双子の番は希う

西沢きさと

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もうひとつの覚悟


 全身が、これで味わったことのない怠さに包まれている。ゆっくりと身を起こした翠は、隣で眠る双子の片割れに気づき、思わず顔を覆った。

(俺、ほんとに、翼と番ったんだ……)

 少し前まで散々この身体を貪った弟は、翠の腹の中を濡らさぬままうなじに噛み跡を残した。発情が落ち着くまで、一滴も中に注がなかった。
 目眩がしそうだ。翼の執着に。それを上回るほどの自分の妄執に。

 心に湧き上がるのは、歓喜だった。

 あの時、中へ出すことをせがんだのは、自分では到底制御しきれないほどの熱に浮かされていたからだ。まるで嵐のような、息をすることも苦しい昂りだった。けれど、最終的に、本能からくる願いを翠は自分に許した。朧気ながらも、その自覚があった。
 だから、言葉にした。声に出した。普段の自分なら、絶対に口にしないであろう願いを。
 そして、翼は翠のために・・・・・、相手を孕ませたいと渇望する本能を捻じ伏せた。

(ほんとに、すごいよお前は)

 筆舌に尽くし難いほど強烈で抗いがたい誘惑と欲求に、自分のためではなく他人のために押し勝ったのだ。

(きっと、俺にはできないことだ)

 弟は、自分自身のことをかなり見縊っている。本人は、少しでも翠に触れようものなら理性が吹き飛ぶと考えていた節がある。けれど、実際には、翠のためになることなら己の欲望よりも理性を優先できる強靭さがあった。翠は、片割れのその意志の強さを知っていた。
 だからこそ、翠のためを思って避妊する。その上で、子供をよすがにせず、翠を確実に手に入れるための覚悟を持って番になる判断を下すだろう。
 そう信じたから、あえて口に出してねだった。

(酷い男なんだぞ、俺は)

 翼が翠のことをずっと気遣ってくれていたのは知っていた。我慢強く待っていてくれたこと、翠だけを欲しいと思ってくれていること、全部わかっていた。
 それでも踏み込めなかったのは、ただ臆病だったからだ。最悪の可能性を自力では潰せなくて、怖くて、待ってくれる翼の優しさに甘えていた。

(結局、最後の最後まで甘えて、翼に選択をさせちゃったな)

 もし、こんな自分の醜い考えを知っても、翼は笑って許すだろう。翠が、翼を愛している証左でもあるから。家族や翼にぶつけられるかもしれないあらゆる暴力を恐れ、どうしても常識や世間体を捨てられない翠が、彼を手に入れるために打てた唯一の手段だとすぐに理解するだろうから。

(逃げ道を全部なくしてもらわなきゃ、気持ちすら伝えられないんだ、俺は)

 情けない。
 けれど、翼はそんな翠がいいのだ、と笑うから。

 一生、中には出してもらえない。ヒート中、狂いそうになるくらい感じる腹の奥の淋しさを、彼の熱で埋めてもらうことはできない。それでも。

「俺だって、お前だけいればいいんだ」

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