双子の番は希う

西沢きさと

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証明の約束

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 自分たちにとって一番の危惧。それが妊娠だった。

 他の問題は誤魔化すことができても、妊娠・出産・子育てを世間に隠せるわけがない。妊娠中の母体及び生まれた子供を、一生涯家の中で監禁でもしない限りは。
 行為中、翼が最後の最後に理性を保てたのも、妊娠が自分たちにとっては不幸しかもたらさないものだからだ。翠を最も苦しめることを、自分の衝動的な欲を優先して行うことはできなかった。
 αとΩ──しかも運命の番というオプションまでついている自分たちにとっては、一生拭いきれない不安の種。
 現に、しっかりとこちらを見据える翠の瞳が、微かに揺れている。
 だからこそ、翼は腹に力を入れて言葉を紡いだ。

「あぁ、そうだ。子供ができたら、どうしようもない。だから、翠は必ず避妊薬を飲んでくれ。もちろん、俺もα用の避妊薬を飲む」
「薬は絶対じゃない。ヒート時に中に出せば、着床する可能性の方が高い。運命の番なら余計に」
「ゴムも着ける」
「あれも100%安全ってわけじゃないだろ?」
「世の中の全てのことに100%はねぇよ。でも、今できる可能な限りの避妊をすれば、確率は相当低くなるだろ?」

 こんな一般的な説明など、翠だって理解していることだろう。彼が恐れているのは、多分、物理的なことではなくて。

「おれ、お前にねだっただろ。……中に出せって」

 沈痛な面持ちで、翠がぽつり、と言葉を零した。本意ではなかったことがありありとわかる表情に、翼は自分の決断が間違っていなかったことを確信する。
 翠が恐れているのは、自分の理性が溶けたことで起こる過ちだ。自分のせいで、みんなを不幸せにしてしまうという恐怖。
 でもそれは、片割れの彼だけが背負うものではない。

「俺が、絶対に中には出さない。どれだけお前にねだられても、絶対に。誓うよ」

 迷いなく断言する翼を、翠はじっと見つめてくる。透き通るような瞳の奥、ちり、と火花が散った気がした。
 それは一瞬のことで、すぐに薄い水の膜が張られていく。溢れることなく留まる涙の意味を、翼は理解することができなかった。わからないまま、言葉を続ける。

「これも、噛んだ理由の一つだ。中に注いでヒートの症状を軽くしてやれねぇからな。でも、番っておけば、フリーのΩの発情よりは軽くなるだろ?」

 αの精が体内に注がれることによって、徐々にΩの発情は治まっていく。今のように発情抑制剤がない時代は、αと避妊具なしで交わることだけがΩにとっての鎮静剤だった。特に、パートナーのいないΩはひとりで過剰な昂ぶりに耐えねばならず、心と身体の安定を求めて番相手探しに躍起になる者も多かったらしい。
 翠は、αの精を受け取れない。注がない、と翼は決めてしまった。ならばせめて、番うことによる心身の安定だけでも早々に与えてやりたかった。
 それに、今回強烈に感じた運命の強制力も、番っていない状態だからこそここまで強かったはずなのだ。お互いをお互いのものにしてしまえば、運命強火のカミサマとやらも満足するだろう。
 いまだ強張ったままの自分より細い肩に手を置き、安心させるように翼は笑う。

「子供は作らない。絶対に、ナマではしない」
「……無理だよ」
「無理じゃない」
「あんな強烈な本能に翼が勝てるわけない」
「今日、勝っただろーが。俺が本能に負けて噛んだわけじゃないのはわかってんだろ」
「うん、それは……わかってるんだけど」

 信じたいし信じている、けれど不安が捨てられない。そんな様子で念押しという名の確認をしてくる兄の不器用さを静かに受け止める。これは拒絶のためではなく、受容のために翼に自分の発言を否定させている問答だ。

「でも翼、俺の頼み、断らないだろ?」
「普段はな。でも今回は、お前の泣きながらの懇願を聞き入れなかっだだろーが」

 翠のためにならないことは、しない。シンプルな行動原理だ。翼はずっと、この生き方で生きている。

「俺は、翠が俺の隣でずっと笑ってられる世界しかいらねーんだから」

 そのためなら、動物的──運命的欲求を死ぬまで我慢し続けることくらい、なんてことはなかった。


「一生かけて証明してやるから、覚悟しとけ」




◆◆◆


(あれからもう十年だ)

 先程までともに快楽に耽っていた片割れは、今は深い眠りの中だ。珍しく巣作りなんて可愛いことをしてくれたものだから、少しばかり無理をさせてしまった。多分、明日は気怠さが強く残り、起き上がるのもしんどいはず。せめて、起きてから出社するまでは甲斐甲斐しく世話をしてやろう、と心に決める。

(こうまで順調に過ごせてるのは、翠が負担を担ってくれてることが大きいからなぁ)

 十年経っても変わらず可愛らしさの残る童顔を眺めながら、翼は番となった後のことを振り返る。

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