勇者と魔王は、女子高で青春を謳歌します ~ちなみに勇者は男です~

たまかけ

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第一章 再開した2人、炎上した勇者宅

4勇者は、服屋で店員と口論し、女性客にネコミミをもらいます。

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 無一文では流石に何も買えない。盗品を恋人に着せるのは論外。これは常識的なことだろう。
 ユウは、まず、質屋で身についていた護符や小刀などを売ったのだが、得られた金は微々たるものだった。勇者なのに、と思われるかも知れないが、仕方のないことであった。

 ユウは勇者であったが、自身の圧倒的なステータスを活かすため、重い鎧や剣さえを装備していなかった。それは、ユウの持つコアスキル『術式創造』を用いた戦い方に必要がないということを示す。
 魔法とは魔力の流れ、強さ、濃度などを調整し、その魔力がある波形を生み出して現実に干渉するというもの。波形が現実に干渉する仕組みは、ステータスと同じくブラックボックスで一部の研究者が解明目指して頑張っている状況が続いている。いづれ解明される時が来るだろう。
 波形を生み出すための魔力の道筋を術式という。術式は魔鉱石などを使って保存をすることができるが、魔力を流さなければすぐに、術式という道筋は閉じられ消失するのだった。魔鉱石が開発されるまでに、魔法陣というものがノンスキルマジックの研究者に流行ったそうだ。自身の血液に魔力を込め、術式を描くというもの。現在の魔鉱石ほど複雑な術式を書くことはできず、結局用途不明とされ、発明者や研究者は痛いもの扱いを受けたのだが、魔鉱石の技術には彼らの研究成果が大きく役立っている。技術というものは、どのように発展を遂げるか、時が来るまでわからないのだ。

 ここまでの話で勘違いをされることが多いのが、術式についてだ。現在、術式は『術式化』などのスキルを持った人間が、自身の習得済みの魔法の術式を作成できる。習得済みの魔法以外は術式化できないし、そもそも『術式化』スキルを持っていない人には魔術を術式化できないーーとされている。詳しくは別の機会にと思うが、俺のように魔力の波形から逆算して、好きな魔法の術式を書くことができる人間もいる。俺は俺以外に知らないが、世の中広いから誰かしらいるだろうとも思っている。
 ここでやっと俺の『術式創造』の話に入れると思うが、まぁ何というか、あれだ。術式を自由に作って、水晶という魔力結晶ーー魔鉱石に術式を書き込んだものの総称ーーに似たものに結晶化して発動できるって話。つまり、まぁ、いろいろできるのだ。
 なんでこんな話をだらだらと思っているのは、さっき通りかかった酒場でおっさんらが『鑑定石』盗まれた、とかいう話をしていて気になった訳だ。鑑定石は高いので、気の毒だな。あと、酒場の前は通りかかっただけだからな。金も何もないので。それに昼間から飲んでいるほど、アル中でも暇人でもない。いや、現在無職だから暇人の集合に俺も含まれるのかもしれないけれど。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 金ない。服の知識ない。新品に安いのない。
 ないないないと、新品で値段も手ごろなものを探して探し探して、たどり着いたのがこの女性服専門店。そこで、女どもの細められた目線に刺されながら物色。
 いや、まぁ、勇者時代は他人とあまりというかほぼ一人を除いて、接する機会を避けていたので世間体を気にする神経が壊死してそうだな。狭い店内の道にちらほらいる女どもをかき分け、探す探す、安っすい女物の服を。視線にダメージ判定があったらぽっくりと死んでいたかもしれないが、よかった良かったと店内の物色を続ける。
 店先からは見えない位置に置いてあったワゴンセールの安っすい薄紫のスカートと、これまた安っすい黄色のシャツを買うことにした。
 流石に自分でもあまりオシャレなものではないと思ったんだが、金がないんだから仕方ない。ないんもんはない。
 俺にあるのはマオへの信頼。金がないことをわかってくれるだろう。情けないとも思うが、俺にはもっと情けない秘密というか部分というか、まぁあるので。はい。

