仙人の島

多知火島《たちいじま》

世界のどこからもいちばん遠いところに、多知火島たちいじまという島があります。

多知火島は、広い広い海にかこまれた絶海の孤島で、そこからは遠眼鏡を使っても他に陸地が見えません。

多知火島には、三つの逆さ山さかさやまがあり、それぞれの山の真ん中に洞窟があって、それぞれに仙人が住んでいます。

逆さ山というのは、ふつうの山は下が広くて、上が狭いところ、それが逆になっている山で、下が狭くて、上に行くほど広くなっていく山です。

はじめ、多知火島は、何もない、ただの岩のかたまりでした。

あるとき、多知火島に、とても大きな鳥が空から落ちてきました。

鳥は死んでしまいましたが、嘴くちばしに、キヌウの種と、ギョウの苗、それから、アスの実をくわえていました。

キヌウの種は鳥の頭に、ギョウの苗は鳥の肚はらに、アスの実は鳥の羽にそれぞれ根付きました。

それから幾千幾万いくせんいくまんの時を経て、キヌウ、ギョウ、アスはとても大きな木に育ちました。

キヌウの木には、「すべてを知っている」実がなりました。

ギョウの木には、「すべてを成す」花が咲きました。

アスの木には、「すべてを受継ぐうけつぐ」葉がしげりました。

三つの大木は、さらに大きくなり、その枝先が天てんに辿り着かんばかりとなったその時でした。

雲一つない晴天の空に、がらがらと神鳴りかみなりが響いたかと思うと、ぴかりと光一閃ひかりいっせん。

三つの大木に三つの雷が落ちました。

雷いかずちの力は凄まじく、三つの大木は一瞬にして炎に包まれ、それから、七夜しちやと半の間あいだ燃え続けました。

八夜目はちやめにようやく炎が消えましたが、そのときには、三つの大木は石に変わっていました。

三つの大木の花、実、葉、枝、幹、根、すべてが黒々と光る石となっていたのです。

こうして石になった大木が、さらに幾千幾万の時を雨風にさらされて、逆さ山となったのです。

逆さ山の仙人が住んでいる洞窟も、もともとは、三つの大木の洞でした。

三人の仙人は、逆さ山がまだ三つの大木だったころに多知火島に渡ってきたのです。