黒庭 ~閉ざされた真実~

五十嵐 昌人

文字の大きさ
46 / 136
捜査開始

46. 十日目(謹慎二日)、裏切られた男への対応②

しおりを挟む
 聡の方を一瞬、見るも無言で見守ってくれていた。
(俺に兄貴が居たら、無茶な事件には手を出させなかったかもしれない)
 口元が緩むとテーブルに置かれた油性マジックを掴んで大きな丸で囲った。
「二つ、書くまでもなかったか」
 聡は丸で囲まれたメニューを頭の中に記憶して台所へと戻るとケチャップと
たまごを冷蔵庫から取り出して作業台の上に置き、蛇口を捻って水を流しなが
ら両手に消毒液をかけて擦り合わせていた。慣れた手付きである事が遠目にも
分かった。弟さんの事件の解明が済むまでは、誰とも結婚しないのであろう。
そんな後ろ姿を見ていると流れていた涙が嘘のように止まっていた。

 十分が経つと年季の入った昔ながらの見事なオムライスが運ばれて来る。玉
子焼きの上にはケチャップで『負けるな!』と書かれていた。

 後藤は礼を言う前にスプーンで目の前にある山を崩して口の中に詰め込んだ。
呑み込むよりも掻き込むスピードが速いので徐々に頬が膨らんでフグみたいな
顔になる。
「いくらなんでも慌てて食べすぎだろっ」
「……」
 口の中が一杯なので左手を挙げて大丈夫な事をアピールする後藤。
「鶏肉を切らしてたから替わりにコーンと玉葱を大きめに切ってから入れて、
食感にアクセントを持たせておいたけど気付いたかな?」
 頭を下げて頷く。
「無い時は、有り合わせで何とかするのが本当の意味で料理上手だと思うんだ。
食材が揃っていれば誰にだって一定の美味しさは保てるんだし」
「玉葱だって微塵切り過ぎても美味しくないから、ちょっとした工夫で美味し
くなるもんなんだ。要は、そこに気付くか気付かないかだよ」
 そうこうしてる内にあっと言う間に完食してダブルピースのサインをして笑
みを浮かべる後藤。
「若い世代には世の中、未だ捨てたもんじゃないって思って生きて欲しいんだ
よね。僕的には」
 聡のさりげない優しさが心の闇に呑み込まれそうな状況を食い止めていた。
(聡さんの家で良かった)

 手を両膝に置いて真面目な表情に戻ると聡の目を真っ直ぐに見て口を開いた。
「そう言って貰えると嬉しいです」
「落ち着いて話せるようになって安心したよ。料理は昔から得意だしね」
「後は……」
「何!?」
 真っ直ぐな瞳で見詰められているので言葉に出す事が躊躇われた。
「何でもありません」
「途中で終わると気になるよ」
「本当に何でもないんです」 
 後藤は軽率な言葉を口に出してしまった事に反省をして頭を下げた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怪異の忘れ物

木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。 さて、Webコンテンツより出版申請いただいた 「怪異の忘れ物」につきまして、 審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。 ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。 さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、 出版化は難しいという結論に至りました。 私どもはこのような結論となりましたが、 当然、出版社により見解は異なります。 是非、他の出版社などに挑戦され、 「怪異の忘れ物」の出版化を 実現されることをお祈りしております。 以上ご連絡申し上げます。 アルファポリス編集部 というお返事をいただいたので、本作品は、一気に全削除はしませんが、ある程度別の投稿サイトに移行しました。 www.youtube.com/@sinzikimata 私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。 いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...