 会計に向かうと、ちょうど前の客が料金を支払っているようだった。近づいて後ろに並ぶと、すぐに俺の番になった。

「これで」

 俺は茶髪女店員の前にぱさっと服を置いた。丁寧にかつスマートに。
 目の前の店員は一瞬、びっくりしたように目を開き、固まった身体で首だけを動かし、俺の顔というか全身に視線を動かした。常識的な対応として、不躾な態度を咎める。店員はすらりと佇まいを戻し、贈り物ですかと話しを逸らした。
 失礼な態度の店員は服のタグの色から服の料金を計算し始めた。俺は、無視するのも何なので、彼女に送るんだが、すぐ着てもらうんで飾りは不要とだけ伝えた。何も考えずに事実を言ったつもりだったが、店員の肩と腕がピクリと反応して、顔を上げる。目が合う。
 不味いことを言ったか、と思ったが思い当たる節がない。どちらかというといい足りないんだ、マオの魅力について一切触れていないのだから。別段、無差別に言いふらしたいが、こんな失礼な奴にマオの素顔を想像させることさえおこがましい。
 身の程をわきまえるべき目の前の店員は身体を小さくして、俺の顔を見つめる。

「……お客様、これでよろしいのですか?」
「あぁ、さっさと済ませてくれ」
「……ほんとうに? これでよろしくて?」
「そうだっ」
「……ほんとのほんとに?」
「(チッ、しゃらくせぇ。何なんだこの店員おんなは。)」

 舌打ち交じりに文句を呟くように吐く。仕方ない。店員の自業自得だ。
 店員は俺の舌打ちが気に障ったようで、語調が強くなっていく。

「聞こえてますよっ!」
「聞こえるように言ったんだ。こちとら金がねぇんだ、何か文句あんのか」
「あるもありで大ありですよ! 何なんですそのチョイスは! ムラサキ芋ですか、そうですか!」
「服を芋っていうな。あとそんなことは、この服を発注した奴に言えばいいだろうが。俺でもこの服はダセェとわかる」
「だったらなんでこんな服を……はっ、プレイですか。羞恥ぜめっすっか」
「…………」
「何でいきなり黙るんですか。ねぇ」
「…………」
「ちょっ、あぁ、もう。ちょっと、待っとれ!」

 女店員は俺を睨み付けながら、店の奥に引っ込んだ。心にダメージを負った俺は、店員の姿が見えなくなると周囲に目を向けた。
 女女女。彼女たちは俺を取り囲むように、少し離れた位置でこっちを見ていた。レジに行きたいのかもなと思いながら、目をやると、顔をあちらこちらに向け、目を逸らされる。どうやら、俺が帰るまで傍観を決め込むつもりらしい。
 首を動かしていると、ある女が目に入った。正確に言うとその女の髪飾りに目を止めた。

 「ん?」

 その女は一言でいうと浮いていた。色々と。
 まず、服が入れられた買い物カゴを両手で持つ女たちの中に、一人だけパンがはみ出ている紙袋を抱えている点だ。昼食かどうかそんなことは興味ないが、ここは服屋だ。この女は明らかに服を買いに来た様子でもない。じゃ何でだ、何かあったのかと思ったら、思い当たった。俺じゃないか。大声だして、店先にも届いていたのかもしれない。
 次に、周りの女たちがイヤな顔をしているのに、一人だけどこか蕩けたような上気した表情をしている点だ。さっぱり分からん。一応考えたんだが、分からんもんは分からん。
 最後に、髪飾りだ。初めて見たそれは、カチューシャの形状をしているが、2か所三角のモフモフが生えていた。もちろん生物ではなく、単なる毛の一種のはずだが。俺がそれに目を止めたのは、単に珍しいなと感じただけでなく、これを使えばマオの角を隠すことができるのではないかと思ったからだ。
 人族には魔族をよく思っていない連中が多い。だから、ここで服を買った後に、適当に帽子でも買っておこうと思っていたのだが、そのモフモフでも隠せそうじゃないか。いや、そっちのほうが可愛い。だって、帽子被ったらマオの奇麗な柔らかい金髪が見えなくなるからな。どうせ高いんだろうと思いつつも、もしかしたら試供品とかで安いかもしれないと希望を胸に抱く。
 女店員が戻ってくるまで時間があるだろうと、頭飾りの女に声を掛けようとしたら何と向こうが先に口を開いた。

