6 / 61
居酒屋
しおりを挟む
そして終業後……今か今かと待ち構えている桜井さんに早速捕まえられ、居酒屋へとッ連行される。
「私、生。長田も生でいい?」
「あ、うん」
通された奥まった個室には桜井さんの発する熱気が満ちている。話しを聞かせろって言われても、私酔っ払ってたからな……なれそめを話せって言うんだろうけど、何を一体話せばいいのやら。私が頭を悩ませていると、スマホに着信が来た。
「あ、もしもし? かのん君?」
通話の主はもちろんかのん君。桜井さんがギン! とこちらを向いた。
「あー、真希ちゃん? 仕事終わった?」
「うん、終わったよ。今、新宿で飲んでるんだ」
「えー? そうなの? 一緒にごはんでもって思ったのに」
「ごめんねー、また今度……うわっ」
残念だけど、と断ろうとした途端に桜井さんのスマホが目の前にかざされた。
『かのん君を ここに 呼んで』
チラリと桜井さんを見ると、無言で親指を立てている。あー、まー私のおぼろげな記憶からなれそめ話をひねり出すよりいいか……。あとはかのん君次第。
「もしもし……あの、会社の人と一緒なんだけど、かのん君も飲みどうかな」
「会社の人?」
「そう、昼間に写真送ったでしょ、あれの横に居た……」
「ああ!! じゃあ三十分後くらいにそっちに合流するよ」
私がそこで頷いてから通話を切ると、桜井さんはガッツポーズをしていた。
「ナイス、長田」
「もう、桜井さん。強引ですよ」
「ふふふー。生かのん君に会えるー。やたー!」
「ねぇ、聞いてます!?」
そんなやり取りをしてると生ビールと突き出しの枝豆がやってきた。
「まぁまぁ、とりあえず乾杯」
「はい、乾杯」
カチン、とジョッキがかち合う音が響く。ゴクッっとビールを飲み込む。冷たい刺激と苦みが喉を通る。
「「くう~~~~っ! この一杯の為に生きてる~~~~!!」」
私と桜井さんのおなじみの台詞が口をつく。なんだかんだ職場で一番仲がいいのは桜井さんなのだ。一番歳も近いし。
「ぷはー、じゃあ今のうちにハルオ氏の話を聞こうじゃないの」
ハルオというのは私の元彼の事だ。桜井さんとも面識がある。二十六歳の誕生日にプロポーズどころか私を振った男。
「あー、うん。なんか他に好きな子が出来て私よりタイプなんだってさ」
「はぁ? それワザワザ誕生日に言う?」
「背が高いのも嫌だって」
「出会った頃からあんたはその身長でしょうよ」
「ヒール履かないようにしたりしてたんだけどね……」
桜井さんは、鼻を鳴らすとジョッキに半分以上残ったビールを一気に飲み干した。
「けっ、そんなのどうしようもないじゃない。大体ね、あんたは相手に合わせ過ぎなのよ」
「そうかな、そうかも」
「まぁハルオの野郎も自分の価値観を長田に押しつけすぎだとは思ってたけどね。似合うわよ、その髪型」
「えっ」
私は思わず、髪を押さえた。昨日美容院で改造して貰った新しいヘアスタイル。
「気づきました?」
「うん、どこの美容院?」
「それが、かのん君に連れて行って貰ったので……」
「まじか! またあんた流されてるの!?」
「そうとも……いう?」
桜井さんの顔に呆れの表情が浮かぶ。おおお、これでなれそめを聞いたらこの人爆発するんじゃ無いかしら。ちょっと心配になってきた。
「ま、センス高いのは救いだわよね。ハルオ氏の趣味は最悪だったもの」
「ははは……」
それからはえいひれと厚揚げとだし巻き玉子をつまみに上司の愚痴を言いながら、かのん君の到着を待った。宣言どおり、三十分ちょっとしてからスマホに着信が来た。
「あ、東口。歌舞伎町の入り口近くの『GAKU』っていう居酒屋。うん、うん」
「来るって?」
「駅に着いたからもうすぐ来るって」
「よっしゃあ、生かのん君~」
「お手柔らかに頼みますよ、桜井さん……」
【ライト文芸大賞エントリー中 応援よろしくお願いします。】
