『蛇淫の楔 ~双剛に穿たれ堕ちる乙女~』

西嶽 冬司

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1章【上倉 かなえ 編】

第14話:『奉仕の競艶』

 その家の扉を開ける瞬間、かなえの背筋を走るのは、かつてのような死への恐怖ではない。それは、これから始まる甘美な破壊への予感と、下腹部を灼熱で満たす渇望の震えだった。
 かつて忌避すべき魔窟であった幼馴染の家は、いまや世界で唯一、かなえが『ただの牝』に還ることのできる聖域となっていた。
 週末の午後。鍵穴に金属が噛み合う乾いた音さえも、かなえにとってはパブロフの犬のように涎を分泌させる合図となる。重い扉を開け放ち、彼女は玄関に足を踏み入れた。

 靴を揃える余裕などない。
 かなえは玄関ホールに足を踏み入れるや否や、取り憑かれたような手つきで自身の衣服に手をかけた。
 ブラウスのボタンを乱暴に弾き飛ばし、スカートのホックを引きちぎる勢いで外す。薄い布切れ一枚の下着すらも躊躇なく床に脱ぎ捨て、数秒もしないうちに生まれたままの姿となる。
 ひやりとした廊下の空気が、火照った肌を撫でる。だが、その冷たささえもが、これから与えられる灼熱へのスパイスに過ぎない。

 ——この家に入るときは、一糸まとわぬ『肉人形』でなければならない。

 それは統也と交わした絶対のルールであり、今のかなえにとっては人間社会の倫理から解き放たれるための誇り高き首輪だった。
 廊下を歩く足取りは軽い。あの日、崇護という最後の人間的な良心を切り捨ててから、かなえの視界は劇的にクリアになっていた。
 放課後の教室、鍵のかかった女子トイレ、埃っぽい用具倉庫。学園生活のあらゆる隙間時間は、統也の性欲を受け止めるためだけに消費された。
 だが、統也は慎重だった。「あからさまに変われば周囲にバレる」と、表向きの優等生としての仮面を被り続けるよう厳命されていた。

 だが、あの女——天花は違う。
 妖魔である彼女は、統也と同じ側の住人だ。成績にも、周囲の目にも頓着しない。生活の全てを、統也との交尾のためだけに使っているように見えた。
 それが、かなえには羨ましくて、妬ましくて、臓腑が焼けただれるほど憎らしかった。
 だからこそ、こうして誰の目も気にせず、統也を独占できる(かもしれない)週末が、待ち遠しくてたまらなかったのだ。

 リビングの扉に手をかける。心臓が早鐘を打つ。統也の姿を思い浮かべるだけで、下腹部が疼き始める。

 扉を開けた。

 ——だが、そこに統也の姿はない。 代わりに、ソファを優雅に占領している先客の姿が、かなえの視界に飛び込んできた。

「……あら。随分とお早い到着ね、かなえさん」

 天花は、ティーカップを傾けながら、かなえを一瞥した。

 人間の衣服を纏っているにもかかわらず、その全身からは隠しきれないフェロモンが漂っている。 艶やかな青みのある銀髪、透き通るような白い肌、妖艶に弧を描く唇。 カップを持つ仕草一つとっても、計算され尽くしたように艶めかしく、挑発的だ。

「随分とお疲れのようじゃない? 目の下に酷い隈ができているわよ」

 天花が、値踏みするような視線をかなえの全裸に這わせた。その瞳には、人間という脆弱な種族への憐れみと、恋敵への明確な侮蔑が冷たく光っている。

 かなえの中で、不快感が鎌首をもたげる。

 無意識に、自分の首筋へと手が伸びた。そこには、数日前に統也によって刻まれた、暴力的なまでにドス黒いキスマークが残っている。 噛み跡のような、所有の証だ。

「天花さんこそ……随分と肌艶が良いね。昨日は統也くんと『ラブラブ』だったの?」

 精一杯の皮肉を込めて問い返す。だが、天花は余裕の笑みを崩さない。

「ええ。たっぷりと愛の言葉を囁いてもらったわ」

 ティーカップをソーサーに戻し、天花は艶然と微笑んだ。

「貴女みたいに、気絶して泡を吹くような無様ではなくてね」

 カチン、と頭の中で何かが弾ける音がした。
 天花の言葉の端々に滲む、『私は特別』『私は壊れない』という優越感。それがかなえの神経を逆撫でする。
 だが、今のかなえは以前のようにただ唇を噛んで耐えるだけの少女ではなかった。

「……いいよね、余裕があって」

 かなえは艶然と微笑み返し、隠していた首筋の鬱血痕を、あえて見せつけるように髪をかき上げた。さらに、太腿の内側に残る指の跡、乳房に刻まれた歯型を誇示するようにポーズを取る。

「統也くん、私には容赦ないから。加減なんて一切なしで、頭がおかしくなるくらい奥まで突き上げられて……」

 声色を甘く蕩けさせながら、かなえは続けた。

「私、昨日なんて本当に死ぬかと思っちゃった」

 それは被害報告の皮を被った、強烈なマウンティングだった。

 ——私のほうが、統也くんの『牡の本能』を剥き出しにさせている。

 ——貴女のような壊れない愛玩動物ではなく、壊してしまいたくなるほどの性処理道具として愛されているのだと。

 天花の眉が、ピクリと不快げに跳ねた。

「……へぇ。そんなに激しいのがお好きなの。 野蛮な牝猫さん」

「野蛮で結構です。……天花さんこそ、大事にされすぎて『物足りない』んじゃない? 妖魔の身体って丈夫なのに、統也くんに遠慮されちゃってるのね」

 視線と視線がぶつかり合う。 視線の間で、バチバチと火花が散っていた。
 互いに、自分にないものを相手が持っていることが許せない。

 かなえは、統也の心と優しさを独占したいと願いながら、同時にその暴力的な愛着を手放せない。

 天花は、統也の全霊をかけた暴力を受け止め、庇護欲をかき立てる人間の脆さを妬んでいる。

 不毛な対立。 だが、どちらも引く気配はなかった。

「——ふたりとも、朝から元気だな」

 不意に、部屋の空気が変わった。
 重厚で、肌を刺すような濃厚な気配。 背筋を這い上がる、甘美な恐怖。
 二人が弾かれたように振り返ると、そこには気怠げな表情の統也が立っていた。 上半身は裸で、その肉体からは圧倒的な支配者のオーラが放たれている。

「「統也くん!!」 「「統也!!」

 二人の声が重なる。かなえは裸体のまま駆け寄り、天花はソファから身を乗り出す。

「聞いてください統也くん! 天花さんが、私のことすぐ気絶するって馬鹿にするんです!」

「事実でしょう? 統也、私にもっと愛をちょうだい。この脆い人間には耐えられないくらいの愛を」

 左右から浴びせられる渇望の言葉。
 統也は呆れたように嘆息すると、リビングの中央にあるソファにドカリと腰を下ろした。

「喧嘩をすんな……。まったく、そんなに俺のチ×ポが待ち遠しいのか?」

 言葉は乱暴だが、その瞳は愉悦に歪んでいる。自分のために女たちが争う様は、彼の支配欲を満たす極上の肴なのだ。
 彼はゆっくりと、両足を広げた。

「俺の身体は一つだが——幸い、お前たちを愛でるための『牙』なら、二つある」

 統也の手が、自身のズボンに掛かる。
 ジャリ、とファスナーが下ろされ、布地が引き下げられた瞬間、部屋の空気が凍りついたように張り詰めた。
 解放されたのは、人間の規格を遥かに超えた異形。
 根本からV字に分かれ、それぞれが独立した生き物のように鎌首をもたげる、二本の剛直。
 滑らかな皮膚ではなく、黒光りする硬質な鱗。 軟骨のようにコリコリとした無数の肉棘が生え揃い、血管が太く浮き上がっている。
 ドクドクと脈打つたびに、表面の突起が波打つように蠢いていた。

 ——双頭の蛇。

 その禍々しくも神々しい姿に、かなえの喉がゴクリと鳴った。
 欲しい。 あの異形で中を掻き回されたいという疼きが、下腹部を熱く濡らしていく。

「右はかなえ、左は天花だ」

 統也が傲慢に顎をしゃくり、二人に命じた。

「口と胸を使え。 気持ちよかった方を——今日は一日たっぷりと可愛がってやる」

「……っ! 望むところよ」

 天花が妖艶な笑みを浮かべ、迷いなく左側の竿に這い寄る。
 かなえも負けじと、右側の竿にしがみついた。

 間近で見る統也の異形は、いつ見ても圧倒的だった。
 子供の腕ほどもある太さ。表面を覆う無数の肉棘は、一つ一つが軟骨のように硬く、触れるだけで指先に甘い痛みが走る。それでいて、全体は灼けるように熱く、脈動するたびにビクリと跳ねる。

(負けない……っ。 統也くんの全部、私がもらうんだから……っ!)