「なっ、なんだ。私になにをする気なんだ」
「いや、お前がつけているもんが気になったんだが」
「ほぉほぉぉ。でっ、どうだ」

 目の前の女は髪飾りをこっちに向け、期待するような声で言った。質問の意図はいまいち掴めなかったが、取り合えず褒めておけばいいのかと思い、煽ててみる事にした。

「ん。まぁ、似合っているんじゃぁないか」
「はぁ!? 似合っているだと……」

 様子がおかしい。褒めたら喜ぶもんだと思ったんだが違ったか。
 彼女は付けていた耳の様な飾りを毟り取った。残った彼女の特徴は、黒髪短髪で胸部のふくらみが一切視認できないことだな。ぺったんぺったん。

「……てめぇの目は、くさっ」
「なぁ、それ何ていうんだ。耳みてぇな形してるが」
「おぉ、いぃぞ。これは『ネコミミ』ってぃう……」

 何やら悪口を言われそうになったから、言葉を遮って質問を重ねた。すると、褒められる。
 コイツは似合っていると褒めたらキレて、言葉を遮ったら調子良くするってどんな神経してんだ。

 ……人族は昔から結構変わっちまったのだろうか。

 この『ネコミミ』は、最近流行りだした『にっぽーず』制作のアイテムで、珍しく流行っていない商品らしい。それもそうだ、その商品を着けて王都にでも行ったら、人通りの少ない道で確実に刺される一品だしな。なんたって魔族の特徴をまねているようなものだから。目の前の女が健在なのは、ここが王都でないということと、あくまでお遊びであるという認識からだろう。こんな街中に魔族がいきなり現れるなんて、街の住人は誰一人として想像していないだろう。
 残った、にっぽーずって何だ、流行ってねぇのに使うのかよとか色々言いたい疑問が生まれたとき、あの店員が呼んできている。話を切り上げねばいけない。
 『ネコミミ』とやらの情報を聞こうと思っていたが、急がないとと思ったせいか、口から出たのは別のことだった。

「んで、それ貰うことはできないか」
「んっくれてやるぞ。思った程イイもんじゃ無かった」

 偶々、くれと言ったら、本当に貰えた。こいつは案外いいやつなのかもしれない。

「ありがとうな」
「ん?」
「? あぁ、ありがとう」
「……それだけ?」

 土下座でもして感謝を示せとでも言っているのか、この女は。流石に、そこまでは応じないぞ。
 俺のコミュ能力が低いのが原因か、と割り切ったほうが良いのか。先刻さっきから話が通じない奴らばかりだ。

「いいから行くからな。『ネコミミ』だっけか、ありがとうな」
「はぁぁぁぁ。……意気地なし。……(変態紳士な追いはぎじゃないのかぁぁぁ」

 何が意気地なしなのかと思いながら、女店員の前に戻る。
 周囲の目が減っていると思ったら、2台目のレジで別の店員が客を捌いていた。俺は女店員が待つ1台目の方に行く。

「あれがお相手? ケンカしていたようだけど」
「違う。あんな女と一緒にするな。ただ、これを貰いに行っただけだ」
「はぁ。もぉそれ『ネコミミ』ってやつでしょ。どこがいいのか」
「ちょっと必要になっただけだ、気にすんな」
「分かったわ。ところで、服なんだけど」

 女店員が持ち上げた服は真っ白く上から下が繋がっている、いわゆるワンピースだった。
 布は少し薄手な印象だったが、見た目はいい。こんなのが安かったら買っているに決まっているので、店内に置いていなかったものだ。

「これ、高くないのか。金はこれだけだぞ」
「ここにある分でいいわ。去年売れ残って倉庫の奥に閉まっていたものだから」
「思ったよりいいやつだな、お前」 
「はぁ。あんたも金が無いならないで交渉するとか、もうちょっと稼いでからとかなんとかしなさいよ」
「あぁ、わかった。ありがとう」

 素直に礼を言う。マオの角を隠すものを丁度手に入れていたので、持っている金のほぼすべてを渡した。

「……ありがたいと思ったら、ちゃんと後でお返しに来なさいよ」

 店員は吐き捨てるようにいいながら、紙袋に畳んだ服を入れている。ついでに『ネコミミ』も紙袋に詰めてもらい、今度こそ俺は店を出た。
 早くマオの喜んだ顔が見たいと、紙袋を手に急ぎ足で街を離れた。


 だが、森へ戻ると
 --事態は予想もしていなかった、最悪だった。

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