私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第80話

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 階段を上り、自分の部屋のドアを開けた。

 そして、制服に着替え、鏡で身だしなみを整える。

 制服のリボンをきちんと結びながら、心の中で今日一日の準備をする。

 今日も一日、無事に帰って来れますように。
 そう願うのが私の日課になっていた。

 時計を見ると、いつもより15分も早い。

 柊先輩は今日も迎えに来てくれるんだろうか。

 昨日は心配だからって来てくれたけど、毎日来るとは言ってなかったな…。

 少し不安になりながらも、バッグに教科書やノートを詰め込む。

 それとなく電話してみようかな…。

 そんな考えが頭をよぎる中で、朝の静けさを破るように電話が鳴り響いた。

 スマートフォンの画面を見ると、柊先輩からの着信だった。

 心臓が少し跳ねるような感覚を覚えながら、私は電話に出た。

「もしもし、」

「もしもし。おはよう心桜」

 先輩の声が電話越しに聞こえてきた。
 いつもの優しい声に、少しだけ心が安らぐ。

「おはよう、先輩」

 私は笑顔を浮かべながら答えた。

 先輩の声を聞くと、少しだけ心が軽くなる。

「あと10分ぐらいで着くよ」

 その言葉に、胸の中の不安が一気に吹き飛んだ。

 今日も来てくれるんだ。
 嬉しさが心の中に広がる。

「分かった。待ってるね」

 電話を切った後、私はベッドに腰を下ろした。

 気になることは沢山あるけれど、今は気にしないようにしよう。

 沙紀先輩のこと、あの男のこと。

 頭の中が混乱してしまいそうになるけど、今は一つ一つ考えるのをやめるべきだと思う。

 今後のことに備えておくことも必要だけど、今は楽しいことを想像しよう。

 文化祭の準備は忙しいけど楽しい。
 席替えをして、咲月と席が隣になれて嬉しかった。

 それから…先輩が、今日もこうして迎えに来てくれて嬉しい。

 だけど、迷惑かけて…。

 時間が経つにつれて、心の中でネガティブな感情とポジティブな感情が交錯する。 

 やっぱり、全てを忘れることは難しいみたいだ。

 ふと時計に目をやると、先輩が来るまであと少ししかないことに気づいた。

 私は急いで準備を整えた。

 バッグの中身をもう一度確認し、携帯をポケットに入れてから、部屋を出る。

 階段を駆け下りている途中、チャイムの音が家中に響いた。

 胸が高鳴り、緊張と期待が入り混じる感覚が押し寄せる。

 玄関で靴を履き、お母さんに

「行ってきます」
と挨拶をして、ドアを開けた。

 冷たい朝の風が顔に当たり、少しだけ身震いする。 


「せんぱ…」

 先輩、おはよう。
 そう言いかけたけど、言葉が途切れてしまった。


 柊先輩の隣に沙紀先輩がいたからだ。


「心桜ちゃん。おはよう」

 沙紀先輩の笑顔が怖く感じてしまった。



 そっか…


 もう、元の関係には戻れないんだ。
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