「私、生。長田も生でいい?」
「あ、うん」
通された奥まった個室には桜井さんの発する熱気が満ちている。話しを聞かせろって言われても、私酔っ払ってたからな……なれそめを話せって言うんだろうけど、何を一体話せばいいのやら。私が頭を悩ませていると、スマホに着信が来た。
「あ、もしもし? かのん君?」
通話の主はもちろんかのん君。桜井さんがギン! とこちらを向いた。
「あー、真希ちゃん? 仕事終わった?」
「うん、終わったよ。今、新宿で飲んでるんだ」
「えー? そうなの? 一緒にごはんでもって思ったのに」
「ごめんねー、また今度……うわっ」
残念だけど、と断ろうとした途端に桜井さんのスマホが目の前にかざされた。
『かのん君を ここに 呼んで』
チラリと桜井さんを見ると、無言で親指を立てている。あー、まー私のおぼろげな記憶からなれそめ話をひねり出すよりいいか……。あとはかのん君次第。
「もしもし……あの、会社の人と一緒なんだけど、かのん君も飲みどうかな」
「会社の人?」
「そう、昼間に写真送ったでしょ、あれの横に居た……」
「ああ!! じゃあ三十分後くらいにそっちに合流するよ」
私がそこで頷いてから通話を切ると、桜井さんはガッツポーズをしていた。
「ナイス、長田」
「もう、桜井さん。強引ですよ」
「ふふふー。生かのん君に会えるー。やたー!」
「ねぇ、聞いてます!?」
そんなやり取りをしてると生ビールと突き出しの枝豆がやってきた。
「まぁまぁ、とりあえず乾杯」
「はい、乾杯」
カチン、とジョッキがかち合う音が響く。ゴクッっとビールを飲み込む。冷たい刺激と苦みが喉を通る。
「「くう~~~~っ! この一杯の為に生きてる~~~~!!」」
私と桜井さんのおなじみの台詞が口をつく。なんだかんだ職場で一番仲がいいのは桜井さんなのだ。一番歳も近いし。
「ぷはー、じゃあ今のうちにハルオ氏の話を聞こうじゃないの」
ハルオというのは私の元彼の事だ。桜井さんとも面識がある。二十六歳の誕生日にプロポーズどころか私を振った男。
「あー、うん。なんか他に好きな子が出来て私よりタイプなんだってさ」
「はぁ? それワザワザ誕生日に言う?」
「背が高いのも嫌だって」
「出会った頃からあんたはその身長でしょうよ」
「ヒール履かないようにしたりしてたんだけどね……」
桜井さんは、鼻を鳴らすとジョッキに半分以上残ったビールを一気に飲み干した。
「けっ、そんなのどうしようもないじゃない。大体ね、あんたは相手に合わせ過ぎなのよ」
「そうかな、そうかも」
「まぁハルオの野郎も自分の価値観を長田に押しつけすぎだとは思ってたけどね。似合うわよ、その髪型」
「えっ」
私は思わず、髪を押さえた。昨日美容院で改造して貰った新しいヘアスタイル。
「気づきました?」
「うん、どこの美容院?」
「それが、かのん君に連れて行って貰ったので……」
「まじか! またあんた流されてるの!?」
「そうとも……いう?」
桜井さんの顔に呆れの表情が浮かぶ。おおお、これでなれそめを聞いたらこの人爆発するんじゃ無いかしら。ちょっと心配になってきた。
「ま、センス高いのは救いだわよね。ハルオ氏の趣味は最悪だったもの」
「ははは……」
それからはえいひれと厚揚げとだし巻き玉子をつまみに上司の愚痴を言いながら、かのん君の到着を待った。宣言どおり、三十分ちょっとしてからスマホに着信が来た。
「あ、東口。歌舞伎町の入り口近くの『GAKU』っていう居酒屋。うん、うん」
「来るって?」
「駅に着いたからもうすぐ来るって」
「よっしゃあ、生かのん君~」
「お手柔らかに頼みますよ、桜井さん……」
【ライト文芸大賞エントリー中 応援よろしくお願いします。】
0
あなたにおすすめの小説
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる