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39話 お忍びのお買い物ですってよ
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それから数日後の事である。モンブロアに大型の馬車が到着した。その馬車は作りの割には家紋もついておらず、通行人は不思議に思った。
「ここがモンブロアか。……田舎ではないか」
「まぁ、元々交易の要所からはずれた所です。しかし近頃は通行量も増え、乗合馬車もほらあのように」
「ふむ……」
そう、それはテオドール王子であった。王子にせっせと助言している黒髪の美青年の名はラファエルという。
「お前までついてこなくても良かったのに」
「そんな訳には参りません!」
「そんなに怒るな。かわいい顔が台無しだぞ」
「なっ……もう……」
ラファエルは頬を赤くして俯いた。
「お、街が見えてきた。あれがワーズか」
「は、はい。その通りです」
馬車は街を抜け、りずむめいとの前に泊まる。街の人々は何事かと振り返った。
「……殿下、ここが例の店です」
「殿下はよせ。ここではテオと」
「……はい」
街の人々は黒い大きな馬車から地味な色味ではあるものの、やたら身なりのいい美青年達が降りてきたので、何事かと囁きあった。
「テオ、お目当てのものはこっちの店舗です」
ラファエルは王子をりずむめいと三号店に導いた。
「……女ばかりだな……」
「仕方ありません。売り場は最奥にあるそうですから」
王子は店に足を踏み入れた。店の中で本を選んでいた女性客達は思わずさっと身を引いた。
「テオ、BLコーナーという所にそれはあります」
「……あそこか……」
ツカツカとBLコーナーに直行する王子を、店員も固唾を飲んで見守っている。
「これしかないのか……」
そしてBLコーナーを目にした王子は落胆の声を漏らした。そこにはすでに持っている一冊と、もう二冊しか置いてなかったのである。王子はじっとPOPを見つめた。
「なになに……少年達の瑞々しい愛……初々しい艶やかな絡みは必見……」
POPを読み上げる王子の声は大きかった。存外に大きかった。客も店員も顔を赤らめ、目をそらした。
「こちらは……はじけるような肉体美。戦う男達の筋肉と筋肉がぶつかり合う……うむ……」
「どちらにしますか、テオ」
「無論……」
王子の手が伸びた。どちらを選ぶのか……店中の視線が集まった。
「こちらに決まっている」
その手に取られたのは筋肉BLだった。
「それではそれを買いましょう」
ラファエルは王子に代わり、会計を済ませる。
「では長居は無用だ。とっとと帰ろう」
王子とラファエルが馬車に乗ろうとした時、声をかけてくる者があった。
「テオドール殿下、なにしてますの」
それはリリアンナであった。横にはハルトもいる。
「なっ、リリアンナ! なぜここに……」
「なぜもなにも……こんなめろでぃたいむの目の前で目立っておいて、それはないですわ」
この段階になって王子ははじめて周りを見渡した。通りの人々がじっと自分を見ている事に気づいて、王子は愕然とした。
「なぜだ。変装しているのに……やはりこの高貴なオーラは隠しきれないのか……」
「……それ、本気で言ってますの?」
「と、とにかく私はもう帰る。邪魔をしないでくれ」
王子はぷい、と顔を背けた。リリアンナはその様子にため息をつきながらこう言った。
「よかったら、メイドカフェで休憩はいかが。ワーズに来てここに寄らない手はありませんわ。それに……殿下とは一度きちんとお話がしたいと思ってましたの」
「……よかろう」
王子は尊大に頷いた。
「本気かよ」
ハルトはぞわぞわはらはらしながらそう呟いた。
「ではどうぞ。お帰りなさいませ、ご主人様」
リリアンナがめろでぃたいむのドアをあける。丁度オープン前の時間だ。メイド達は勢揃いで出迎えた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
「……ああ?」
王子は眉をひそめた。
「殿下、細かい事は気にしないでこちらの席へどうぞ」
リリアンナはソファー席を勧めた。王子とラファエルは周りを見渡しながらも席についた。リリアンナとハルトも向かいに腰掛けた。
「落ち着かない……」
リリアンナの好みのファンシーな内装に身を縮める王子。それを見てリリアンナはモモに声をかけた。
「モモ、更衣室のついたてを持って来て頂戴」
「はいにゃ!」
ソファーの側についたてを設置して、ようやく王子は落ち着いたようだった。
「……それで、話とはなんだ。私は話すことなど」
「その前にご注文は?」
「あ、ああ。ではオムライスとパフェというやつを」
「お連れの方は?」
「……同じものを」
リリアンナは注文を聞いて、厨房に通した。
「では……。その紙袋、りずむめいとのものですわね。何を買いましたの?」
「ふっ、これだ」
王子は紙袋から買ったばかりの本を取り出した。
「それは……『パトリックとクラウス』ですか」
「むう……すべての売り物を把握しているのか?」
「いえ、さすがにそういう訳ではありません。それはちょっと事情のある作品だったものですから私も深く関わっているのです」
それを聞いた王子は目を見開いた。
