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3話 形ばかりの結婚式ですのよ
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「ハルト、飾りがずれてるわよ!」
「おおう……」
この日はハルトとリリアンナの結婚式であった。胸元の花飾りがずれたままで控え室をウロウロするハルトをウルスラがたしなめる。
「リリアンナの希望で身内だけの式にできて良かったわね」
「ああ……派手にしようと思えばいくらでも出来そうだったもんな……」
何しろ救国の英雄の結婚式である。主賓には国王を、なんて話もあったのだ。
「そんなお金があったらメイドカフェの運営に回してください!」
と、方々に話を通したのはリリアンナだった。
「正直助かった」
この十数年を戦いに明け暮れていたハルトは作法もよく知らないし、貴族達の力関係もよく分からない。
内心、リリアンナには感謝しながら、ハルトは自分の領地の教会の扉の前に立った。
「新郎の入場です」
扉を開けると、そこには見知った顔。剣士のアレクサンダーに、治癒魔法士のミケ―レ、斥候役だったギグ、そして女賢者ウルスラ。長きにわたる戦いを共にしてきた戦友達。それから資金面で強力してくれた商人や大怪我を負った時に世話になった村の村長まで。
「みんな……来てくれてありがとう」
ハルトは感謝の礼をして、祭壇の前に進み出た。
「勇者ハルトよ。困難を超えてこの良き日に立ち会えた事に感謝します」
司祭はそう言って目を細めた。この司祭も、ハルトがかつて敵対してしまった枢機卿との仲を取り持ってくれたその人なのだ。
「さあ、花嫁が参りますよ」
「ああ」
ハルトは教会の入り口を見た。そこには真っ白い花嫁衣装に身をつつんだリリアンナが父親の手に引かれて立っていた。その表情は白いベールに包まれてよく見えない。
「勇者ハルト様、どうか娘をお願いします」
「シャンデルナゴール公爵、もう我々は親子ですよ。まかせて下さい」
「おお……」
公爵の目にうっすらと涙が浮かぶ。この公爵も前世の記憶持ちのすっとんきょうな娘に苦労させられてたんだろうな、とハルトは思った。
何はともあれ、リリアンナの手は公爵からハルトへと手渡された。
「それでは結婚の誓いを」
「はい」
「……はい」
二人は結婚の誓いの証文を読み上げ、それぞれサインをした。これで神の元、正式に二人は夫婦となった。
「それでは誓いのキスを」
来たか……ハルトはグッと拳を握りしめた。なぜだ、なぜはじめてのキスをこんな公衆の面前でしなければならないのか……。
「あの……ハルトさま……ベールを……」
「うあっ、ああ、うん」
ハルトは緊張で打ち震えながらリリアンナの顔のベールを持ち上げた。白い、形の良い額に細い鼻。そしてサファイヤのような青い瞳。綺麗だ、とハルトは素直に思った。
「それじゃあ……」
と、ハルトが勇気を振り絞ってリリアンナの華奢な肩に手をやった瞬間だった。リリアンナが小さな声で呟いた。
「フリだけでいいですからね。皆遠いですから気づきませんわ」
「えっ」
それはキスをするフリだけにしろと言う事だろうか。ハルトは戸惑いながらもリリアンナの顔を手で覆ってキスをするフリをした……。
(せっかく、せっかく勇気を出したのに!)
だがそこを強引に行けないのだ。なぜならハルトは童貞だから……。
「これからよろしくお願いしますわ、旦那様」
そんなハルトの内心を知ってか知らずか、リリアンナは大輪の百合のように艶やかに微笑んだ。
「……ハルト、キスしてなかったでしょ」
式が終わって、庭での披露宴をしていた最中だった。じとっとした目つきをしたウルスラがハルトに詰め寄った。
「なななな、なんで分かるんだよ」
「他の人はごまかせても、この賢者ウルスラ様まごまかせないわよ!」
「そうか……」
「なんでキスしちゃわなかったのよ。あんたは夫でしょ?」
「実は……」
ハルトはウルスラにキス直前の出来事を伝えた。それを聞いたウルスラの眉間に不機嫌そうに皺が刻まれた。
「はーあ、結局あんたの事は金づるとしか思ってないんだわ、あの公爵令嬢は」
「そ、そうかな……」
「あんた、そうやっていいように利用されるつもり?」
「そんなつもりはないよ」
ハルトはリリアンナのプレゼンを聞いて、一時的に資金を出す事には納得していた。
「なのにキスもさせない訳?」
「それとこれとは別だ……うん。多分」
「何よ情けないわねー。心配だから私がしっかり見張らなきゃね!」
「えっ、ウルスラ……いつまでいるの?」
ハルトがそう言うと、ウルスラのビンタが頬に炸裂した。
「あんたがそんなんだから私はそうそう隠遁できない訳!」
「ふ、ふぁい……」
ぷんすこ怒りながらその場を後にしたウルスラと入れ違いにリリアンナがやってきた。
「大丈夫ですか……?」
「ああ、ウルスラのいつもの癇癪だ。ほっとけば大丈夫だよ」
「そうではなくて頬、赤くなってますわ」
「ああ、これ……」
ハルトは頬に手をやった。その手からほのかに光が発せられる。
「この程度ならすぐ治せるから平気さ」
「ハルト様……」
「さぁ、来賓の方々に挨拶をしなきゃだろう? 早く行こう」
ハルトはリリアンナの手を引いて、来賓達の元へと進んで行った。リリアンナの小さな呟きを聞く事なく。
