黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

7. 東の特別な部屋

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 後藤は再び、間が持たなくなったので東を呼びに移動を始め、各部屋を覗いて
いく。少しすると奥の方からクラシック音楽が聞こえてくる。

 扉が少しだけ開いていたので音が洩れていたのだ。中を覗くと東が音楽を聴い
ていた事が分かる。クラシックが苦手な後藤にも何の曲なのか直ぐに理解できた。
ベートーヴェンの交響曲、第九番、第四楽章。『歓喜の歌』で知られる曲だ。机
にはビニール紐で縛ってある外国人女性の裸が載っている表紙の本が置かれてお
り、B5サイズのノートを眺めている所だった。壁掛けタイプのクローゼットに
は何故かロリータファッションと呼ばれる服がひしめいていた。
(娘さんの趣味だろうか?)
 扉を開けて中に入ると訪問者に気付いた東が机に置いてあったH本とノートを
慌てて引き出しに片付ける。
「これは、参りましたな。恥ずかしい所を見られてしまった。十年前に妻に先立
たれてから今日まで気に入る相手が見付からないもので……」
 歯切れの悪い口調で必至に弁解する東。
「東先生、健康な男性なら仕方ないですよ。誰にも口外しませんから」
「そうおっしゃって頂けると、こちらも気が楽になります」
 後藤は気不味い空気を打開する為に本当の目的を口に出し始める。
「実は先日拝見した夢を映像化している録画テープを全数、お借りできないかと
思いまして……」
「成程、そこに着目されましたか」
 東は、しばらく考えてから捜査の解決に役立つのならと五本の8mmビデオテ
ープを一番下の引き出しから取り出して手渡す。
「無理言って済みません」
「何、黒沢警部の方からも是非、協力して欲しいと頼まれましたから。部下想い
の人ですね」
「僕もそう思います!」

 後藤が足早に部屋を出て行くと扉に鍵を掛けてから先程のノートを取り出して
眺め始める東。机の正面に置かれた三面鏡にノートに書いてある内容が写り込む。
『クランケ№3。後藤伸幸(のぶゆき)、A型、水瓶座、身長185センチの体
重90㎏。水泳で鍛えた逆三角形の筋肉が自慢。髪型はマッシュルームカット』。
 東は、水瓶座の欄を見ながら20代に付き合った年上の派手目な女性から罵詈
雑言を浴びせられ続けて女性不振に陥ってしまった事をふいに思い出した。彼女
も確か水瓶座だった気がする。彼女は頭の禿げた男が好みであったため、毎日は
お風呂に入らないでとか脂っこい物を毎日食べさせられたり、シャンプーする時
は頭皮をゴシゴシする事を約束させられたりした。極め付けは「あなたはどうし
て禿げないの?」と毎朝、顔を合わせる度に毒づかれたので派手目の化粧やネイ
ルをしている女性に対して嫌悪感を抱くようになっていた。彼女が東に強要した
事は苦痛以外の何物でもなかったのだ。
 悪夢のような出来事を振り払って後藤の顔写真を貼り付けると「とってもキュ
ートだわ」と呟いて満面の笑みを浮かべるとノートを引き出しに片付けて鍵を掛
けた。施錠されているのを数回確認したのち、スピーカーの音量を下げて電源を
切った。
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