シェフが私のことを好きになる確率

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第34話

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 二人でシェフの家に向かう道すがら、私は何度も彼の横顔をちらりと見た。

 シェフの表情は穏やかで、何を考えているのか分からない。

 その沈黙がかえって胸を締め付けた。

 冷たい風が吹き抜ける中、シェフは私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。

 その優しさが嬉しい反面、心の中では不安が渦巻いていた。

 シェフの家に着いたら、何を言われるんだろう。
 別れ話をされるのか、それとも…。

 冷たい風が肌に触れるたび、身を縮めた。

 胸の奥に渦巻く不安と寒さが混ざり合い、心臓の鼓動がやけに響く。

 冷たい風が吹き抜ける中、シェフがふと立ち止まった。

 私は驚いて足を止め、シェフの顔を見上げた。

 シェフは無言で自分のマフラーをほどき始めた。

「寒いだろ」  

 その一言に、私の胸が少しだけ温かくなった。

 シェフの手がそっと私の肩に触れ、マフラーを首に巻きつける。

 その動作は丁寧で、どこか優しさが滲んでいた。

「これで少しはマシだろ」  

 彼の声は穏やかで、心にじんわりと染み渡る。

 マフラーから伝わる彼の体温と香りが、冷えた体と心を包み込むようだった。

「でも、シェフが寒くなっちゃいます…」  

 小さな声でそう言ったけど、シェフは少し笑いながら首を振った。

「俺は平気。それより、梨乃が風邪ひくほうがもっと心配」  

 シェフの言葉に、何も言えず、ただ頷いた。

 胸が締め付けられるような感覚が広がった。

 私はそっとマフラーに手を添え、シェフの気遣いを感じながら歩き出した。

 冷たい風が吹き抜ける中、彼のぬくもりだけが私を支えていた。

 優しさに触れるたびに、彼との別れが迫っていると思うと、涙がこみ上げてくる。

 彼の家が近づくにつれて、足取りが重くなっていく。

 玄関の前で立ち止まり、深呼吸をして気持ちを落ち着けようとする。

 振ったりしないって言ってくれたけど、それは私が元カノの存在を知らないと思ってるからであって。

 元カノと私のどちらかを選ばないといけないなら、私の事なんて…

 今ならまだ引き返せる。
 走って逃げてしまおうか。

 シェフが鍵を開ける音が響き、ドアが開いた。

「どうぞ」  
 シェフが優しく促してくれる。

 その言葉に従い、私はそっと彼の家に足を踏み入れた。

 もう逃げたりなんかしない。
 ちゃんと終わらせるべきなんだよ。

 私のためにも、シェフのためにも。

 暖かい空気が体を包み込むけれど、心の中の緊張は解けない。

 リビングに入ると、シェフがソファを指差して座るように促してくれた。

 私はシェフの隣に腰を下ろし、手を膝の上に置いてぎゅっと握りしめた。

 ソファの柔らかさが体を包み込むけれど、心の中の不安はますます膨れ上がっていく。

 シェフの横顔をちらりと見たが、相変わらず何を考えているのか分からない。

 その沈黙が、かえって胸を締め付ける。


 視線を落としながら、心の中で何度も言葉を探した。
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