 戦いの火蓋が切られた。 かなえは自分の胸を両手で寄せ、右の剛直を挟み込んだ。

「ん……っ、ふぅ……っ。 どう? 統也。私の胸、気持ちいい?」

 隣では、天花が豊満な胸で左の剛直を包み込み、巧みに上下させている。 妖魔特有の強靭さと柔軟さを併せ持つ彼女の肌は、統也の鱗にも負けない。柔らかい脂肪で突起を包み込み、いなすようにして摩擦を生み出している。
 時折、先端からチロチロと舌を出し、敏感な亀頭の裏側を舐め上げる余裕さえあった。

 対するかなえは、必死だった。

「んッ、くぅ……っ! あ、ひっか、かって……っ!」

 かなえもまた、天花に負けじと自身の胸で右の剛直を挟み込んだ。 だが、人間の柔らかい肌にとって、統也の『肉棘』は凶器に等しい。
 胸を寄せて挟み込もうとするたび、軟骨のように硬い突起が、まだ毒が馴染んでいない乳房の柔らかな脂肪と乳腺にゴリゴリと食い込む。

(硬いコブが、おっぱいのお肉にめり込んで……中身が潰されちゃう……っ!)

 内側の組織をグリグリと押し潰されるような鈍痛と、乳首が突起に引っかかって弾かれる鋭い刺激。
 快楽を与えるどころか、かなえ自身の顔が苦痛に歪んでしまう。

「どうした、かなえ。 動きが悪いぞ」

 統也の冷ややかな声が、頭上から降り注ぐ。
 見上げると、彼は天花の奉仕には満足げな吐息を漏らしているのに、かなえには冷徹な侮蔑の視線を向けていた。

(このままじゃ、天花さんに負けて……捨てられる……飽きられる……それだけは、嫌ッ!)

 かなえは決意を固め、胸での奉仕を断念。 代わり、顔を近づけ、目の前に聳え立つ赤黒い亀頭へと口を開いた。

「んむッ、ちゅ……っ! じゅる、ちゅぷ……っ!」

 口内という、粘膜の聖域で勝負に出る。
 温かい口腔内で包み込み、舌を絡ませて刺激する。獣臭さと、濃厚な牡の匂い。 『普通』の男性器とは異なるらしい、異形の感触。
 かつては嫌悪していたはずのそれが、今は脳を蕩けさせる甘美な媚薬のように感じられた。

「んちゅ……っ。 じゅぶ、ぐぷ……っ!」

 舌を絡ませ、吸い付き、頭を前後に振る。必死に奉仕するかなえの姿を、統也は冷ややかに見下ろしていた。

「随分と熱心だな」

 その声には、嗜虐的な響きが混じっている。
 統也の手が伸びてきた。後頭部を鷲掴みにされ、かなえの動きが止まる。

「んぐッ!? え、あ……?」

「口先だけで満足するな。……喉の奥まで、俺を刻み込んでやる」

 警告もなく、統也が腰を突き出した。極太の剛直が、かなえの口腔を突き抜け、喉の奥、食道への入り口を強引にこじ開けた。

「——ッッ!?!? ぐ、ォエッ……!!!」

 かなえの目が限界まで見開かれた。
 苦しい。痛い。
 無数の『肉棘』がびっしりと生えた異形が、デリケートな喉の粘膜を内側から押し広げながら侵入してくる。

  分厚い亀頭が舌根を押し潰し、口蓋垂を無慈悲に跳ね上げる。人間が呼吸を確保するための空間が、圧倒的な肉の質量によって埋め尽くされる。

 咽頭—— 通常、異物を拒絶するために閉ざされている食道の入り口が、統也の剛直な先端によって無理やりこじ開けられる。嘔吐反射が起きるよりも早く、強烈な圧力が神経を麻痺させる。
 ズズ、ズズズ……と、肉が肉を押し広げる鈍い音が頭蓋骨に直接響く。
 表面に生えた軟骨質の突起が、喉の繊細な粘膜にゴリゴリと引っかかり、引き伸ばし、通り道を強引に拡張していく。

 気道が圧迫され、酸素の供給が断たれる。
 先端が食道の奥深くに到達した瞬間、かなえの細い首は、内側にある異物の形状をありありと浮き上がらせ、人間のそれとは思えないほど無様に膨れ上がった。

「ぐ、ぅ……ッ! げ、ぼッ……!!」

 涙が溢れ、鼻水が垂れる。胃の中身が逆流しそうになるが、太すぎる栓がそれを許さない。 
 さらに、統也の手はかなえの頭をガッチリと固定している。 逃げ出すことはできない。

「いいぞ。その狭い喉が、チ×ポに引っかかって最高の締め付けだ」

 統也は容赦なく腰を前後させた。 喉の奥から、ズリュズリュ、と粘膜が突起に弾かれるような湿った音が響く。
 引き抜くたびに逆棘が引っかかり、押し込むたびに食道を拡張する。 本来なら、苦痛と恐怖しかないはずの行為。

 しかし——かなえの脳は、すでにバグを起こしていた。

(苦しい……っ、息できない……っ。でも、統也くんの匂い……頭に……ッ!)

