ジェンダーレス男子と不器用ちゃん

高井うしお

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居酒屋

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 そして終業後……今か今かと待ち構えている桜井さんに早速捕まえられ、居酒屋へとッ連行される。

「私、生。長田も生でいい?」
「あ、うん」

 通された奥まった個室には桜井さんの発する熱気が満ちている。話しを聞かせろって言われても、私酔っ払ってたからな……なれそめを話せって言うんだろうけど、何を一体話せばいいのやら。私が頭を悩ませていると、スマホに着信が来た。

「あ、もしもし? かのん君?」

 通話の主はもちろんかのん君。桜井さんがギン! とこちらを向いた。

「あー、真希ちゃん? 仕事終わった?」
「うん、終わったよ。今、新宿で飲んでるんだ」
「えー? そうなの? 一緒にごはんでもって思ったのに」
「ごめんねー、また今度……うわっ」

 残念だけど、と断ろうとした途端に桜井さんのスマホが目の前にかざされた。

『かのん君を ここに 呼んで』

 チラリと桜井さんを見ると、無言で親指を立てている。あー、まー私のおぼろげな記憶からなれそめ話をひねり出すよりいいか……。あとはかのん君次第。

「もしもし……あの、会社の人と一緒なんだけど、かのん君も飲みどうかな」
「会社の人?」
「そう、昼間に写真送ったでしょ、あれの横に居た……」
「ああ!! じゃあ三十分後くらいにそっちに合流するよ」

 私がそこで頷いてから通話を切ると、桜井さんはガッツポーズをしていた。

「ナイス、長田」
「もう、桜井さん。強引ですよ」
「ふふふー。生かのん君に会えるー。やたー!」
「ねぇ、聞いてます!?」

 そんなやり取りをしてると生ビールと突き出しの枝豆がやってきた。

「まぁまぁ、とりあえず乾杯」
「はい、乾杯」

 カチン、とジョッキがかち合う音が響く。ゴクッっとビールを飲み込む。冷たい刺激と苦みが喉を通る。

「「くう~~~~っ! この一杯の為に生きてる~~~~!!」」

 私と桜井さんのおなじみの台詞が口をつく。なんだかんだ職場で一番仲がいいのは桜井さんなのだ。一番歳も近いし。

「ぷはー、じゃあ今のうちにハルオ氏の話を聞こうじゃないの」

 ハルオというのは私の元彼の事だ。桜井さんとも面識がある。二十六歳の誕生日にプロポーズどころか私を振った男。

「あー、うん。なんか他に好きな子が出来て私よりタイプなんだってさ」
「はぁ? それワザワザ誕生日に言う?」
「背が高いのも嫌だって」
「出会った頃からあんたはその身長でしょうよ」
「ヒール履かないようにしたりしてたんだけどね……」

 桜井さんは、鼻を鳴らすとジョッキに半分以上残ったビールを一気に飲み干した。

「けっ、そんなのどうしようもないじゃない。大体ね、あんたは相手に合わせ過ぎなのよ」
「そうかな、そうかも」
「まぁハルオの野郎も自分の価値観を長田に押しつけすぎだとは思ってたけどね。似合うわよ、その髪型」
「えっ」

 私は思わず、髪を押さえた。昨日美容院で改造して貰った新しいヘアスタイル。

「気づきました?」
「うん、どこの美容院?」
「それが、かのん君に連れて行って貰ったので……」
「まじか! またあんた流されてるの!?」
「そうとも……いう?」

 桜井さんの顔に呆れの表情が浮かぶ。おおお、これでなれそめを聞いたらこの人爆発するんじゃ無いかしら。ちょっと心配になってきた。

「ま、センス高いのは救いだわよね。ハルオ氏の趣味は最悪だったもの」
「ははは……」

 それからはえいひれと厚揚げとだし巻き玉子をつまみに上司の愚痴を言いながら、かのん君の到着を待った。宣言どおり、三十分ちょっとしてからスマホに着信が来た。

「あ、東口。歌舞伎町の入り口近くの『GAKU』っていう居酒屋。うん、うん」
「来るって?」
「駅に着いたからもうすぐ来るって」
「よっしゃあ、生かのん君~」
「お手柔らかに頼みますよ、桜井さん……」

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