私の大好きな彼氏はみんなに優しい

第86話

　その言葉が心桜の心を鋭く刺す。

　彼がどこかで自分を見ているという恐怖が再び蘇る。

　彼の監視の目が常に自分に向けられているという思いが、私の心を冷たく締め付ける。

「近くにいるなら、出てくればいいじゃない」

　次は本気で怖がらせて。

　沙紀先輩が彼にそう命令していた。

　どうやら…物理的にではなく、精神的に私を怖がらせるつもりみたい。

　怖がる必要はないと自分に言い聞かせる。

　何とかしてその恐怖に打ち勝とうとするけど、その努力が報われることはない。

　常にあの男に監視されてるって考えるだけで、頭がおかしくなりそうだ。

　心の中で恐怖と不安が渦巻き続け、彼の言葉が何度も反響する。

「そんなことしたら、意味が無いだろう？」

　意味が無い…？

　彼の冷たい声が、私の心に深い傷を残す。その傷が、彼に対する恐怖を一層強める。

　携帯電話を握る手が汗ばんできて、心桜は再び深呼吸をする。

「まともに話をするつもりがないのなら、もう二度と電話には出ませんよ」

　彼が何を考えているのか、その真実を知るためにどうすればいいのか、自分でも分からないまま。

　次の作戦は、私の監視をして怖がらせることなんだろうか。

　ほんとに、それだけなのかな。

　答えが見つからないまま、再び彼の声に集中する。

「好きにすればいいよ」

　彼の冷たい声が耳に響いた瞬間、胸が締め付けられるような痛みが走る。

「え？」

　電話に出なくていい？

　それじゃあ、一体なんのために電話をかけてきたの。

　私を監視していると伝えるため？

「俺もしばらく心桜ちゃんの前には現れないつもりだから」

　彼がなぜ自分の前から姿を消そうとしているのか、その理由が全く分からない。

　安堵と同時に、何か恐ろしいことが待っているのではないかという不安が交錯する。

　彼が何を企んでいるのか、その真意を知りたいという思いが強くなる。

「どうして、お金はもういいの？」

　震える声で問いかける。

　彼が金銭的な目的で私を脅している訳じゃないのは知ってる。

　命令されて脅してるだけ。

　だからこそ、

　お金を理由にしてでも私を脅さないと、怖がらせないといけないんじゃないの。

　監視されるよりも、脅される方が怖いのに。

「その内、またいつかね」

　曖昧な答えに不安がさらに強まる。
　何を考えているのか、その真意が全く読めない。

　それに、さっきからその話し方は何？
　いつもは凶暴で、暴力的で、相手の話も聞こうとしないのに。

「一体、何が目的なの」

　手は出すなって言われたから、怖がらせる方法を変えたの？

　それとも、油断させてまた会いに来るつもり？


　彼が何を考えているのかを知るための手がかりを探そうとするけど、その答えが見つからないことに対する焦りが募る。