 窒息寸前の酸欠状態。鼻腔を満たす濃厚な牡のフェロモン。そして、先端から溢れ出る大量の先走り汁の苦味。
 それらが化学反応を起こし、かなえの理性をドロドロに溶かしていく。

(入ってきてる……っ! 私の中を、壊してくれてる……ッ! 喉が、統也くんの形になっちゃうぅッ!)

 死の恐怖が、強烈な『服従の快楽』へと書き換わっていく。
 統也の一部になりたい。彼に殺されるほどの愛を受けたい。その歪んだ願望が、身体の防衛本能を凌駕する。
 喉の奥、食道壁が擦り上げられるたびに、脳幹を直接揺さぶられるような痺れが走る。

「ほら、天花に負けてるぞ。もっと吸い付け」

「んーッ! んーッ!! ぉ、ォッ……!!!」

 統也の言葉に煽られ、かなえは無意識に喉の筋肉を収縮させた。
 痛みを快楽として飲み込み、異物を体の一部として受け入れる。
 先端から溢れる苦くも甘い蜜を、必死に嚥下しようと喉を鳴らす。

 かなえの身体が、弓なりに跳ねた。

「——ッッ!?!?」

 股間を触ってもいないのに。クリトリスを刺激してもいないのに。
 先走りの味と、喉を犯されたという異常な刺激だけで脳からの信号が混線し、かなえの子宮が激しく収縮した。
 脳髄が白く弾け、脊髄を駆け抜けた電流が、下腹部を直撃する。

 下着などつけていない股間から、大量の愛液が噴き出した。 太腿の内側を、熱い液体が伝い落ちていく。

 喉イキ。 人間の防衛本能が完全に破壊され、苦痛すらも性的な悦びに書き換えられた証明だった。

「あ、ガッ、あ゛ぁぁぁ……ッ!!」

 白目を剥いて痙攣するかなえの口から、力が抜ける。 ズルリ……と、涎と粘液にまみれた右の剛直が抜け落ちた。

「ケホッ、カハッ……! あ、ぅ……ぅぅ……」

 かなえは床に崩れ落ち、激しく咳き込んだ。 口の端からは泡立った唾液と先走り汁が糸を引き、涙で化粧はぐちゃぐちゃになっている。

 誰が見ても、無様な敗北者の姿だった。

「あら、たかが口でイっちゃうなんて。 随分と安上がりな女ね、かなえさん」

 天花の声が、頭上から降り注ぐ。 左棹では、天花がまだ涼しい顔で奉仕を続けていた。喉奥まで咥え込みながらも、鼻で呼吸し、上目遣いで統也を見つめる余裕がある。

 人間と妖魔。 恋人としての歳月。 その『器』の差は歴然だった。

「天花は流石だなぁ」

 統也が天花の頭を撫でて労った。 その手つきは愛おしげで、かなえに向けられる視線とは明らかに違う温度を持っていた。

 床で震えているかなえを、統也が見下ろす。

 惨めで、汚らしくて、酷い顔を。
 だが、その瞳だけは——恍惚とした熱を帯びて、統也を崇めるように見上げていた。

(負けた……悔しい……っ。でも、気持ちよかった……統也くんの味、いっぱいした……)

 負けた悔しさと、満たされた充足感が、かなえの中で奇妙に混じり合う。

「……でも、その無様な顔も悪くないな」

 統也はかなえの顎を掬い上げ、親指で涎を拭った。 その仕草に、かなえの心臓が跳ねる。
 見捨てられなかった。 まだ、統也くんの視界の中にいられる。

 かなえの胸に、希望が灯るが——

「それじゃ、天花——この後たっぷりと『続き』を楽しもうか」

「嬉しい……。愛してるわ、統也」

 天花が勝ち誇った顔で、統也の首に腕を回す。
 かなえは、それを絶望的な羨望の眼差しで見つめるしかなかった。

「かなえは負けだ」

 統也は冷酷に言い放つ。 かなえには、その言葉が死刑宣告に等しく感じられた。



「——俺たちが愛し合う様を、そこで指を咥えて見ていろ」
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