シェフが私のことを好きになる確率

hayama_25

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第29話

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「…3番テーブル」
「はい」

 あの後、シェフから何度も電話があった。
 だけど、取ることはなかった。

 シェフの声を聞くのが怖かったから。

 電話が鳴るたびに、胸が締め付けられるような思いがした。

 忙しい時間が続く。

 お客さんの注文をこなすために、ひたすら動き回る。

 いつもより忙しいかもしれない。
 ちょうど良かった。

 心の中のモヤモヤを振り払うように、仕事に集中する。

 動き続けることで、少しでも心の重さを忘れようとしていた。

「ふぅ、疲れた…」

 やっと休憩時間が来た。

 疲れた体を休めるために、スタッフルームに向かう。

 心の中では、シェフとのことが頭から離れない。
 彼の顔が浮かんでは消える。

「莉乃」

 律の声に、ハッとする。

「…律、」

「はい、水」

 律が差し出す水を受け取る。

「ありがとう」

「いやぁ、すっごく忙しかったねえ」

 律が笑顔で言う。

 その笑顔に、少しだけ心が和らぐ。

「そうだね、」

 自分も笑顔を作るが、心の中は晴れない。

「…何かあった?」

 律が心配そうに話しかけてくる。

 その優しい声に、少しだけ心が和らぐ。

「え?」

 驚いて顔を上げる。

「元気ないから」

 律の言葉に、心が揺れる。

 彼には隠し事ができない。

「そう、?元気だけど」

 笑顔を作って答えるけど、心の中は全然大丈夫じゃない。

 律には心配かけたくないから、無理にでも笑顔を見せる。

「シェフと何かあった?」

 律がさらに問いかける。

 その言葉に、心がドキッとする。

「え、どうして?」

 シェフのことなんて一言も…。

「どことなくお互い気まずそうだから」

 …それだけで。
 律の鋭い観察力に驚く。

 律には何も隠せないや。

「何も無いよ。いつもどうりだと思うけど…」

 必死に否定するけど、

 否定したところでもう、なにかしら気づかれてるのかもしれない。

「そう?喧嘩でもしたと思ってたんだけど」

 律の疑わしげな目が痛い。

 言ってしまいたい。

 元カノと会ったのを見たけど聞く勇気がなくて喧嘩したって。

 でも、シェフと付き合ってるって言えない。

「シェフと私が?まさか、そんなわけないよ 」

 律の心配を振り払うように答える。

 自分の問題を他人に押し付けたくない。

「ならいいけど」

 まだ納得いかないみたいだ。

「心配してくれてありがとう」

「何かあったら何時でも相談乗るから」

 その言葉に、少しだけ心が軽くなる。

「うん、ありがとう」

「じゃ、俺ちょっと用事があるから」

 わざわざ私のために…

 律の優しさに感謝しながら、彼の背中を見送る。



「ごめん、本当の事言えなくて」


 律の背中に向かって小さく呟く。


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