双子の番は希う

西沢きさと

文字の大きさ
13 / 15

もうひとつの覚悟

しおりを挟む

 全身が、これで味わったことのない怠さに包まれている。ゆっくりと身を起こした翠は、隣で眠る双子の片割れに気づき、思わず顔を覆った。

(俺、ほんとに、翼と番ったんだ……)

 少し前まで散々この身体を貪った弟は、翠の腹の中を濡らさぬままうなじに噛み跡を残した。発情が落ち着くまで、一滴も中に注がなかった。
 目眩がしそうだ。翼の執着に。それを上回るほどの自分の妄執に。

 心に湧き上がるのは、歓喜だった。

 あの時、中へ出すことをせがんだのは、自分では到底制御しきれないほどの熱に浮かされていたからだ。まるで嵐のような、息をすることも苦しい昂りだった。けれど、最終的に、本能からくる願いを翠は自分に許した。朧気ながらも、その自覚があった。
 だから、言葉にした。声に出した。普段の自分なら、絶対に口にしないであろう願いを。
 そして、翼は翠のために・・・・・、相手を孕ませたいと渇望する本能を捻じ伏せた。

(ほんとに、すごいよお前は)

 筆舌に尽くし難いほど強烈で抗いがたい誘惑と欲求に、自分のためではなく他人のために押し勝ったのだ。

(きっと、俺にはできないことだ)

 弟は、自分自身のことをかなり見縊っている。本人は、少しでも翠に触れようものなら理性が吹き飛ぶと考えていた節がある。けれど、実際には、翠のためになることなら己の欲望よりも理性を優先できる強靭さがあった。翠は、片割れのその意志の強さを知っていた。
 だからこそ、翠のためを思って避妊する。その上で、子供をよすがにせず、翠を確実に手に入れるための覚悟を持って番になる判断を下すだろう。
 そう信じたから、あえて口に出してねだった。

(酷い男なんだぞ、俺は)

 翼が翠のことをずっと気遣ってくれていたのは知っていた。我慢強く待っていてくれたこと、翠だけを欲しいと思ってくれていること、全部わかっていた。
 それでも踏み込めなかったのは、ただ臆病だったからだ。最悪の可能性を自力では潰せなくて、怖くて、待ってくれる翼の優しさに甘えていた。

(結局、最後の最後まで甘えて、翼に選択をさせちゃったな)

 もし、こんな自分の醜い考えを知っても、翼は笑って許すだろう。翠が、翼を愛している証左でもあるから。家族や翼にぶつけられるかもしれないあらゆる暴力を恐れ、どうしても常識や世間体を捨てられない翠が、彼を手に入れるために打てた唯一の手段だとすぐに理解するだろうから。

(逃げ道を全部なくしてもらわなきゃ、気持ちすら伝えられないんだ、俺は)

 情けない。
 けれど、翼はそんな翠がいいのだ、と笑うから。

 一生、中には出してもらえない。ヒート中、狂いそうになるくらい感じる腹の奥の淋しさを、彼の熱で埋めてもらうことはできない。それでも。

「俺だって、お前だけいればいいんだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜

ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。 成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。 「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」 23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。 モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。 そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。 「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」 「十八歳になるまで我慢してた」 「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」 年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。 夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。 年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。 これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...