48 / 61
時の人
しおりを挟む
「あっ、録画ちゃんと出来てる」
仕事から帰ったかのん君が、テレビのリモコンを片手に録画チェックをしている。
「はやく着替えて見ようっと」
かのんくんはすぐに部屋に戻り、ジャージに着替えるとメイク落としシートを片手にテレビの前に陣取った。メイクを落とす時間も惜しいらしい……。
「わー緊張してるなぁー。真希ちゃんはこれ見た?」
「うんリアルタイムで見たよ」
「かまいたちさん、すっごいいい人だったよ。共演者のみんなとも歳が近いから連絡先交換しちゃった。今度ご飯行こうって」
「へー……」
なんだか一段とかのん君が遠くなってしまったように感じる。私はかのん君の背中にぴたりと張り付いた。
「なぁに? もしかして怒ってる」
「え? なんで」
「ほら、真希ちゃんの事ネタにしちゃったとこあるし……」
「いいの、そんなの」
私は自分が物わかりのいい振りをして実はとんでもなくやきもち焼きな事に気が付いた。
「ぎゅーうううう」
「わはは、苦しい! 苦しい!」
こんな風にして誤魔化してしまうところも……私、素直じゃないなぁ。
「そうだ、それでね。今度はかまいたちさんのトーク番組に出させてもらうかもしれない」
「そうなの?」
「うん、ほら『深夜にかまりゃんしょ』って番組」
「あー」
大してテレビを見ない私でも知ってる。たしか変わった人物やある物事に詳しい人物をゲストにしたトーク番組だ。
「大丈夫……?」
「うーん、不安だけどかまいたちさんが任せなさいって言ってくれたからなぁ」
かのん君はいつまでもひっついている私をひざの上に乗せると、髪の毛を梳きながらこう言った。
「真希ちゃん、俺頑張るから」
そう言われると、それ以上は何も言えなくて私は黙り込むしかなかった。
「ねぇ、見たわよ」
職場に出社すると、桜井さんがさっそく声かけてきた。
「……どう見えた?」
「動画でもばっちり、俳優にも負けないルックスにあのキャラクター……かまいたち虹朗では気にいったんじゃないかしら」
まさかの詳細な分析、それからMCの行動予測まで出てきた。しかも当たってる。
「これはブレイクしちゃうかもね、かのん君」
「ひっ」
「……なぁに? 嫌なの?
「嫌というか……むずがゆい?」
「まぁ、大変なのはあんたじゃなくてかのん君でしょ」
そうなんだよね。でも……かのん君はどうして急にテレビに出たりしだしたんだろう。今まではモデルの仕事もついでみたいな事を言っていたのに。
「静かに暮らしたいってのは我が儘なのかな」
かのん君が好きなオシャレをして私はそれを眺めて褒めて楽しんで、そんな日々がずっと続けばいいっていうのはダメなのかな。
私はなんとなく釈然としない気分のまま、仕事へと向かった。
それから、かのん君の出演したトーク番組の収録と放映があった。クイズ番組の一角のトークとは違って、かのん君の生い立ちから辿っていき、途中に再現ドラマまで入る力の入れようだ。
『あの子より、俺きれいになれる』
画面の中で、かのん君役の子役がリップを片手に台詞を喋っている。うーん、かのん君の方がかわいいなぁ。そこは本物を超えないように役者を調整しているのかな。
「でー? この時めざめちゃった訳?」
「はい。とにかく動画や雑誌で研究しました」
「へー、今の若い子は情報が手に入りやすくて羨ましいわー」
私はそこで、テレビの電源を消した。……はぁ、なんでこんなにもやもやするんだろう。そしてそのトーク番組の放映後、かのん君は時の人となった。
かまいたち虹朗の軽快なトークから暴き出された、かのん君の美へのこだわりとそれと相反した彼女……つまり私へのデレデレ具合が話題を呼んだのだ。
その日のSNSのトレンド入りも果たし、かのんくんのフォロワーも一気に増えた。
「真希ちゃん……CM決まっちゃった」
「嘘……」
「しかも化粧品……凄い嬉しい……」
感動に打ち震えるかのん君とは裏腹に私はやっぱり何かついて行けないような気分のままでいた。
