黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

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捜査開始

23. 八日目、東病院へ三回目の訪問 

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 携帯電話で東氏と午後三時に会う約束を取り付けて電車で移動する。午後三時
丁度に病院へ着くと中に入って受付を済ませる為に受付用紙を捲る。9月13日
以降に黒沢の名前は記入されていない。きっと他の事件で忙しいのであろう。

 隆の部屋に入ると東氏がコーヒーカップを右手に持って箱庭を眺めている所だ
った。
「急に、お邪魔して済みません」
 後藤の張りのある声で東が振り向く。
「何、捜査に協力するのは当たり前です」
「そう言って頂けると助かります」
「ところで、何か証拠は出て来ましたか?」
 東は用意してあったコーヒーを後藤に手渡しながら話しかける。
「それが、お恥ずかしい話。今の所、有力な証拠も証言も得られてないんです。
コーヒーは黒沢警部も飲まれますか?」
「彼は、ミルクを入れないと美味しくならないらしくてブラックは苦手らしい。
私はブラックで香りと苦みを存分に味わいたい派ですよ」
「そうなんですね。コーヒーの好みって皆さん違いますよね」
 言い終わると手渡されたカップのコーヒーを一口含んでテーブルの上に置いた
後藤。
「未解決の事件を紐解くのは至難でしょう」
「それが私達の仕事ですから。私は苦にならないです」
「仕事が好きなんですね!」
「はい。生まれ変わっても同じ職に就きたいと思っています」
「情熱を持っている後藤さんが羨ましいです」
「先生は持っていないのですか!?」
「とっくの昔に消えてなくなりました」
「ですが、今も患者さんの面倒みているではありませんか?」
 未だ言いたそうな顔をしている後藤を右手で制して東が話を続ける。
「おっしゃりたい気持ちは分かりますが医者は神様ではありません。実際には、
救う事のできる患者と救えない患者がいるのです。普通の精神力では、長く勤務
する事はできません」
「……」
 後藤は、掛ける言葉が見つからなかった。
「暗い話で本当に申し訳ありません。後藤さんには、現実を知って欲しかったん
です」
 東は言い終えると茶菓子を持って来ると後藤に告げて席を外した。

 視界から消えると後藤は先程まで東が立っていた位置に移動して箱庭を眺める。
ある部分には茶色い染みの壁が存在した。その場所の匂いを嗅いでみるとコーヒ
ーの原料に使用されるカカオ豆の匂いだと分かる。ミルクの味は、全くしない。
よって、そこからブラックコーヒーを零した痕だと確定したので午後三時の地震
の謎は高い確率で東氏が関係しているのは明らかだった。

 後藤は、入り口を確認してから録画テープで気になった三つ目(絨毯の一部の
盛り上がり)の確認に入る。場所が分かると立ち位置を移動をして素早く絨毯の
端を捲り、下にある物を取り出して目視する。ロール状の紙である事が分かると
廊下から足音が響いて来た。
「ペタペタ……」
 不振な行動は今後、出入り禁止になる可能性が考えられるので、その場で中を
見る事を諦めて上着の外側ポケットに隠して絨毯を元に戻した。
 東氏はスリッパに履き替えており、車椅子を押して隆と一緒に入って来た。隆
の膝の上には御盆が置かれていて皿には三種類のクッキーが並べてあった。

 東は、チョコチップ入りのクッキーを薦めると遠慮なく頂いてコーヒーを飲み
干していく。
「東先生。一つだけ、聞きたい事があるのですが。宜しいですか?」
「何でしょう?」
「箱庭を持ち上げる事は禁止でしょうか?」
 東は質問が面白かったのか腹を抱えて笑っている。
「何か変な事を言いましたか?」
 東は笑いが収まった所で口を開いた。
「失礼。その質問は聞くまでもありません。御自由に持ち上げて貰って結構です。
私自身、持ち上げる事がありますから」
 後藤は、この一言でウラが取れたので笑みが浮かびそうになるのを必至に堪え
ていた。
「先生。今日は、この辺で失礼します」
「また何か聞きたかったら訪ねて下さい」
 後藤は部屋を出る時に隆とすれ違った。以前は気にも止めなかった特徴に気付
いた。前髪が眉毛まであり、自分の髪型に似ている。そのことを頭の片隅にしっ
かりと記憶して病院を後にした。
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