愛の在り処を求めて

天照てんてる

文字の大きさ
1 / 39

第1話 新しい名前

しおりを挟む
 私は……名前なんて、ない。親に付けられた名前はあるけど、それは名乗りたくない。だって、だから。

 あんな親。感謝なんかしてない。産んでくれなんて頼んだ覚えはない。生まれなければよかったとしか思えない。

 最近の私の趣味は、ツイキャス。盲目の私は、声フェチというで、あちこちの枠に行く。

 ***

 ど・こ・に・し・よ・う・か・な。
 私は、適当にスマートフォンの画面をスワイプし、適当な枠を開く。
 と――聞こえてきたのは、私の好み、どころではない。この声を聴くためだけに今までの人生を過ごしてきたと言っても過言ではない声だった。

 喋り方が優しい。この人となら話せるかもしれない。そう思い、私は思い切って「初見です」とコメントを打った。

「初見さん、珍しいな。どうもありがとう。どこから来ましたか?」

――言えない。適当にスクロールしただなんて。

「わかりません、迷い込みました。お邪魔でしょうか?」
「邪魔なわけないでしょう?
 よかったらサポートして、ゆっくりしていってくださいね~。
 で、名無しって書いてあるけど。
 名無しさんじゃ呼びづらいし、なんて呼べばいいですか?」

 私の打ち慣れない、しかも不可解なコメントに丁寧に返事をしてくれる。――どうして?
 早速私はサポートのボタンを探し、ためらうことなく押した。

「サポートしました。
 名前……呼び方、決めてもらえますか?」
「えっ。困ったな、そういう枠じゃないんだけど。
 でも、リスナーさんの要望にはできるだけ答えたいからね。
 女の子かな?」
「はい、20歳の女です」
「うーん、そうだなあ。
 その花のアイコンがすごく可愛いから、花ちゃんでどうかな?」
「花ですね、ありがとうございます。名前、変えてきた方がいいですか?」
「次からでもいいし、次も変えなくてもいいし。花ちゃんの思うようにすればいいよ」

 そのまま、いろいろなひとのコメントの読み上げが溢れる、とてもうるさい、とても優しいセカイでしばらく過ごした。
 延長のコインを投げるひともたくさんいて、私も初めてコインを投げて、たくさんたくさん延長してもらった。

 もうすぐ配信開始から4時間が経とうとしている。ツイキャスでは、4時間で延長のコインが余っていても配信は切れてしまう。俗に、完走と言われている。

「初見の花ちゃんも来てくれての久しぶりの完走、楽しかったです!
 じゃあみなさま、身体にはお気を付けて!
 おやすみなさいませ!」

 彼がそう言って枠は終わった。

 ***

『花ちゃん』――私の、新しい、名前。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...