黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

5. 後藤の昼休憩

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 後藤は資料室で三日間を過ごして迎えた日も日捲りカレンダーを捲って今日の
日付にすると腕時計のカレンダー機能と照合し笑みを浮かべる。几帳面な性格な
為、放置する事ができないのだ。2000年9月16日(土)午前十一時。今日
が非番だと分かると東氏の病院へ電話を掛けて会う約束を取り付け、午後三時に
訪問する事にした。つまり最初に東氏と顔を会わせた日は9月13日となる。

 腹が減ったので最近、開店したラーメン店へ足を運ぶ。大型台風の影響で人通
りが少なく、店内も数人しかいない。手前のカウンターに場違いと思われる英国
紳士を思わせる格好をした老人がシルクハットを目深に被り、ステッキをテーブ
ルに引っ掛けて熱々のラーメンをすすっていたが店の張り紙に英国紳士姿での入
場の禁止が貼られている訳ではなかったので文句を言う筋合いもなかった。奥の
テーブル席に座り、お薦めと書かれた物を注文すると品物が来るまでの間、警察
手帳に書いた内容に目を通して復習を始める。二度目の訪問では隆本人の面会と
治療方法に使用している箱庭を見せて貰うのが目的だ。

 先程の電話で耳にはさみ、興味が出たのだ。五分後、後藤の前に、お店のお薦
めである特製ラーメンが運ばれて来ると即座に見た目のチェックを入れる。焦が
しネギと黄ニラが入っており、店長独自の拘りが見てとれる。見た目のチェック
が済み、来店時に出された水を飲んで口の中をすっきりとさせるとレンゲを手に
取り、スープを一口だけ含む。すぐには飲み込まずに舌で味わいながら味を確認
する。和風醤油味だ。次に割り箸で麺を持ち上げると音を立てながら一気に口の
中へと吸い込んでいく。もっちりとした食感のちぢれ麺である。スープがよく絡
んでおり箸が止まらない。具の方はゴマ油で炒めた焦がしネギから香ばしい匂い
が漂い、食欲を引き立てている。その付近のスープはコクが出て違う味が楽しめ
るようになっている。黄ニラは、こってりと感じた時に食べる箸休め的な存在だ
と書かれてあった。黄ニラの隣には小口切りにした唐辛子が絡まっている焼豚が
添えられており、ピリ辛なのに僅かに甘い味付けになっていた。食感は今時には
珍しい歯応えがある仕上がりだった。極め付けは、全てのラーメンに付いてくる
小皿だ。中身は煮汁が浸み込んだ椎茸である。そのまま食べてもスープに入れて
も美味な憎い奴だった。

 容器を空にすると席を立っておもむろにカウンターに歩み寄り、店長と陽気に
会話を楽しむ後藤。スープの味が気になって質問してたのだ。魚介の粉末のブレ
ンド(自家製比率)と大量の鰹節削りを長時間煮込んでいるらしい。あっさりと
しているのに後から旨味が出てくる辺りはプロの仕事と言わざるを得ない。後藤
は美味しくなければスープを飲み干す事をしない。それを十年以上続けてラーメ
ンと向き合っている。心の底から美味いと思わせたラーメンは片手の指を越える
ことは無かった。店長に美味しかった事を報告してから記憶の片隅にあった英国
紳士姿の老人を探したが、その場所には居なかった。居たら声を掛けていた訳で
は無かったので気になるスイッチをOFFにして店を出ると外観を眺めて看板の
文字を瞼に焼き付ける。ラーメン『来々軒』西新宿店と書かれていた。

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