最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。

高井うしお

文字の大きさ
71 / 90
第三章

70話 すれ違い

しおりを挟む
「もう一度、お願いします」
「ですから、ミール地方への訪問は認められません」
「なぜです? 困って居る人が今も沢山いると聞いていますが?」

 上位の僧侶の集う会議にて決定された結論にエミリアは下唇を噛んだ。

「光拝教を国教とする各国との繋がりを今は盤石にする時期です」
「しかし……それでは、肝心の人々が救われません!」
「中央教会からは回復魔法の得意なもの達の慰問団を向かわせます。それで問題はありません」

 自分の言い分はまたも通らないのか、とエミリアは嘆息した。エミリアを聖女に担ぎ上げた一派もその場にいたが彼女を擁護する事はなかった。

「ローダック王国にヘタな借りができたばかりです。エミリア様」

 アーロイス襲撃は向こうから不問、という返事は来ていたがだからといって中央教会で起こった事件という事に変わりはない。

「……わかりました」

 会議を終え、エミリアはとぼとぼと自室へと戻った。

「カーラ」
「あっ、エミリア様……どうでした? 慰問は決まりました?」
「駄目だったわ」
「そう……ですか……」

 エミリアは弱々しくカーラに返事をすると、ソファに座った。明らかに落ち込んでいるエミリアを見てカーラも肩を落とした。

「残念ですね……」
「しかたないわ。次の機会を待ちましょう」

 エミリアはそうカーラに答えはしたものの、歯がゆい思いで一杯だった。

「あ、そうだ……これライアン様からお返事です」
「あら……ありがとう」
「頼まれた手紙も私の実家経由で出しておきました」
「ごめんね、手間をかけさせて」
「いいんです。お世話になった方なんですよね」

 カーラはことさらに明るく振る舞った。そしてエミリアにライアンからの手紙を手渡した。

「手紙……読みたいから少し一人にしてくれるかしら」
「はい」

 カーラが部屋を出て行き、パタリとドアが閉まるとエミリアはライアンからの手紙を開いた。

『私は多少の不自由はあるが、問題はない。ただ、なんの情報もなく退屈だ。・・には迷惑をかけたと思う。浅慮であった。そちらは大丈夫だろうかと心配している』

署名のない文面にはエミリアを気遣う文章が綴られていた。文面からとても十一歳とは思えない気丈さを感じなからエミリアにはカーラを通じて言葉を伝える方法があるばかりだ、と心の中で嘆いた。

「慰問にも行けない、男の子一人救えない……私は……」

 エミリアは窓の外に広がる木立とその向こうのユニオールの歳の街並を見つめた。

 その視線のはるか遠く、ハーフェンの村に一通の手紙が届いた。

「パパ! 見てっ! 大変大変!」
「なんだ? バッタか?」
「それもそうだけどー! 手紙がきたの!」
「……エミリアか?」

 名無しが手紙と聞いて、連想するとすればエミリアしかいなかった。手紙を持って駆けてきたクロエからそれを受け取ると、名無しは早速中身を開いた。

「パパ、早く読もう! 読んで!」
「……えーっと『クロエちゃんお手紙ありがとう。私は元気です。聖女として人々に尽くせるように日々過ごしています』……」

 それは当たり障りのない内容だった。だが、クロエはそのエミリア直筆の手紙を大事そうに見ている。

「いい匂いするー」
「……そうか?」

 名無しは便せんに鼻を近づけた。確かにかすかにふわりとグリーンフローラルの香りがした。その匂いには覚えがあった。リュッケルンの街でエミリアが買った軟膏の匂いだ。

「あ、これはパパ宛かな?」

 クロエは封筒の中のカードを取り出した。そこには『懐かしく思い出します』とだけ書いたカードが入っていた。そこに描かれているのは待雪草の絵が描かれている。

「それにしても返信がよく届いたな」
「ここから来たみたい」

 クロエはくるりと封筒を裏返した。それは王都の城下町の住所……カーラの実家の商会の住所だった。

「クロエ、この手紙は大事にしておけな。エミリアは随分手を尽くして届けてくれたみたいだ」
「うん、もちろんだよ」

 クロエは大切に手紙を畳むと家に帰って宝箱にしているキャンディーの空き箱にしまった。

「また会えたらいいのにな」

 ちょっと寂しそうに、そう呟きながら。
 一方、そんなささやかで嬉しい手紙とは違った手紙とにらめっこしているのはユニオールの街の片隅にいるフレドリックだった。

「……うむ」
「どうしたフレドリック」
「うわっ」

 突然イライアスに後ろから話しかけられたフレドリックは思わず手紙の上に多い被さった。

「こ、これは……私信で……」
「言い訳はいい。見せてみろ」

 イライアスはフレドリックから手紙を奪うとそれに目を通した。

「……これは」
「何かアーロイスの立場を崩すのに突破口はないかと……だが、これは……」
「無駄足かもしれないが……会ってみよう、フレドリック」
「ああ……」

 フレドリックに届いた手紙はかつての剣の教え子だった。王国の騎士団に所属する騎士である彼にフレドリックはそれとなく王城の様子を窺う手紙を出していたのだ。その返信は内々に話したい事がある、というものだった。

「今すぐにでも王都に行って聞き出したいところだが」
「夏の休暇で実家に帰る、か。王都に戻らずに会うならこのタイミングだな。フレドリック、お前は王都では目立ちすぎる」
「だな」

 イライアスはともかく、大柄なフレドリックは人混みの中でも目立つ。ライアンを連れて逃亡した事は当然、相手方も分かっているだろう。今は事を荒立てたりする時期ではない。それはフレドリックも分かっていた。

「サイラス……」

 彼は剣の腕が立ち、生真面目な性格で、師匠にあたるフレドリックにちょっと似た男だった。そんな彼は……魔王討伐の討伐隊にいたのだ。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

処理中です...