「深く関わっているだと……」
「ええ。それが何か」
「何か、ではない。これについて私は文句がある」
「はぁ……」
「なぜ、こうも種類が少ないのだ!!」
王子の激高が、めろでぃたいむに響き渡った。
「ここがモンブロアか。……田舎ではないか」
「まぁ、元々交易の要所からはずれた所です。しかし近頃は通行量も増え、乗合馬車もほらあのように」
「ふむ……」
そう、それはテオドール王子であった。王子にせっせと助言している黒髪の美青年の名はラファエルという。
「お前までついてこなくても良かったのに」
「そんな訳には参りません!」
「そんなに怒るな。かわいい顔が台無しだぞ」
「なっ……もう……」
ラファエルは頬を赤くして俯いた。
「お、街が見えてきた。あれがワーズか」
「は、はい。その通りです」
馬車は街を抜け、りずむめいとの前に泊まる。街の人々は何事かと振り返った。
「……殿下、ここが例の店です」
「殿下はよせ。ここではテオと」
「……はい」
街の人々は黒い大きな馬車から地味な色味ではあるものの、やたら身なりのいい美青年達が降りてきたので、何事かと囁きあった。
「テオ、お目当てのものはこっちの店舗です」
ラファエルは王子をりずむめいと三号店に導いた。
「……女ばかりだな……」
「仕方ありません。売り場は最奥にあるそうですから」
王子は店に足を踏み入れた。店の中で本を選んでいた女性客達は思わずさっと身を引いた。
「テオ、BLコーナーという所にそれはあります」
「……あそこか……」
ツカツカとBLコーナーに直行する王子を、店員も固唾を飲んで見守っている。
「これしかないのか……」
そしてBLコーナーを目にした王子は落胆の声を漏らした。そこにはすでに持っている一冊と、もう二冊しか置いてなかったのである。王子はじっとPOPを見つめた。
「なになに……少年達の瑞々しい愛……初々しい艶やかな絡みは必見……」
POPを読み上げる王子の声は大きかった。存外に大きかった。客も店員も顔を赤らめ、目をそらした。
「こちらは……はじけるような肉体美。戦う男達の筋肉と筋肉がぶつかり合う……うむ……」
「どちらにしますか、テオ」
「無論……」
王子の手が伸びた。どちらを選ぶのか……店中の視線が集まった。
「こちらに決まっている」
その手に取られたのは筋肉BLだった。
「それではそれを買いましょう」
ラファエルは王子に代わり、会計を済ませる。
「では長居は無用だ。とっとと帰ろう」
王子とラファエルが馬車に乗ろうとした時、声をかけてくる者があった。
「テオドール殿下、なにしてますの」
それはリリアンナであった。横にはハルトもいる。
「なっ、リリアンナ! なぜここに……」
「なぜもなにも……こんなめろでぃたいむの目の前で目立っておいて、それはないですわ」
この段階になって王子ははじめて周りを見渡した。通りの人々がじっと自分を見ている事に気づいて、王子は愕然とした。
「なぜだ。変装しているのに……やはりこの高貴なオーラは隠しきれないのか……」
「……それ、本気で言ってますの?」
「と、とにかく私はもう帰る。邪魔をしないでくれ」
王子はぷい、と顔を背けた。リリアンナはその様子にため息をつきながらこう言った。
「よかったら、メイドカフェで休憩はいかが。ワーズに来てここに寄らない手はありませんわ。それに……殿下とは一度きちんとお話がしたいと思ってましたの」
「……よかろう」
王子は尊大に頷いた。
「本気かよ」
ハルトはぞわぞわはらはらしながらそう呟いた。
「ではどうぞ。お帰りなさいませ、ご主人様」
リリアンナがめろでぃたいむのドアをあける。丁度オープン前の時間だ。メイド達は勢揃いで出迎えた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
「……ああ?」
王子は眉をひそめた。
「殿下、細かい事は気にしないでこちらの席へどうぞ」
リリアンナはソファー席を勧めた。王子とラファエルは周りを見渡しながらも席についた。リリアンナとハルトも向かいに腰掛けた。
「落ち着かない……」
リリアンナの好みのファンシーな内装に身を縮める王子。それを見てリリアンナはモモに声をかけた。
「モモ、更衣室のついたてを持って来て頂戴」
「はいにゃ!」
ソファーの側についたてを設置して、ようやく王子は落ち着いたようだった。
「……それで、話とはなんだ。私は話すことなど」
「その前にご注文は?」
「あ、ああ。ではオムライスとパフェというやつを」
「お連れの方は?」
「……同じものを」
リリアンナは注文を聞いて、厨房に通した。
「では……。その紙袋、りずむめいとのものですわね。何を買いましたの?」
「ふっ、これだ」
王子は紙袋から買ったばかりの本を取り出した。
「それは……『パトリックとクラウス』ですか」
「むう……すべての売り物を把握しているのか?」
「いえ、さすがにそういう訳ではありません。それはちょっと事情のある作品だったものですから私も深く関わっているのです」
それを聞いた王子は目を見開いた。
「深く関わっているだと……」
「ええ。それが何か」
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