私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第87話

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「俺はただ、心桜ちゃんと仲良くしたいだけなんだけどなぁ」

 冷たい笑い声が耳に響く。

 仲良く…?
 笑わせないで。

 彼の言葉に怒りと恐怖が交錯し、心がざわつく。

 この男は本当に私を苦しめるためだけに言葉を選んでいるのかもしれない。

「冗談もいい加減にして」

 反発しようとするが、その反発が虚しく響くばかりだった。

 こんなにも無力な自分に対する苛立ちを覚える。

「冗談だなんて、酷いなぁ。心桜ちゃんは俺の事なんだと思ってるの?」

 さっきから、どうして私の名前を呼ぶの?
 心桜ちゃんと呼ばれる度に鳥肌が立つ。

 …気持ち悪い。

 彼の言葉が続くたびに、心の中で不快感が広がる。その感情が、恐怖と共に膨らんでいく。

「私の名前を呼ばないで…!」

 必死に叫ぶ。

 誰かに名前を呼ばれる度に、この人を思い出してしまう気がする。

 自分の名前を嫌いになりたくない。

 彼が自分の名前を呼ぶたびに、心に深い傷を残す。
 その傷が恐怖を一層強める。

「あー怖い怖い。心桜ちゃん、俺のことをもっと知りたいなら、いつでも電話してね」

 本当に何を企んでるの…
 深い不安と恐怖を植え付ける。

「するわけないでしょ」

 強がるように答えるが、その声には自信がない。

 毅然とした態度を取ろうとするが、その恐怖に勝つことはない。

「これだけは忘れないで。心桜ちゃんのこと、いつも見てるからね」

 全身が震え、心臓がバクバクと音を立てる。

 きっと、今もどこかで見ているんだ。 

 彼の視線がどこにあるのかを想像するだけで、心が冷たくなる。

 怖がったら、沙紀先輩の思惑通りなのに、恐怖は増す一方だ。

 手が震えて、立っているのもやっとだった。

 まだ何も聞けてないのに、声が出ない。
 恐怖が喉を塞ぎ、言葉が出てこない。

 その瞬間、柊先輩が私の携帯をさっと取り上げた。

「…あっ、」

 私は驚きと戸惑いの声を上げる。

 恐怖が一瞬和らぎ、代わりに驚きと困惑が広がる。

 先輩の行動に驚きつつも、どこかで安堵を感じる自分がいる。 

「いい加減にしてください。これ以上心桜ことを怖がらせるのなら、俺も黙ってませんよ」

 先輩の顔が真剣で、彼が私のために戦ってくれているのが伝わってくる。

 その姿を見て、心が少しだけ和らぐ。

 柊先輩が私から少し距離を取りながら、電話で何かを話し続けている。

 私は先輩の背中を見つめながら、心の中で様々な思いが交錯する。

 先輩が、あの人と何を話しているのか知りたい。

 だけど、私はその場でただ立ち尽くすことしかできなかった。

 …情けないな。


 先輩の言葉に全てを委ねるしかないという無力感が襲ってくる。
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