感謝していますよ。」
「でも、神はわたしをお許しになられるのでしょうか。」
おい、神、許すよね?
わたしにツッコミ入れるくらいなら彼女に応えてあげなさいな。
わたしより聖女らしい聖女じゃないの。
「大丈夫ですよ。
もし許さないとか言ったらフランチェスカ様が蹴り入れちゃって良いですから。
わたしの分も一発お願いしても?」
「ふふ、アーニャ様は聖女として、わたしをお許しになられるのですか。」
「勿論許しますとも。
フランチェスカ様ほど聖女に相応しい人をわたしは知りません。
わたしが許すとか言える立場じゃないんですけどね。」
「ありがとう、聖女アーニャ様。
では、わたしは神に叱られてきます。」
わたしは浄化の魔法を全力で王都に掛けた。
恨みや苦しみを持った魂が悪霊に成らない様に。
聖女フランチェスカ様の結界がゆっくりと解けて行く。
フランチェスカ様の魂が天に昇って行く。
それを追う様に王、王妃、王子の魂も昇って行く。
王都中から昇天して行く魂が見える。
それらがすべて天に消えた後、わたしは改めて王都の遺跡に結界を張った。
誰も手を出せなかったこの地をそのまま墓標にするために。
20年前の戦で敵国に包囲され、フランチェスカ様の結界に守られながら閉じ込められ、餓死した者たち。
死しても尚、結界を張り続けたフランチェスカ様によってすべての魂が閉じ込められていた旧王都。
やっと皆、輪廻の輪に戻って行く。
敵国の間者に真っ先に殺されてしまったフランチェスカ様。
だけど、フランチェスカ様は皆を守りたかった。
その結果、フランチェスカ様は魂になっても消えない結界を作りだしてしまった。
敵味方構わず誰も、魔法や弓も魂さえも通さない結界を。
誰がフランチェスカ様を責められようか。
わたしの先代に当たる聖女フランチェスカ様。
神が許さないと言ったなら、わたしがそちらに行ったとき一緒に蹴りに行きましょう。
その頃にはフランチェスカ様は新たな聖女として生まれ変わっているかもしれませんね。
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