(そういう意味では……ないんですけど……)
「おおう……」
この日はハルトとリリアンナの結婚式であった。胸元の花飾りがずれたままで控え室をウロウロするハルトをウルスラがたしなめる。
「リリアンナの希望で身内だけの式にできて良かったわね」
「ああ……派手にしようと思えばいくらでも出来そうだったもんな……」
何しろ救国の英雄の結婚式である。主賓には国王を、なんて話もあったのだ。
「そんなお金があったらメイドカフェの運営に回してください!」
と、方々に話を通したのはリリアンナだった。
「正直助かった」
この十数年を戦いに明け暮れていたハルトは作法もよく知らないし、貴族達の力関係もよく分からない。
内心、リリアンナには感謝しながら、ハルトは自分の領地の教会の扉の前に立った。
「新郎の入場です」
扉を開けると、そこには見知った顔。剣士のアレクサンダーに、治癒魔法士のミケ―レ、斥候役だったギグ、そして女賢者ウルスラ。長きにわたる戦いを共にしてきた戦友達。それから資金面で強力してくれた商人や大怪我を負った時に世話になった村の村長まで。
「みんな……来てくれてありがとう」
ハルトは感謝の礼をして、祭壇の前に進み出た。
「勇者ハルトよ。困難を超えてこの良き日に立ち会えた事に感謝します」
司祭はそう言って目を細めた。この司祭も、ハルトがかつて敵対してしまった枢機卿との仲を取り持ってくれたその人なのだ。
「さあ、花嫁が参りますよ」
「ああ」
ハルトは教会の入り口を見た。そこには真っ白い花嫁衣装に身をつつんだリリアンナが父親の手に引かれて立っていた。その表情は白いベールに包まれてよく見えない。
「勇者ハルト様、どうか娘をお願いします」
「シャンデルナゴール公爵、もう我々は親子ですよ。まかせて下さい」
「おお……」
公爵の目にうっすらと涙が浮かぶ。この公爵も前世の記憶持ちのすっとんきょうな娘に苦労させられてたんだろうな、とハルトは思った。
何はともあれ、リリアンナの手は公爵からハルトへと手渡された。
「それでは結婚の誓いを」
「はい」
「……はい」
二人は結婚の誓いの証文を読み上げ、それぞれサインをした。これで神の元、正式に二人は夫婦となった。
「それでは誓いのキスを」
来たか……ハルトはグッと拳を握りしめた。なぜだ、なぜはじめてのキスをこんな公衆の面前でしなければならないのか……。
「あの……ハルトさま……ベールを……」
「うあっ、ああ、うん」
ハルトは緊張で打ち震えながらリリアンナの顔のベールを持ち上げた。白い、形の良い額に細い鼻。そしてサファイヤのような青い瞳。綺麗だ、とハルトは素直に思った。
「それじゃあ……」
と、ハルトが勇気を振り絞ってリリアンナの華奢な肩に手をやった瞬間だった。リリアンナが小さな声で呟いた。
「フリだけでいいですからね。皆遠いですから気づきませんわ」
「えっ」
それはキスをするフリだけにしろと言う事だろうか。ハルトは戸惑いながらもリリアンナの顔を手で覆ってキスをするフリをした……。
(せっかく、せっかく勇気を出したのに!)
だがそこを強引に行けないのだ。なぜならハルトは童貞だから……。
「これからよろしくお願いしますわ、旦那様」
そんなハルトの内心を知ってか知らずか、リリアンナは大輪の百合のように艶やかに微笑んだ。
「……ハルト、キスしてなかったでしょ」
式が終わって、庭での披露宴をしていた最中だった。じとっとした目つきをしたウルスラがハルトに詰め寄った。
「なななな、なんで分かるんだよ」
「他の人はごまかせても、この賢者ウルスラ様まごまかせないわよ!」
「そうか……」
「なんでキスしちゃわなかったのよ。あんたは夫でしょ?」
「実は……」
ハルトはウルスラにキス直前の出来事を伝えた。それを聞いたウルスラの眉間に不機嫌そうに皺が刻まれた。
「はーあ、結局あんたの事は金づるとしか思ってないんだわ、あの公爵令嬢は」
「そ、そうかな……」
「あんた、そうやっていいように利用されるつもり?」
「そんなつもりはないよ」
ハルトはリリアンナのプレゼンを聞いて、一時的に資金を出す事には納得していた。
「なのにキスもさせない訳?」
「それとこれとは別だ……うん。多分」
「何よ情けないわねー。心配だから私がしっかり見張らなきゃね!」
「えっ、ウルスラ……いつまでいるの?」
ハルトがそう言うと、ウルスラのビンタが頬に炸裂した。
「あんたがそんなんだから私はそうそう隠遁できない訳!」
「ふ、ふぁい……」
ぷんすこ怒りながらその場を後にしたウルスラと入れ違いにリリアンナがやってきた。
「大丈夫ですか……?」
「ああ、ウルスラのいつもの癇癪だ。ほっとけば大丈夫だよ」
「そうではなくて頬、赤くなってますわ」
「ああ、これ……」
ハルトは頬に手をやった。その手からほのかに光が発せられる。
「この程度ならすぐ治せるから平気さ」
「ハルト様……」
「さぁ、来賓の方々に挨拶をしなきゃだろう? 早く行こう」
ハルトはリリアンナの手を引いて、来賓達の元へと進んで行った。リリアンナの小さな呟きを聞く事なく。
(そういう意味では……ないんですけど……)
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