魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

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10話 ジュニパーとグレープフルーツ

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 とにかく吸水している間はやることないから一旦休憩にしよう。丁度殿下が折っちゃったローズマリーもあるし。

「お茶にしましょう、ちゃんと立って。ザールさん!」

 救護棟の中に戻ってローズマリーのお茶を淹れる。ほんのりと甘く爽やかな香りのそれに蜂蜜を一杯。

「落ち着きますよ、はい」
「ありがとうございます。ふうー……」

 温かいハーブティーでザールさんも気分が安定したようだ。

「うまく根付くといいですね」
「ええ」
「ブライアンさんの代わりに王子が兵士の訓練にあたっているんですね」
「ああ……本来の団長はフレデリック殿下なのです。この国の騎士団は今の所全部で三つあります。一つは王子の直轄の王国騎士団。それから二つ、東と西の国境沿いを守護している白の騎士団と黒の騎士団です」
「へえ……」
「王国騎士団に入る事は非常に名誉ですが、それは両騎士団が手に負えない事態の援軍という事でもあります。完全な実力主義ですし、厳しい訓練はその為なのですよ」

 そうか……だから休憩時間の度に兵士が転がり込んでくるという訳ね。

「まあ、だとしても最近のブライアンはしごきすぎだと思いますけどね。いざと言うときに兵がぼろぼろじゃ元も子も……」
「ははは……。彼も王子の役に立ちたいんですね」
「ええ、彼は殿下に心酔してますから」

 騎士団ってすごいな。私に魔物退治は無理そうだし。ポーション作りの他にもなにか出来る事はあるかしら。

「さて、そろそろ挿し木をしましょう」
「ええ」

 そうして植木鉢にローズマリーを挿していった。うまく根付いたら畑の予定地に植え替えるつもりだ。

「鬼の切り込み隊長も病気療養ですし、あとはお昼を食べてポーションの量産でもしますかね」
「はい。お手伝いします!」

 そして私はせっせと今自分ができる事に取りかかった。



「あいたたた……。こんな事で筋肉痛……」

 夜、夕食を終えお風呂を出た私は、一人でぼやいていた。ちょっと植木鉢と土を運んで中腰で作業していただけで体にガタが来ている。魔物退治はむりかもって思ったけど、無理。絶対無理。

「ハーバルバスもいいけどマッサージしたい。リベリオ!」
『なんだ?』
「『ジュニパーとグレープフルーツのマッサージオイル』」
『……ん』

 リベリオは黙って手を差し出した。もう。私はそこにカップケーキを置いてやる。

『ほれ。マッサージは手伝わないぞ』
「わかってます」

 リベリオはソファに腰かけてもしゃもしゃカップケーキを頬張っている。

『うまいが口がモサモサするな』
「あ、じゃああと『ハイビスカス』のコーディアルも出して。私も飲みたいから」

 コーディアルはハーブのシロップみたいなもの。グラスに注いで、水差しの水で割る。リベリオにそれを渡して私もいただく。

「くう……。酸っぱい」

 ハイビスカスの酸っぱさが疲れた体に染みる。それを飲みながら足裏とふくらはぎをマッサージする。爽やかな樹木と柑橘の香りでリフレッシュ出来そう。

「そうだリベリオ、もっと騎士団の役に立ちたいのだけど何をしたらいいと思う?」
『そんなものは本人達に聞いたらどうだ?』
「あ……そうよね」

 なんだ、なんでそんな単純な事に気が付かなかったんだろう。私は明日早速教練場を訪ねる事にした。

「こんにちは! 皆さんご苦労様です」

 次の日、私が教練場を訪れると、皆隊列を組んで行進の訓練をしている。一糸乱れぬその動きに感心して、しばらく眺めてしまった。監督していたフレデリック殿下が手を叩いて止めたのを見計らって声をかけた。

「真白、どうしたのだ」
「真白様……あ、真白さん!」

 そう言いながら近づいて来る殿下の後ろから兵士達も追いかけてくる。

「差し入れを作ったので皆さんでどうぞ!」

 バスケットから取り出したのはミントのクッキー。ドライのミントだしほのかに香りを感じる程度だけど、ミントには活力を与える効果と鎮静作用の両方がある。休憩時のおやつにはもってこいだろう。

「いいんですか……?」

 兵士のみんなは手を伸ばすのを躊躇っている。それを見たフレデリック殿下はさっとクッキーを一枚つまんだ。

「せっかく真白が作ってきてくれたんだ。ありがたくいただこう」

 殿下はそれをぱくっと一口で食べた。

「うん、うまい。ほら皆も」
「はい! 戴きます!」

 わらわらとバスケットに手が伸びてくる。私が用意したクッキーはあっという間に無くなってしまった。

「ごちそうさまです!」
「いいえ」

 美味しそうに食べて貰って嬉しい。私が今まで自宅で育ててきたハーブは、自分で消費するばっかりだったから。

「真白、ありがとう」
「殿下……あの、実はお願いしたい事があって今日は来たんです」
「お願い?」
「騎士団の皆さんの役にたちたいので、何をしたらいいのか知りたいんです!」

 私はそう言いながら兵士のみんなの顔を見渡した。

「何をしたら……って、今でも良く効く痛み止めや傷薬を出してくれるし十分ですよ」
「そうだよなぁ」

 しかし兵士達は首を傾げるばっかりだ。えー……何かないの。いや、絶対あるはず! 私は質問の仕方を変える事にした。

「騎士団のお仕事中……いいえ、普段の生活でもいいです。困っている事や悩み事はないですか?」
「うーん……」

 兵士達はお互い顔を見合わせた。ちょっと言い出しにくい空気が流れている。

「フレデリック殿下、殿下は困って居る事はないでしょうか」
「俺か? そうだな……鎧が重くて熱い……かな。特にこれからの季節は」

 今の気候は五月くらいの気候だ。これから夏がきてどんどん熱くなっていくのだろう。

「そうですね。蒸れて正直匂います……あと時々かぶれたり」
「ふむふむ」

 殿下が口火を切ると他の兵士達も賛同した。

「しかし、こんな事を聞いてどうにか出来るのか?」

 ふふふ、よくぞ聞いてくれました。私の顔はにんまりだらしなく緩んでいたと思う。

「はい。鎧を軽くする事は出来ないですけど、きっと皆さんのお役に立てると思います!」

 私はフレデリック殿下と兵士達を前にして胸を張ってそう答えた。
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