私の大好きな彼氏はみんなに優しい

第90話

「それなら私も一緒に、」

　沙紀先輩は一歩も引こうとしなかった。

　その話が何なのか、内心気になって仕方ないんだと思う。

　まぁ、あの人に連絡してみれば分かる事なんだろうけど。

「頼む」

　先輩の声が真剣に響く。

「…分かった。遅刻、しないようにね」

　何を言っても無駄だと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。

「あぁ。ありがとう」

　本当に、どうしたんだろう。
　柊先輩が沙紀先輩にそんなことを言うなんて、

「すみません、」

　私は小さな声で謝罪する。

　寒い中待たせた上に、先に学校に行かせることに、ほんの少しだけ罪悪感を感じた。

　まぁ、こんなことになったのは沙紀先輩のせいなんだけど。

「気にしないで」

　沙紀先輩が一瞬だけ、悔しそうな顔をした、気がした。

　もし見間違いでないのだとしたら…。

　沙紀先輩を見送ったあと、柊先輩に話しかけた。

「えっ、と、本当に沙紀先輩を一人にして良かったの？」

　もちろん沙紀先輩が怪我をすることなんてないんだけど、柊先輩は心配じゃないのかな。

「うん。少なくとも…文化祭の間までは」

　先輩の言葉に、胸の中で不安が広がる。

　文化祭まで…？
　それじゃあ、文化祭で何か起るってこと、？

　私の心にさらに不安を植え付ける。

「え？それって、どういうこと、？」

　柊先輩がどうしてそんなことを知ってるの？

　あの男がそう言ったのかな。
　さっき、あの男と何を話しなんだろう。

「…文化祭に来るつもりらしい」

　先輩の言葉が胸に重くのしかかる。

　彼の言葉の意味を理解しようとするが、頭の中が混乱する。

「え…、あの人が、そう言ったんですか、？」

　私は驚きと恐怖が入り混じった声で問いかける。

　あの人が、自分の手の内を明かすようなことするようには思えないけど、

「いや、」

　先輩の言葉が一瞬途切れる。

「じゃあどうして、」

　先輩の勘…？かな。

　私と二人きりで話したい何かがあるんだと思ったけど、私の気のせいみたいだ。

「確実なことは言ってなかったんだけど、彼が文化祭でと言いかけて口をつぐんだ瞬間があってね。その時に、何かを企んでいるんだと思ったんだよ」

　文化祭で、何かをしでかすつもり、なのかな。

「文化祭で…」

　その言葉が私の心に重くのしかかる。

　あの人がが本当に文化祭で何かを企んでいるのか、その答えが見えないまま、不安が広がる。

　先輩の言葉の重みを感じながら、私は心の中で様々な思いが交錯する。

「文化祭で何かを仕掛けるつもりなのかもしれない」

　あの人が何を考えているのか、その答えが見えないまま、不安が膨らむ。

「どうして、」

　文化祭の間までってことは、あと一週間もない。
　それまでは手は出してこないってことだよね。

　その理由も気になる。

「文化祭は大勢の人が集まる場所だから、何か仕掛けてくる可能性は高いと思う」

　確かに、そうなんだろうけど…


　あの人が現れるのは、いつも私の近くに人がいない時だったから、あえて人が沢山いる時に私に会いに来る理由が分からない。



　何をしようとしているのか、想像すらつかなかった。