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プロローグ

2. 目覚め②

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 彼女が居なくなって急にお腹が減ってきて朝食をとる事にした。キッチンテー
ブルにはトースト派の朝御飯が置いてあった。パンにはマーガリンと苺ジャムが
塗られており、斜めに切れ目が入れてあり、簡単に切り離せる様になっていた。
いわゆる喫茶店スタイルだ。バターがたっぷりと入った濃い目の味付けのスクラ
ンブルエッグと新鮮なプチトマトとサニーレタス入りのサラダにイタリアン・ド
レッシングが多めにかけてあり、テーブルの右隅に逆さまに置かれたケチャップ
が在る事が分かる。半分以下の中身を簡単に取り出す古典的な手法ではあるが腹
が減ってる隆にとっては、とても有難かった。スクランブルエッグの上からケチ
ャップを適量に掛けてフォークですくいながら口に運んだかと思うとパンとサラ
ダを交互に口一杯に頬張ってあっという間に完食すると窓の右隣にあるカレンダ
ーを見ながら自分の半生を振り返って見る。カレンダーには1997年8月15
日と書かれている。 

 隆が物心付く頃には、両親は蒸発して孤児院で育ち、中学校を卒業すると夜の
街で住み込みの店を探し、五件目で年齢を誤魔化してボーイとして雇ってくれる
店に出合った。後で聞いた話では夜の街一番の実力者がいる店で四件断られても
目が死んでいない諦めの悪い変わった少年がいるって話を聞いたらしく、五件目
は、ここに来る事が決まっていたらしい。お店の名前は『グッドラック』だ。
 主な仕事は、営業前と終了時の掃除と在籍している女性の愚痴を聞くのが日課
となっていた。童顔の為、三年間は裏方の仕事だけを任されていた。接客をすれ
ば、お客さんで気付く人が現れるかもしれないし、それを外に公表されれば未成
年を雇っていると噂が広がり、仕事どころの話ではなくなる事も考慮して店長が
仕事を配慮して決めていたとの事を同僚から聞かされた。今思うと大切に扱われ
ていたんだと、はっきりと理解出来た。

 頭の中の回想シーンが終わって隣の部屋へ移動すると見知らぬ二人が腰を掛け
ていた。三人は、お互いを見詰め合っている。
「ようっ隆。若いって素晴らしいな」
 両足を前に組んで座っている白髪混じりの男が沈黙を破るように口を開いた。
「失礼ですが、貴方は一体何者ですか?」
 隆は、先月に三十六歳になったばかりだが目の前にいる人物に心当たりは無い。
「俺が分からないか?」
 しばらく沈黙が流れてから再び男が答えた。
「分かった。それならば自己紹介するとしよう。今から、二十四年後の未来から
来た正真正銘のお前だよ!」
 その男の話によると伝えたい事があって未来からワープしてきたとの事だった。
直ぐには信じられない話だった。証拠となり得るタイムマシーンが在るわけでも
ないからだ。隆は混乱するのを避ける為、隣の人物に目を移してみる。そこには
幼い少年が正座のままで、こちらを眺めていた。顔を覗き込むと何処かで見た記
憶がある。隆が名前を質問しても返事は何も返ってこない。
「お前さんが何度聞いても、その子は何も答えないよっ」
 還暦の男は少年について手短に説明する。少年は今から十九年前の過去から来
た隆本人だと言う。手掛かりを得る為に近づいて観察すると上着には小学一年生
○○隆と名札が付いていた。
 隆は、悪い夢でも見ているのでは無いかと左手の甲の皮をつねってみたが痛い
だけで状況は何も変わらなかった。かなり気分が悪くなり、仕事をする気になれ
なかったので会社に欠勤の電話を掛けて休む事にした。
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