仕事から帰ったかのん君が、テレビのリモコンを片手に録画チェックをしている。
「はやく着替えて見ようっと」
かのんくんはすぐに部屋に戻り、ジャージに着替えるとメイク落としシートを片手にテレビの前に陣取った。メイクを落とす時間も惜しいらしい……。
「わー緊張してるなぁー。真希ちゃんはこれ見た?」
「うんリアルタイムで見たよ」
「かまいたちさん、すっごいいい人だったよ。共演者のみんなとも歳が近いから連絡先交換しちゃった。今度ご飯行こうって」
「へー……」
なんだか一段とかのん君が遠くなってしまったように感じる。私はかのん君の背中にぴたりと張り付いた。
「なぁに? もしかして怒ってる」
「え? なんで」
「ほら、真希ちゃんの事ネタにしちゃったとこあるし……」
「いいの、そんなの」
私は自分が物わかりのいい振りをして実はとんでもなくやきもち焼きな事に気が付いた。
「ぎゅーうううう」
「わはは、苦しい! 苦しい!」
こんな風にして誤魔化してしまうところも……私、素直じゃないなぁ。
「そうだ、それでね。今度はかまいたちさんのトーク番組に出させてもらうかもしれない」
「そうなの?」
「うん、ほら『深夜にかまりゃんしょ』って番組」
「あー」
大してテレビを見ない私でも知ってる。たしか変わった人物やある物事に詳しい人物をゲストにしたトーク番組だ。
「大丈夫……?」
「うーん、不安だけどかまいたちさんが任せなさいって言ってくれたからなぁ」
かのん君はいつまでもひっついている私をひざの上に乗せると、髪の毛を梳きながらこう言った。
「真希ちゃん、俺頑張るから」
そう言われると、それ以上は何も言えなくて私は黙り込むしかなかった。
「ねぇ、見たわよ」
職場に出社すると、桜井さんがさっそく声かけてきた。
「……どう見えた?」
「動画でもばっちり、俳優にも負けないルックスにあのキャラクター……かまいたち虹朗では気にいったんじゃないかしら」
まさかの詳細な分析、それからMCの行動予測まで出てきた。しかも当たってる。
「これはブレイクしちゃうかもね、かのん君」
「ひっ」
「……なぁに? 嫌なの?
「嫌というか……むずがゆい?」
「まぁ、大変なのはあんたじゃなくてかのん君でしょ」
そうなんだよね。でも……かのん君はどうして急にテレビに出たりしだしたんだろう。今まではモデルの仕事もついでみたいな事を言っていたのに。
「静かに暮らしたいってのは我が儘なのかな」
かのん君が好きなオシャレをして私はそれを眺めて褒めて楽しんで、そんな日々がずっと続けばいいっていうのはダメなのかな。
私はなんとなく釈然としない気分のまま、仕事へと向かった。
それから、かのん君の出演したトーク番組の収録と放映があった。クイズ番組の一角のトークとは違って、かのん君の生い立ちから辿っていき、途中に再現ドラマまで入る力の入れようだ。
『あの子より、俺きれいになれる』
画面の中で、かのん君役の子役がリップを片手に台詞を喋っている。うーん、かのん君の方がかわいいなぁ。そこは本物を超えないように役者を調整しているのかな。
「でー? この時めざめちゃった訳?」
「はい。とにかく動画や雑誌で研究しました」
「へー、今の若い子は情報が手に入りやすくて羨ましいわー」
私はそこで、テレビの電源を消した。……はぁ、なんでこんなにもやもやするんだろう。そしてそのトーク番組の放映後、かのん君は時の人となった。
かまいたち虹朗の軽快なトークから暴き出された、かのん君の美へのこだわりとそれと相反した彼女……つまり私へのデレデレ具合が話題を呼んだのだ。
その日のSNSのトレンド入りも果たし、かのんくんのフォロワーも一気に増えた。
「真希ちゃん……CM決まっちゃった」
「嘘……」
「しかも化粧品……凄い嬉しい……」
感動に打ち震えるかのん君とは裏腹に私はやっぱり何かついて行けないような気分のままでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる